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空間魔法の理論とは?

 何度目かの錬金の授業の後に、めずらしくローレンが話しかけてきた。

 3人の授業は、必要なことを話す程度で、それほど親しくなることもなく淡々と続いていたのだけど。


「あの……アリスティア様」

「なんでしょう、オルセット男爵令嬢様」

「ローレンと呼んでくださって大丈夫です。同級生ですから」

「では、ローレン様。私のことはアリスと」

「お互いに、様とかやめませんか? 私は男爵令嬢ですが、身分とかを気にしたりしませんから」


 うーん。でも、貴族様だしなあ。信用してもいいんだろうか。

 用心に越したことはないと思って、丁寧すぎるほどの言葉遣いを心がけてきたんだけど。


「それで何か私に御用ですか?」

「あの、アリスは収納スキル持ちなんでしょう? それも荷馬車以上の容量があるって聞きました」

「そうですね。一応」

「その……私も収納スキル持ってるんです。でもちっとも容量が増えなくて。誰に聞いても増やし方を教えてくれないし、そもそもスキル持っている人が少ないものだから」


 ローレンの話では、みかん箱一箱ぐらいの容量から、まったく増えないんだそうだ。

 私はそもそも容量の限界を感じたことがないので、この相談にはアドバイスできないんだけど。


「私もあんまり詳しくはないんだけど、容量って魔力に比例するんじゃなかったでしたっけ?」

「そう聞いています。でも、私、割と魔力ある方なんです。荷馬車程度の容量があってもおかしくないぐらいは」

「そうなんですか……」


 村にいたときの、神官のおじいちゃんの話を思い出してみる。

 確か、亜空間への入口を開くのに大きな魔力が必要なだけで、亜空間自体は無限に広がってるんじゃなかったっけ。

 深く考えたことなかったけど、大きなものを入れようとすると、入口を開くのがうまくいかないとか?

 もしかすると、容量の問題じゃないかも。


「亜空間への入口を開くのに、大きな魔力を消費する……のですか?」

「うん、私に教えてくれた神官様はそう説明してくれたけど。私は収納の中に結構たくさんものを入れてるけど、それに魔力が消費されてる感じはないんだよね。ただ、収納するときに、亜空間へものを移動してるだけ、という感覚かな」

「すみません、収納にものを入れるところを見せてもらえませんか?」

「いいですよ」


 私は教室にあるデスクや椅子をぽいぽいと収納へ放り込んだ。

 いくつか放り込んだ後に、元の位置に戻す。


「まあ、元通りに戻すことができるんですか?」


 ローレンが目を見開いて驚いている。

 うまく説明できる自信がないけど、私の考えている理論を伝えてみよう。

 何かイメージの参考にはなるかも。

 ノートとペンを取り出して、図を描いて説明してみる。


「私が今立っている場所がA地点として、亜空間はB地点。その真ん中に目に見えない境目があって、入口を開くとします。魔力を使うのはAからBへの移動だけ。大きいものだと移動にそれなりの魔力が必要なんだと思う。Bの亜空間は無限に広がっているとイメージしてくださいね。なので、ローレンがみかん箱しか収納できないと思っているのは、実はみかん箱しか移動する力がないということかもしれないです。容量の問題ではなく」

「そうでしょうか」

「私、収納の容量が無制限なんじゃないかって気づいたのは、子どもの頃にわけあって大量のカボチャを収納したことがあるんです。1個1個はたいした大きさじゃないので、それをせっせと1個ずつ。そしたら、いくらでも入れられると気付いたんです」

「小さいものをたくさん、ということですね。それなら、移動に大した魔力が必要ないから」

「そう。それで、だんだん大きいものも収納できるようになっていったんです」

「なるほど……私もカボチャで練習したらいいのかしら」

「いや、カボチャじゃなくてもいいと思いますけど。一気に大量の荷物を動かそうとすると、ダメなんじゃないでしょうか」


 説明していると、ローレンの表情が、少しずつ明るくなっていった。

 練習してみようという気になったようだ。


「それと、さっきの元の場所に戻すのは、どうやってるのですか?」

「あれも、自然と覚えたので私自身は無自覚だったんですけど。多分、亜空間へ移動するときに、元々の場所の座標……というか位置の情報をスキルで記憶してるんだと思います。で、おそらく、これは想像ですけど、亜空間の中は時間経過が止まっているので、ちょっと時間を巻き戻せば元の場所へ戻ってくる。……ということかなあ」


 そこまで説明したときに、教室の後ろ扉から、パンパンパンっと拍手をする音がした。


「正解だ。アリス嬢。自力でそこまでたどりついたのなら、たいしたもんだ」

「セドック先生」

「もう少し補足すると、収納スキルはさっき君が説明していた、A地点とB地点の両方の座標を記憶している。AとBが、1本の糸で結びついているような感じだな」

「だから、亜空間収納内で、ものがごっちゃになったりしないんですね」

「その通り。でないと、収納したものを引っ張り出せないだろう?」


 よかった。私が想像していた理論が正しかったみたいで、スッキリした。

 ついでだから、ずっと気になっていたことを聞いてみよう。


「先生、実は私、ずっと前から気になっていたことがあるんですけど。亜空間の収納の中で物質を移動させることは可能ですか?」

「それはまた、どういう目的で?」

「例えばなんですけど、収納の中のB地点に箱があるとします。そして、C地点にカボチャがあるとします。このカボチャをCからBに移動させて、箱の中に入れることができないかなあって」

「それは、いったん箱とカボチャを外に出して、入れたらすむことなんじゃないのか?」

「それではダメなんです」


 私は実家の野菜の在庫を大量に収納に入れていて、必要なときに実家の倉庫へ送り返していることを説明した。

 A地点へ戻す、というやり方で。

 

「なるほど。C地点にある物質を外へ出さずに箱の中へ移動させることができたら、箱と一緒に実家へ送ることができる、と考えたわけか」

「そうなのです。いったん外へ出してしまうと、座標が変わってしまうので」

「アリス嬢。はっきり言って、その思いつきは素晴らしいと思うぞ。だけど、それは国のトップクラスの魔術師が研究するような課題だ」

「そうですか。やっぱりそうなんですね……残念」


 やっぱりできないのか。残念だなあ。

 いつか、誰かが研究してくれないだろうか。


「諦めるのは早いぞ。君のその座標という概念は素晴らしいし、卒業論文にしてみたらどうだ? 今から3年もあれば、完成するかもしれないじゃないか」

「完成するでしょうか……」

「まあ、完成したら首席は間違いないだろうな」

「アリスってやっぱり入学時首席だけあって、魔力だけじゃなくてすごく賢いのね。驚いたわ。それに時間魔法も使いこなしているだなんて」


 それは、神様がチート能力をくれたからなんですけどね、とは言えないので、なんだか申し訳ない感じだけど。

 卒論のテーマができたというのは、喜ばしいことだ。


「私、アリスの言う通り、小さなものをたくさん収納する練習をしてみるわ! ね、先生、それでいいんでしょう?」

「そうだな。そうして、少しずつ大きなものを移動する練習をするといいだろう」

「これって、もし同じ空間内でできたら、つまり物質の瞬間移動ってことですよね?」

「そうなんだよなあ……その年でそんなことに気づいてしまうのか。アリス嬢は。末恐ろしいな」


 その年でって、私、実年齢プラス18年生きた記憶がありますからね。

 精神年齢30歳ですよん。


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