表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/89

かき氷は意外と難易度が高い

 週末、マリナと一緒に実家へ帰ることになった。

 うちには余分なベッドがないから、寮にあるマリナのベッドを収納に入れて持っていくと言ったら、驚かれてしまった。

 自分で持ち上げる必要がなく、亜空間に放り込むだけなんだけど、収納スキルを持っていない人にとっては驚く光景らしい。


 朝から市場へ買い物に行った。

 予想通り、バニラエッセンスは香料やさんに売ってたし、鮮度の高いミルクや卵も入手できた。

 あとは、ベリーやバナナなどの果物と、チョコレートソース。

 いちごやレモンを煮詰めたソースも売っていて、薄めて果実水にするらしい。

 家族の喜ぶ顔を思い浮かべると、ワクワクしてくる。

 マリナも、私のやりたいことがスイーツづくりだということは、察してくれたようだ。


 調理道具を売っている店をのぞいて、かき氷を削るような道具はないかと探してみたが、それだけは見つからなかった。

 うーん。刃物で削れるんだろうか?

 大根おろしをおろすような器具はあったので、それを買ってみた。

 氷を削れるかどうかは不明。


 一週間ぶりの我が家だけど、学園で密度の濃い毎日を送っていたせいか、ずいぶん久しぶりな気がする。

 玄関には家族総出で迎えてくれた。といっても、3人だけど。


「お父さん、お母さん、カイル、ただいま。お友達連れてきたよ」

「まあ、こんなところにわざわざようこそ。来てくださってうれしいわ」

「学園で同じクラスの、マリナって言います。今日はお世話になります!」


 手紙で知らせてあったので、お母さんはお料理をたくさん作って待っていてくれたようだ。

 カイルは少し人見知りしていて、お父さんの後ろに隠れている。


「少し休んだら、農園を案内するね。薬草がほとんどだけど、野菜もあるの」

「冷たいジュース作ろうか!」


 買ってきた果実水にマリナの氷を入れてもらって、家族にはすごく喜ばれた。

 お母さんなんて、「いい友達ができたのね……」と言いながら、涙ぐんでいる。

 いつから泣き上戸になったんだろう。

 最初は隠れていたカイルも、冷たい果実水の魅力には勝てなかったらしく、おかわりをせがんでいる。


 農園にはミントやラベンダーに似た薬草があるので、それを少し収穫した。

 スイーツの飾りにしようと思って。

 それから、久しぶりの水やり。

 広い畑に、霧状の水をまく。

 それを見ていたマリナが、私もできるといって手伝ってくれた。

 これって、やっぱり風魔法の応用だよね。今ならわかる。

 ふたりで思い切りスプリンクラーのように水を撒き散らして、これが結構ストレス発散になった。

 頭からシャワーを浴びたみたいになって、大きな声で笑った。


「あー楽しい。こんな楽しいこと初めて」

「そう? 畑を見るのって初めて?」

「薬草畑は初めて。すごくいい匂いがして、癒やされるねえ。うちの家の近くは、潮の香りしかしないもん」


 水やりをした後の畑は、マイナスイオン出まくりで、薬草の匂いがして本当に癒やされる。

 都会では味わえない幸せだね。


 その晩は家族と一緒にごちそうを食べて、おみやげに買ってきたケーキも食べた。

 マリナは弟と妹がいるだけあって、カイルの扱いも慣れたものだ。

 カイルもすぐに懐いて、「マリナお姉ちゃん」と言って、ニコニコしている。


 翌日は、朝から待望のスイーツ作りだ。

 まずは、卵と砂糖とバニラエッセンスをホイップして、煮立てた特濃のミルクを少しずつ加える。

 おおざっぱな作り方だけど、多分これでそれっぽい味になるはず。

 

「ここでマリナの出番!」

「これを凍らせたらいいの?」

「そう。お願いします」


 ちょっと不思議そうな顔をしながら、マリナが凍らせてくれた。

 どんな味になるのか、想像できないみたい。

 出来上がったものを、大きめのスプーンでシャリシャリと混ぜる。

 うん。ジェラートみたいな感じ。


「うっわー! おいしいー!」

「ほんと、すごくおいしいわ!」

「これは、めずらしいな!」


 カイルは、おいしいおいしいと叫ぶように言いながら食べている。

 そうでしょう、そうでしょう。

 めったに食べられない極上のスイーツですもん。


「こんな美味しいの、簡単にできるんだ。私、今度弟や妹にも作ってあげよう」

「マリナの氷結スキルって、ほんとすごいよね。私は作れないもん」

「でも、私がいるときにたくさん作っておけば、アリスは保存しておけるよね?」

「そうなのです。協力お願いしまーす」


 バニラアイスだけじゃなくて、バナナを凍らせてつぶしたものにチョコをかけたり、果実水を凍らせてシャーベット状にしたり。

 カイルはご満悦。

 あとはかき氷なんだけど……


 これがうまくいかなかった。

 前世のかき氷機で削ったような、ふわふわの氷が作れない。

 大根おろし器では無理みたい。


「うーん、もっとふわふわに削る方法ないかなあ」

「氷を削ればいいのか?」


 好奇心いっぱいのお父さんが、横から口をはさんでくる。

 なんせ、氷がたくさんあるということ自体、我が家ではめずらしいことなのだ。

 ちょっと貸してみろ、と言ってお父さんは氷をひとつつかむと、よく研いだナイフで削り始めた。

 おお、粉雪のようにキレイに削っている。


「お父さん、それよ! それ!」

「これでいいのか?」


 お父さんがせっせと削ってくれたかき氷に、いちごシロップをかけて、果物をトッピングする。

 私も削ってみようとしたんだけど、お父さんの方が早くて上手だ。


「これね、マリナが氷を作れるって知ってから、ずっとやってみたかったんだ!」

「よくこんなこと思いつくよねえ。私今までいろんなもの凍らせてきたけど、この発想はなかった」

「おいしいよねえ。マリナ、辺境伯で働くのなんかやめて、スイーツ屋さんやればいいのに。絶対儲かるよ」

「確かに……就職に困ったら、そういう道もあるよね!」

「なんなら、私が在庫保存してあげるから、ふたりでお店やろう!」


 マリナと一緒に、学園の近くで屋台でもできたらいいのにな。本当に。

 楽しいおやつの時間はあっという間に過ぎて、学園に戻らないといけない。

 カイルは「マリナお姉ちゃん、また来てくれる?」と言って悲しそうな顔になった。

 マリナは週末の休みに、特に用事がなかったら、また一緒に来てくれるって!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ