かき氷は意外と難易度が高い
週末、マリナと一緒に実家へ帰ることになった。
うちには余分なベッドがないから、寮にあるマリナのベッドを収納に入れて持っていくと言ったら、驚かれてしまった。
自分で持ち上げる必要がなく、亜空間に放り込むだけなんだけど、収納スキルを持っていない人にとっては驚く光景らしい。
朝から市場へ買い物に行った。
予想通り、バニラエッセンスは香料やさんに売ってたし、鮮度の高いミルクや卵も入手できた。
あとは、ベリーやバナナなどの果物と、チョコレートソース。
いちごやレモンを煮詰めたソースも売っていて、薄めて果実水にするらしい。
家族の喜ぶ顔を思い浮かべると、ワクワクしてくる。
マリナも、私のやりたいことがスイーツづくりだということは、察してくれたようだ。
調理道具を売っている店をのぞいて、かき氷を削るような道具はないかと探してみたが、それだけは見つからなかった。
うーん。刃物で削れるんだろうか?
大根おろしをおろすような器具はあったので、それを買ってみた。
氷を削れるかどうかは不明。
一週間ぶりの我が家だけど、学園で密度の濃い毎日を送っていたせいか、ずいぶん久しぶりな気がする。
玄関には家族総出で迎えてくれた。といっても、3人だけど。
「お父さん、お母さん、カイル、ただいま。お友達連れてきたよ」
「まあ、こんなところにわざわざようこそ。来てくださってうれしいわ」
「学園で同じクラスの、マリナって言います。今日はお世話になります!」
手紙で知らせてあったので、お母さんはお料理をたくさん作って待っていてくれたようだ。
カイルは少し人見知りしていて、お父さんの後ろに隠れている。
「少し休んだら、農園を案内するね。薬草がほとんどだけど、野菜もあるの」
「冷たいジュース作ろうか!」
買ってきた果実水にマリナの氷を入れてもらって、家族にはすごく喜ばれた。
お母さんなんて、「いい友達ができたのね……」と言いながら、涙ぐんでいる。
いつから泣き上戸になったんだろう。
最初は隠れていたカイルも、冷たい果実水の魅力には勝てなかったらしく、おかわりをせがんでいる。
農園にはミントやラベンダーに似た薬草があるので、それを少し収穫した。
スイーツの飾りにしようと思って。
それから、久しぶりの水やり。
広い畑に、霧状の水をまく。
それを見ていたマリナが、私もできるといって手伝ってくれた。
これって、やっぱり風魔法の応用だよね。今ならわかる。
ふたりで思い切りスプリンクラーのように水を撒き散らして、これが結構ストレス発散になった。
頭からシャワーを浴びたみたいになって、大きな声で笑った。
「あー楽しい。こんな楽しいこと初めて」
「そう? 畑を見るのって初めて?」
「薬草畑は初めて。すごくいい匂いがして、癒やされるねえ。うちの家の近くは、潮の香りしかしないもん」
水やりをした後の畑は、マイナスイオン出まくりで、薬草の匂いがして本当に癒やされる。
都会では味わえない幸せだね。
その晩は家族と一緒にごちそうを食べて、おみやげに買ってきたケーキも食べた。
マリナは弟と妹がいるだけあって、カイルの扱いも慣れたものだ。
カイルもすぐに懐いて、「マリナお姉ちゃん」と言って、ニコニコしている。
翌日は、朝から待望のスイーツ作りだ。
まずは、卵と砂糖とバニラエッセンスをホイップして、煮立てた特濃のミルクを少しずつ加える。
おおざっぱな作り方だけど、多分これでそれっぽい味になるはず。
「ここでマリナの出番!」
「これを凍らせたらいいの?」
「そう。お願いします」
ちょっと不思議そうな顔をしながら、マリナが凍らせてくれた。
どんな味になるのか、想像できないみたい。
出来上がったものを、大きめのスプーンでシャリシャリと混ぜる。
うん。ジェラートみたいな感じ。
「うっわー! おいしいー!」
「ほんと、すごくおいしいわ!」
「これは、めずらしいな!」
カイルは、おいしいおいしいと叫ぶように言いながら食べている。
そうでしょう、そうでしょう。
めったに食べられない極上のスイーツですもん。
「こんな美味しいの、簡単にできるんだ。私、今度弟や妹にも作ってあげよう」
「マリナの氷結スキルって、ほんとすごいよね。私は作れないもん」
「でも、私がいるときにたくさん作っておけば、アリスは保存しておけるよね?」
「そうなのです。協力お願いしまーす」
バニラアイスだけじゃなくて、バナナを凍らせてつぶしたものにチョコをかけたり、果実水を凍らせてシャーベット状にしたり。
カイルはご満悦。
あとはかき氷なんだけど……
これがうまくいかなかった。
前世のかき氷機で削ったような、ふわふわの氷が作れない。
大根おろし器では無理みたい。
「うーん、もっとふわふわに削る方法ないかなあ」
「氷を削ればいいのか?」
好奇心いっぱいのお父さんが、横から口をはさんでくる。
なんせ、氷がたくさんあるということ自体、我が家ではめずらしいことなのだ。
ちょっと貸してみろ、と言ってお父さんは氷をひとつつかむと、よく研いだナイフで削り始めた。
おお、粉雪のようにキレイに削っている。
「お父さん、それよ! それ!」
「これでいいのか?」
お父さんがせっせと削ってくれたかき氷に、いちごシロップをかけて、果物をトッピングする。
私も削ってみようとしたんだけど、お父さんの方が早くて上手だ。
「これね、マリナが氷を作れるって知ってから、ずっとやってみたかったんだ!」
「よくこんなこと思いつくよねえ。私今までいろんなもの凍らせてきたけど、この発想はなかった」
「おいしいよねえ。マリナ、辺境伯で働くのなんかやめて、スイーツ屋さんやればいいのに。絶対儲かるよ」
「確かに……就職に困ったら、そういう道もあるよね!」
「なんなら、私が在庫保存してあげるから、ふたりでお店やろう!」
マリナと一緒に、学園の近くで屋台でもできたらいいのにな。本当に。
楽しいおやつの時間はあっという間に過ぎて、学園に戻らないといけない。
カイルは「マリナお姉ちゃん、また来てくれる?」と言って悲しそうな顔になった。
マリナは週末の休みに、特に用事がなかったら、また一緒に来てくれるって!




