表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/89

錬金は人気がないらしい

 超楽しみにしていた「錬金」の授業。

 教室に入って、ちょっと驚いた。

 生徒は私を含めて3人……

 先生はすでに来ていて、あわてて着席する。

 研究者の白衣のような服装で、ボサボサ頭の男の先生だ。

 30代ぐらいだろうか。


 すでに男子ひとり、女子ひとりが、一番前の席に離れて座っている。

 見覚えのあるふたり。

 入学式で地味だなーと思っていた、お下げ髪の女の子と、オタクっぽいモヤシくんだ。

 軽く挨拶をして、ふたりの間に座る。


 「あぁ、揃ったようなので、授業を始める。まずは自己紹介をしよう。私はマンガス・セドック。辺境伯領の鉱山研究をしている。錬金は3人しかいないので、気楽にやろう。君たちも自己紹介してほしい」


 おさげの女の子は、ローレン・オルセットと名乗った。男爵家長女らしい。

 モヤシくんは、ケイシー・ノラン。子爵家3男。カイウス辺境伯の分家だとか。

 私は名乗る苗字もないので、平民だと前置きして、実家は農園だと自己紹介した。


「では、まず授業の前に、なぜ錬金を選択したのか、それぞれ目的を話してほしい。それによって、今後の授業も実践的なものにしていけるからな」

「私は、男爵家の跡継ぎで、いずれ鉱山の管理をしなければなりません。そのための勉強をしてこいと言われています。それと、趣味として貴金属の加工に興味があります」


 男爵家の跡継ぎ、という言葉に、もやしくん、いやケイシーくんがぴくっと反応していた。

 子爵家3男だと、婿入り先を探してるのかもしれない。

 このふたり、結婚したらぴったりじゃない?とか思ってしまう。

 それにしても、貴金属の加工って、貴族らしい趣味だなあ。

 アクセサリーとか作れるのかな?


「僕は、魔力はあるけれど、体力がないし、跡継ぎでもない。学園卒業した後仕事に困ったら、金属の加工職にでもつこうかと思って」


 うーむ。なんともマイナス思考。

 せっかく貴族に生まれて、学園に入れてもらってるのに、金属加工所で働くつもりなのか。

 子爵家の3男ってそんなに就職厳しいの? 平民と変わらない感じだ。


「私は、卒業後は実家の薬草農園で働きます。そのため、土の加工に興味があります」


 ふむふむ、と納得したように、先生はメモをとっている。

 3人しかいないから、それぞれの目的に合った内容を教えてもらえるとありがたいな。


「よし、だいたいわかったぞ。このクラスは3人しかいないが、成績上位者ばかりだ。皆家業のことを考えていて、しっかりしている。仲良くするんだぞ」


 3人で顔を見合わせると、ローレンは私に向かってよろしくと言うように軽く頭をさげた。

 真面目そうで、悪い人じゃなさそうだ。

 セドック先生も、ちょっとだらしなさそうな見た目だが、屈託のない人みたい。


 そこからは、錬金でどんなことができるのか、という概要を教えてもらった。

 『錬金術』と言うと、魔法で金を作り出せるというイメージだが、実際は違う。

 地中の成分を分解して、そこから特定の金属だけを抽出するということらしい。

 金は金鉱山にしかないし、採掘するのは平民の労働者だ。

 鉱山労働者は、犯罪者や強制労働者などが多く、職場としては人気がない。


 しかし、高度な錬金ができる人は少ないため、就職に困ることはないそうだ。

 そりゃそうだよね、ここにすら3人しかいないのに、いったい世の中に錬金術師がどれだけいるのか。

 ケイシーくん、案外堅実だったんだね。


 3人のうち2人が金属加工をしたいということで、まずは簡単な金属の加工から教わる方針になった。

 私が錬金を選んだのは、ほとんど興味本位なので、別に問題はない。

 趣味でアクセサリーとか加工できるようになるといいな。


 セドック先生は、まずイメージできることが大切だと言って、石や土の入った箱をいくつか用意していた。

 それぞれ、違った金属が含まれていると言う。


「まずは、わかりやすいところで、鉄だ。石や土には鉄分が含まれていることが多い。鉄を抽出して加工できるようになれば、なんでも作れるぞ。それこそ武器でもな」


 セドック先生が土の上に手をかざすと、にじみ出るように鈍い色の金属が浮き出てきた。

 そして、それが手のひらに乗るぐらいの小さな塊になった。

 まるで魔法みたい……というか、魔法だった。


「まあ、こんな感じだ。まずはこれができるようになってもらう。錬金の基本だからな。加工はその次の段階だ」


 鉄の色や質感、性質などをしっかり頭に思い浮かべて、土を分解するイメージ。

 すごく抽象的で難しい。

 今まで水を出したり、野菜を育てたりしてきたけど、それよりはるかにイメージしにくい。

 ローレンはさすがに鉱山を所有する貴族家なので、あっさりと鉄の抽出に成功していた。

 子どもの頃からやっていたらしい。


 高校で習った元素記号というのを思い出す。

 試験に出るので、それだけは暗記していた。

 鉄はFeだっけ。

 あと、土に含まれていそうな金属っていうと、銅とか?


 作物の成長に必要なのは、確かカリウムだ。

 ということは、『大きくなあれ』の魔法は、無意識にカリウムを操っているということか。

 ミネラルを集めていたのかも。


 「おい、こら。アリスティア嬢。何をイメージしてる?」


 いけない、ぼーっと考え事をしながら魔力を出してたら、土の表面が白っぽくなってしまった。

 なんだこれ。鉄じゃないよね。

 セドック先生は、土の白くなった部分を指でつまんで、しげしげとながめた。


「はははっ、こりゃあ……畑の肥料だな」

「えっ、あっ、すみません。つい別のことを考えてしまって」

「いや、いいぞ。これはこれで、アリスティア嬢の目的に合っているからな。抽出のイメージがつかめれば今はそれでいい」

「肥料なんですか?」

「まあ、成分の調整は必要だろうけど、肥料に混ぜて使えるな」


 へえ。ちゃんと作れるようになったら、両親が喜ぶだろうなと思ったら、ちょっとうれしい。

 ケイシーくんもなんとか純度の低い鉄を生成できたようで、今日の授業はそこで終わった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ