魔術科の選択科目が面白い
翌日はオリエンテーションの日で、魔術科の授業の説明や、選択科目の提出、教材の販売などが行われた。
私たちはもちろん、教材も無料ですよ。
ちなみに食堂もタダです。素晴らしい。辺境伯様に感謝。
お父さんが言ってたけど、王都に比べて辺境伯領は実力主義なんだそうだ。
役に立つ人材は、平民であっても重用されるんだとか。
魔術科は他の科と違って、授業への出席は自由選択制になっている。
もちろん、全員参加の一般教養の授業はあるが、それほど多くない。
それぞれ、自分が専門的に勉強したい内容の授業を選んで、それを提出する。
属性が違うと、一緒には教えられないようだ。
私は、水魔法を最優先で勉強すると決めていた。
土魔法は母が少しは使えるし、火魔法はカイルがそのうち覚えるだろうから。
それに火魔法は攻撃に向いているから、これを極めると軍隊まっしぐらだ。
水魔法の選択科目は、ポーション作成やら、浄水など、実用的なものが多い。
「転写」なんていう科目があって、何かと思ったら、インクで書かれた図や文書などを複写できるんだそうだ。
文官として重宝されるスキルらしい。
基本的に液体を操れるので、複写以外にも印刷関係でいろんなことができそうだ。
まあ、私は文官には興味がないので、そのへんはスルーだけど。
後は、『治癒』が水魔法だ。
これが貴族女性には大人気で、ほとんどの人が治癒士を目指しているようだ。
良い嫁入り先を選べる、という理由らしいけど。
血液の流れを良くしたり、火傷を治したりできるらしいが、すごく難しそう。
私のように農業の片手間で習得するのは無理だろうなあ。
マリナと一緒に、先にだいたいの水魔法の授業を決めて、あまった時間で土魔法の授業を選択する。
すると、『錬金』という授業があった! なにそれ、面白そう。
説明を読むと、『土の中から金属の成分を取り出す』などという地味な作業などをするらしい。
下働きのような仕事だから、貴族様は嫌がるだろうけど、私は興味がわいた。
土の成分を操れるようになったら、きっと農業にも役立つと思うのだ。
授業の選択は、半年ごとに変更もできるらしいので、とりあえず興味のあるものを決めて提出した。
ちなみにマリナは、それなりに魔力量があるので、風魔法の授業にも出てみるようだ。
実家が船で漁業をしているので、風には興味があるんだね。
一般教養の方にも選択科目があって、ちゃんと「マナー講座」や「ダンス講座」があった。
平民でも参加できるのか一応聞いてみたら、むしろ推奨すると言う。
貴族の人はすでにそういった教育を受けているので、まったく知らない人のための基礎講座らしい。
今後も学園でパーティーが開催されることはあるので、これはマリナとふたりで参加を決めた。
辺境伯家の侍女や家令をしている人が教えてくれるらしく、普通科や商業科の人たちと一緒に受けるようだ。
◇
オリエンテーションの翌日から、さっそく授業がスタートした。
午前中は魔術科の共通科目で、「魔術基礎理論」の座学である。
貴族の人とは違って、今までそういうことを教えてくれる人がいなかったし、教科書を見るのも初めてだ。
きっと必死で勉強しないと、ついていけないだろうと思う。
入学したときに『首席』だったから、なんとか維持したいところだけれど。
まず最初は4属性の特性や、できることなどの説明からスタート。
必死でノートをとっているのは、私とマリナだけだ。
知らない情報が次々と出てきて、頭がパンクしそう。
貴族の人たちは、そんなことは当たり前だというような顔で、授業を聞いている。
この授業で、面白いことを知った。
魔法には4属性魔法以外に、時間や空間を扱う上級魔法が存在するそうだ。
無属性魔法と呼ばれている分野で、4属性魔法の補助として使われるらしい。
たとえば、マリナが凍らせた水を、先生が元の水に戻した。
一見簡単なように思えるけど、これは氷という物体の時間をほんの少し巻き戻しているらしい。
スキルというのは、なぜそんなことができるのか、解明されていないものも多い。
収納スキル持ちがレアなのは、生まれつき空間を操ることができるからだそうだ。
そこで気づいてしまった。
収納に入れたものを、元の場所へ戻すスキル。
あれって、時間を巻き戻しているんじゃないだろうか。
私は自然と使えるようになったけど、レア中のレアかもしれないなあ。
いずれ空間魔法について勉強してみたいと思ったけど、そんなことを研究しているのは国の研究所の上級魔術士レベルの人らしい。
私には無理か。
午前中の座学が終わり、昼食を食べてから、私は錬金の授業へ。
今のところ、同じクラスの人は会釈で挨拶をする程度で、これといった問題は起きていない。
向こうも私に関心がなさそうだ。ありがたい。
このまま平穏な3年間を過ごせますように。
マリナは風魔法の授業に出るので、放課後に寮でまた話そうと言って別れた。




