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大量に収納した作物をどうするか

 いよいよ学園に入学ということになって、ひとつ問題があった。

 いままで溜め込んできた、収納の中にある大量の作物をどうするか、ということだ。

 私が寮に入ってしまうと、実家では必要なときに在庫を引き出すことができない。

 自宅で消費する食料ぐらいは、週末に帰って出しておけばいいんだけど、急に必要になったときにはどうするか。


 この問題は、ひょんなことから解決した。

 「収納したものを、元の場所へ戻す」というスキルの使い道を発見したからだ。

 たとえば、テーブルの上にあったペンを収納して再び出そうとしたときに、元の位置に戻ることをイメージすると、ちゃんとテーブルの上に出すことができる。

 これを、よその場所へ出すことはできないんだけど、収納したときの位置に戻すことはできるのだ。

 つまり、目の前に出すのか、元の場所に出すのかを選択できる。

 意識せずに自然とやっていたことが、役に立った。


 それに気づいたので、一日がかりで広い倉庫に、収納したものを出して入れ直した。

 これが大変な作業だったけど、これで「自宅の倉庫へ戻す」ということができる。

 万が一急に在庫が必要になったときは、早馬で手紙を出してくれたら、半日で届く。

 便利なスキルを見つけてよかった。

 つまり、収納スキルというのは、物質を瞬間移動させる機能でもあるわけで。

 収納したときの『座標』を記憶しているようだ。位置情報ね。

 これはもっと使い道があるかもしれないと思う。

 

 例えば、箱。

 自宅で箱を収納する。

 その箱に中身をつめて、元の位置に戻す。

 これができるとすごく使い道が広がる。

 ただし、これをやろうとしたら、収納の中で箱に中身を入れる必要がある。

 一度箱を出してしまうと、その座標が新たに記憶されてしまうからね。

 もし、収納内で箱に中身を入れて自宅へ戻すことができたら、宅配便として使えるんだよなあ。

 そのへんのことは、学園で勉強するうちに解決できるかもしれないと思い、ノートにアイデアをメモしておく。

 これができるようになったら、宅配革命が起きそうだ。

 配達したい家であらかじめ箱を収納しておく必要はあるけど。


 

 準備を整えて、入学式の前日、学園の寮に向かった。

 入学式には親も参加できるんだけど、うちはカイルがいるからね。

 それに、家に使用人がいないから留守にするわけにもいかないし。

 両親は心配してたけど、私はひとりでも大丈夫。


 学生寮は、所謂ワンルームというやつで、10帖ぐらいの部屋に簡易キッチンがついている。

 コンロは魔道具でガスコンロみたいなやつ。

 さすが魔術科のある学園の寮で、貴族様向けの最新仕様だ。

 なんとシャワールームもついていて、これも魔道具! すごい。

 実家につけてあげたいなあ、と思う。

 うちなんてつい最近まで井戸の水を汲んで沸かしてたからね。


 私がいなくなって、畑の水やりが大変だろうなあと思ったんだけど、お父さんは心配しなくていいと言った。

 私がいないと維持できない畑ではダメだから、必要なら人を雇うと言って。

 まあでも、野菜と違って薬草は週に1、2度水やりをするだけでも育つから。

 あとはカイルが頑張ってお手伝いしてくれることを祈る。


 収納から荷物を出して部屋を整えていると、コンコンと小さくノックの音がした。

 

「マリナちゃん! よく部屋がわかったね? 今着いたの?」

「うん、下の管理室で聞いたら、隣だったの」

「隣? うれしい!」

「うん、どうやらこの階は私達だけみたいだよ。貴族の女性は別の階なんだって。もっと広い部屋らしい」

「ああ……そういうことね。でも、この部屋だって十分広いと思わない?」

「広いし、設備もいいよね。私の貧乏な実家よりずっと贅沢」

「うちも、シャワーなんてないし、魔道具コンロなんて初めて見た!」

「本当に魔術科に入学できたんだって、実感わいてきちゃった」


 マリナちゃんの話では、貴族の人は侍女とか従者とかを連れていることが多く、2LDKとか3LDKとかの部屋らしい。

 そのへんは爵位によって、差があるようだ。

 でもはっきり言って、前世のあのワンルームよりはるかに良い部屋だ。

 そして、今の私には無限に近い収納があるしね!

 今まで大量にいろんなものを入れてきたけど、いまだに入り切らないということがないから、収納力は計り知れない。


 窓から見える学生寮の門のところには、貴族の子息や子女が到着して、大型の馬車がひしめくように停まっている。

 裕福な人たちは、家具まで持参してきたようだ。大層な引っ越し作業をしているのが見える。

 私の収納は、どんなに大きな家具でも運べるし、目の前でイメージしたように出せる。

 力も必要ない。私、いざとなったら引っ越しやさんで稼げるんじゃないだろうか。


 マリナちゃんも小さい弟妹がいて、両親は入学式に参加できないらしい。

 仲間がいてよかった。

 その晩は、私が自宅から持ってきた母の手料理と、マリナちゃんの実家特製の干物を焼いてもらって、一緒にごはんを食べた。

 マリナちゃんって、長女だけあって、お料理や家事が得意みたい!

 あ、私も長女だった……



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