【第一部】狭い部屋に、荷物が入り切らない
新連載、完結済みです。一気に書きましたので、色々矛盾点とかあるかもしれませんが、広ーい心で読んでいただけるとうれしいです。
私、松井美玖、18歳。天涯孤独。
物心つく前に父は亡くなり、顔も覚えていない。
女手一つで育ててくれた母も先日病気で亡くなってしまった。
だから、大学進学を諦めて、高卒で就職した。
進学は母の希望でもあったけれど、少しでも早く楽をさせてあげたくて、勝手に進路を変更していたのが思いがけず役に立った。
職場に近くて、一番家賃の安かったワンルームマンションに引越した。
幸い、大学に通えるぐらいの貯金は、母が残してくれていた。
真面目に働けば、なんとか食べていけるだろう。
それにしても……狭い。
積み上がった段ボール箱の山を見て、大きなため息をつく。
かろうじてベッドと机を置いたけれど、それ以外の床は箱、箱、箱……箱の山。
ピサの斜塔だっけ? あんな感じに傾いた段ボールタワーがいくつもそびえている。
どうすんの、これ。
失敗した。
初めて部屋を借りるので、家賃のことしか考えていなかった。
ここにはほんの小さなクローゼットがあるだけで、収納がない。
なんとか室内に箱を積み上げてくれた引っ越し屋のお兄さんたちも、申し訳無さそうな顔をしていたぐらい。
はあ……断捨離するしかないか。
これでも結構処分したつもりだったんだけどなあ……
母との暮らしを思い出すものは、捨てきれずに持ってきてしまった。
仕方ない。
2、3年働けば、少しは貯金もできるだろうから、その時はまた引っ越そう。
素敵な収納がついた部屋に引っ越すことを目標に頑張ればいいや。
母が亡くなってから、高校を卒業するまでは、叔母のところに世話になっていたけれど、これでようやく独り立ち。
いろいろあって疲れたな……と、段ボール箱をよけて、ベッドでウトウトと横になっていたときに。
突然地鳴りとともに、部屋が揺れた。
地震!?
逃げなきゃっ!!!
ーーー痛いっ!!!
飛び起きるよりも、積み上がった荷物が崩れる方が早かった。
頭の上に何か固いものが落ちてきて、意識が朦朧とする。
やばい。怪我したかも。
起き上がろうと思うのに、身体が動かない。
頭がガンガンする……
そのときに、頭の中に老人のような声がした。
「そなたをこれより転生させる。望みがあるならひとつだけ叶えよう」
転生? この非常事態に、何ふざけたこと言ってんの。
それより、誰かいるなら落ちてきた荷物なんとかしてよー!
動けない! 痛いよー!
「……混乱するのも無理はないが、時間があまりない。次の世界で望むものをひとつだけ言いなさい。それに見合った能力を授けよう。そして、その能力で新しい人生を生きなさい」
頭の中の声が、淡々と語りかけてくる。
望むもの?
そんなもの、決まってるじゃん。
収納よ!!
それも世界一の収納をちょうだい!!
なんでも入る魔法のような収納がいい!
「そなたは今生で苦労をした。世界一の収納をやろう。達者で暮らせよ」
その後の記憶はない。