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第31話「決戦Ⅰ/ジャストライブ・モア」

【前回までのあらすじ】

 不老不死の身となり、札伐闘技の儀式を影から操っていた男・吉良ヒラカズは倒された。

 だが、代償として——勝者である剣守カイリはその精神力を使い果たし燃え尽きてしまう。

 吉良はその空の器と化したカイリに、精神力の絞りカスを込めた最後の手札を投擲し——歴代参加者全ての精神の残滓、その凝縮体として受肉を果たす。

 その名を、キメラエゴ・ムガ(無我)

 何者でもあり何者でもない存在となったムガを追い、カザネとカナタはバイクでタンデムし、ツルギモリコーポレーション本社ビルを目指し疾走するのだった——!



 ヘルメット越しに私がバイクの後部座席から見た光景は、凄惨なものだった。

 ——ツルギモリ本社ビルが、燃えている。


 あれは、何が起こってるの……?

 ちょっとやそっとの暴動ではとてもあんなタワーのそこかしこから黒煙や爆炎が発生するわけがないし、そもそも今回はムガの単独行動のはず。だからあんなことになるとは到底思えない——


 そう思った直後、要因が判明した。


「——うそ。あれもしかして、()()()()()()()……?」


 タワーの外壁、崩壊部から見える施設内、そして周辺の空。それらを埋め尽くさんばかりの、多種多様なセンチネルの群れ——いやあれはもはや軍勢だ——が出現していた。


 ——もうどうしようもないほどに、私が望むまでもなく、札伐闘技は儀式としてはとっくに終わってしまっていた。


「——運営代行者である吉良が死んだことで、儀式の形式が崩壊しているんだろうな。カードを用いたセンチネル同士の戦いそのものは——おそらく据え置きだったんだろう。だが、」

「今の一対一の決闘方式を取り決めたのが吉良先生だったってこと?」

「推測の域を出ないが、まあそうなるだろうな」


 カナタの声色もどこか重苦しく、私も例外なく緊張下に置かれて、どうしようもなく唾を飲み込む。タワーへは着実に近づいている。この状況で私ができることと言えば——


「……ねえカナタ。このメチャクチャな状況、あのセンチネルの群れに対して私たちはやっぱフダディエイトのルールに則った戦いをするしかないのかな」


 私の問いにカナタは「いや」と答え、そして続ける。


「この後試すしかないが……ルールが崩壊している以上、その崩壊はおそらく俺たちにも適用されるだろう」

「じゃあつまり、私たちも好きなタイミングでセンチネル召喚やスキルカード発動ができるかもってこと?」


 カナタがカードをドローすると、フダディエイト中でないにも関わらず、カードにオーラが迸る。——どうやら本当に任意のタイミングで召喚できそうだ。でもバイクの運転中はドローしない方がいいと思う。バイクに乗りながらカードゲームすることってたぶんないよね?

 けれど、カナタの表情はどこか険しい。


「これを見るに、そうなるだろうな。

 だがこの状況、普通に考えれば——フダディエイトの形式に持ち込んだ方が、秩序立ったルールによって多対一のような状況から一対一の形式に持ち込める分、相対的に有利だ。

 つまり、この俺たちvsセンチネル軍団のような状況ではジリ貧にもほどがある」


「うっ確かに。でも、じゃあどうするのこれ。どうしたって突破するしかないってのに」


 n回目の問いに、カナタはバイクを加速させながらこう言った。


「定石を使う——正面突破で混乱した合間を掻い潜る!」

「定石っつーか強行突破じゃん!!!!!!!!」


 カナタは、私よりも猪突猛進だったようです。軍師いねーじゃん!


 ◇


「おりゃあーーーーー!! 『デザイアブレイド-レイジ』と『ザンゲツ』を召喚! 活路を切り拓くわよォォーーーーー!!」

「——『ヴォイドフレーム-フェイタルイーター』の特殊効果を発動! これにより、フェイタルイーターは周囲の敵センチネルの効果を吸収し、さらにAPを0にする。そして——それら全てを攻撃する!」


 カナタの召喚した黒い骨組みだけの機兵が、ワイヤーのようなもので周囲のセンチネルを破壊し、その混乱に乗じて私の召喚した剣士二人の斬撃が前方のセンチネルを切り崩していく。二段構えの攻撃によって着実に本社ビルまで一本道が出来上がりつつあった。


「ツルギモリの警備も動いていない——っていうか、機能不全ってこと?」

「おそらくこのセンチネルたちは、歴代札闘士たちの残滓から生み出されたセンチネル。当然その中にはデッキのエース級も存在するだろう。であれば対処は困難だ。巨大兵器級のセンチネルが出てきていないだけマシかもな」


 巨大兵器級となると、極端な例だけどアリカの『コスモブレイズ・ブラックサレナ』みたいなセンチネルや、私のアサルト・タキオン——20mぐらいある——がそっち方面に該当するのだろう。双方共にエースの中でも更に特殊な召喚方法で場に出すカードだから、この状況でもそう簡単に出せるものではないってことだと名推理。


 まあそういうことだろうと割り切って、そんなデカブツが敵として出てこない内に突っ切っておくのが無難オブ無難。本当に時間の問題かもしれないから、私たちはとにかく急ぐしかなかった。


「カナタ、速度もっと出せる?」

「最大に高めた俺の踏み込みで疾走(はし)ってみせよう——突っ込むぞ、舌を噛むなよ!!」

「うっそノリ良すぎ……! でも気合い出てきたわ、ありがとカナタ!」

「礼はヤツを倒してからだ……!」

「うん……!」


 瞬間、噴き上がるエンジン音と煙幕。双輪が更なる高速回転によって加速してアスファルトの大地を駆け抜ける。

 決戦の時は近い。

 本社ビルの入り口を粉砕しながら私はそう思った。


 ——行くわよ。待ってなさいムガ。あんたのメチャクチャな行動、


「全て壊すわよ!!!!!!!!」


 Challenge the GAME。決戦の、幕開けよ!

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