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第22話「深淵式」

 ——ツルギモリ本社タワー、屋上ビアガーデンにて。金髪の男と沖田シゲミツが芸都の夜景を見下ろしながら酒を飲んでいた。その傍らに、穂村カレンの姿はない。


「——で、だ。シゲミツ。浸蝕結界のカードは失われたということで良いのか?」


 シゲミツに一瞥することもなく、男は冷静に状況を確認した。


「そうなるな。アレは札伐闘技で使用するカードとしての用途の他に、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()特殊効果を持っているのは——まあ今更言うまでもないことだったな」


「いや、良い。状況の再確認は必要だ。今は特にな。

 ——あのカードは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 男は問いと共に、ようやくシゲミツへと視線を向ける。その眼は全てを射抜くかのようで、並の札闘士であったならば、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていただろう。


「……確かに。あれは、おれが虚無ゆえに——願いを持たず、むしろ他者の願いを補助する在り方であるがゆえに——【大穴】より齎された力だ。あれによるリトライによって、運営の手伝いをしろということらしい」

「お前が万が一暴走した時のために、運営側の持つ属性である深淵属性のカードによってのみ効果を無効化できるのもわかる。筋は通っているからな。

 あの神崎カナタまでもが【大穴】と接続するとは思わなんだが——要はヤツもお前と同根ということなのだろう?」


 男の問いにシゲミツは「どうだろうな」と返答しつつ、先の問いへの返答を続けた。


「いずれにせよ。おれは札伐闘技敗北後に復元不能となったが、あのカードをおれが完全に手放し、そして穂村カレンに譲渡したことで効力は再活性した。運営権の移譲というわけだな。

 これも【大穴】が不適と断ずればそれまでだったが、まあ目下のところはお目溢しいただけたわけだ。だが——」


「問題はそこだ。

 ——月峰カザネ。アレは何を手にした?

 ヤツのフィニッシュブローの衝撃で、浸蝕結界のカードは限界を迎えた。カレンを復元した後、完全に砕け散ったからな。あの女は深淵の力は持っていなかったはず。

 であればシゲミツ、最も可能性の高い要因は——『Evolution』か?」


 シゲミツはその問いに「だろうな」と答え、そして己のデッキを具現化させた。


「待てシゲミツ。そのデッキ、まだ調整が終わっていないだろう。デッキの書き換えを躊躇いなく行えるお前の思い切りは称えておくが……月峰カザネのそれとは違うだろう?」

「ああ。彼女は単純にまだ発展途上の精神ゆえに行えただけのこと。おれのそれとは大きく異なる。おれのこれは——深淵との同化だからな」


 シゲミツの目に、迷いの色は微塵もなかった。


「カレンは戦意を喪失している。契約もあるからな、あいつの家族の面倒は()()()で見てやるが——あれではいずれ星の触覚に間引かれるだろう。となれば動けるのは俺かお前。そして……お前が不完全なまま戦うことは許可できん。

 ——俺が赴こう」


 シゲミツが、珍しく目を細めた。

 彼が感情を表に出すことなど、滅多にあることではない。


「……剣守(つるぎもり)。月峰カザネを始末するつもりか?」

「俺が負けるとでも?」


 男——剣守カイリの発言に、シゲミツは「いや?」と答えつつも、


「足元を掬われないように、くれぐれも注意しておけ」


 と、嘘偽りのない本心で忠告した。


 策謀渦巻く札伐闘技の大儀式。

 目的も不明確なまま、儀式の簒奪を狙う剣守カイリが出陣した。

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