第九十八話 参戦1
あの後、カーリン商会で現れた銀狼族について議論する意味がなくなったので会議は解散となった。
次の日も呼びだされ、リンスコット様から俺たちは戦争に関与しなくてもいいと告げられる。
しかしフィリス様が、お世話になった帝国が不当な戦いを強いられていることを知って何もしないなんてことは出来ない、とか言いだして。クローディアさんは反対したし、それ以上にリンスコット様が、関係のない方にそんな危険な目には合わせられませんとか、考え直しましょう、となんとか説得しようと試みるのだが、皇帝陛下による鶴の一声で俺達も参戦することが決まってしまう。
この国にはお世話になった部分があるとは思っているから、眺めているだけっていうのはなぁっていう気持ちはあるけれど、戦争に関与するとなればやっぱり勘弁してほしい。
「まあ、まだましな場所ではあるんだけどさ……」
ゲオルグさんの書簡に書かれていた決戦の日付となり、俺やフィリスさんなどの王国組と、お城に務めている衛兵達で臨時に建設された砦の配属となった。
魔術師とドワーフ族の共同で建築されたものらしいのだが、たった三日しかなかったはずなのに防衛するには十分すぎる砦となっている。
なんでそんなのが作られたのかというと、皇帝陛下が王城で待っているのは嫌だと言いだして、でも皇帝陛下に安全が確保されていない場所に居させるわけにもいかないからだ。
リンスコット様は当然の如く、皇帝陛下が王城は嫌だと言い出したときはダメだと進言した。それに対して皇帝陛下が、グラヴナスの狙いは分からないが自分がターゲットの場合、王城にいては無駄に街へ被害を及ぼす可能性がある、と口にする。
無断で帝国に侵入して騒ぎを起こすような奴らだから的を射ている発言だと思ったし、リンスコット様もそう思ったのか渋々了承していた。
で、俺たちの仕事はこの砦の中にいる皇帝陛下を死守することなった。最初は結構重い仕事を任されてしまったと考えていたのだが、主戦場と離れているという点を見ればこの場所に配置されたのは幸運だったのかもしれない。
「セオドアさん、ここにいたんですね」
配置時間からまだ二時間の猶予があるので、比較的に人の少なめな部屋で休憩していたところ、フィリスさんから声を掛けられる。
「どうも。……あれ、クローディアさん達は?」
「小言でうるさいので逃げ出しちゃいました」
小言?逃げ出した?……ああ、クローディアさんがってことね。
大方クローディアさんが、今回の戦争に参戦したこととか、危ない真似はしないように、みたいなことを言っているってことだろうな。ここに逃げ出していることから分かる通り、フィリスさんには効力がなかったようだ。
それに、モーガンさんは基本的にフィリスさんを止めるタイプじゃないからな……。クローディアさんの気苦労が知れる。
「クローディアさん、可愛そうに」
心の底からクローディアさんが可哀そうに思ったので、あえて言葉にした。
「なんですか、その言い方!まるで私が我儘みたいに!」
心外だとでも言いたげにぷくっと頬を膨らませるフィリスさん。
普通はやられたら腹が立つはずなのだが、相変わらずの面の良さで可愛いだけなのがずるい。
「実際そうでしょ」
「ディアには気苦労を掛けていることは分かっていますよ……。セオドアさん、少し前まではそんな意地悪なこと言わなかったのに」
「……じゃあ、前みたいに恭しく接した方がいいでしょうか?」
「止めてください!」
思った以上の声を張り上げたせいで、周りで待機している衛兵さん達がなんだなんだとこっちを見る。
フィリスさんはそれに気づき、頬を染めながらお騒がせして申し訳ありませんと頭を下げた。
銀の髪色と合わさって黙っていれば日本刀を彷彿とさせるような美人といった印象を受けるのだが、こうやって話してみるとよく表情が変わり意外と子供っぽい。
「なあ、もうクローディアさんから何度も聞かれているのかもしれないけど、今回この戦争に参戦した理由を聞いてもいいか?」
別に特別な意図はなく、世間話のつもりだった。
「理由ですか?リンスコット様の前でも言ったように、見過ごせなかったからですよ」
いつもの笑顔で答えるフィリスさん。
フィリスさんは人助けをするタイプだし、義理とか貴族の責任とかを重要視する人だからそういうことなんだろうなって思ったんだけど……。
何かを隠そうとしている?
直観に近いものだったが、笑みが嘘くさく感じたのだ。
「なに、ブルってるんだよ」
「だって、もう少しで戦争が始まるんですよ!」
フィリスさんがなんとなく怪しいのではないのかと思っていたら、そばかすに目がいってしまう意地悪そうな青年と、少し弱気な様子を見せる少年が部屋に入ってそんな話をしていた。
「大丈夫だって。なんたって、我らが六天将様そろい踏みなんだから。こんなところまで敵が来るわけないって」
「でも、相手はあの銀狼族なんですよ」
「心配いらない。確かに、いくら六天将様でも悪名高い銀狼族が相手だと楽勝ってわけにはいかないだろうけど、なんと今回の戦争ではグラヴナスにはその銀狼族しかいないって話だ」
「そうなんですか?」
「ああ。相手はあの戦争馬鹿な銀狼族だからな。そろばんは大の苦手なんだろ。まあ、お前が戦果を挙げられないことを嘆いているんだったら、俺は謝らなきゃいけないが」
「そんなわけないじゃないですか。先輩も僕の性格を知っているでしょ」
仲のよさそうな先輩後輩といった会話を聞いて、なんとなくあった違和感の正体に気づく。ここにいる衛兵たちは戦争が間もなく始まるっていうのに、気が緩んでいることに。
敵側が大量の兵士を連れていたら流石にこっちも気づくだろうから、考えてみれば向こうが少数なのは道理だ。向こう側が戦闘民族だから無謀な戦いを仕掛けてきているといわれればそんな感じがするのだが、戦闘民族だからこそ勝算のない戦いはしないような気もする。
「どうしたんだ、フィリスさん」
「え?何でもないですよ」
珍しくボーっとしていたフィリスさんから返ってきたのは、おとぼけな反応。絶対に隠してそうだと思っていたら、突然窓から光がなくなる。
周りがと騒がしくなる中、俺は窓に目を向けると、ブラックホールのような真っ暗な空から人型の魔物が続々と降ってきて、軍勢と言えるほどの数にまでなる。
そして、それらはこっちにまっすぐ向かってきた。
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