第九十六話 会議室2
「なんでこうも、まともに話が進まないんだ……」
「まあまあ、気にするなよ」
「気にしますよ!だいたい陛下がこういう時に諫めようとしないから!」
「ん?じゃあ俺もこの場を収めるために一肌脱ぐか?そうだな……」
「いいです!!ああもう!」
余計なことはしないで欲しいと言わんばかりの嘆きだった。陛下が考えこんでいる時に、ニヤリと笑みを浮かべたことが理由だろう。
あっちはまだ、だるまおじさんをグリーンフィールドさんがいじめて、グッドウィン様がだるまおじさんをかばうっていう事態になってるし……。六天将であるドワーフ族のウェッジウッド様は眠そうな目をしながらあくびをしているし。
カオスすぎる。
「重要な会議の途中、申し訳ございません!」
こんこん、と外側から扉を叩く音が聞こえる。
「入っていいぞ」
「失礼いたします!」
礼儀正しい軍隊っちくな挨拶をしたのは、城の前にいた衛兵さんだった。
部屋に入る前の声から感じた焦りは勘違いではなかったらしく、顔からは大量の汗を垂らしており動揺が伝わる。度合いとしては、今のカオスな状況には一切目もくれず皇帝陛下だけにピントを合わせているという具合だ。
「どうした?」
「それがゲオルグ・バルトと名乗る犬族が現れまして、皇帝陛下に伝えたいことがあると」
「……本物か?」
「分かりません。情けない話ですが、そう言った輩を追い払うのが役目であるはずなのに、そのものの前では逆らう気すら起こせませんでした」
「そうか……。衛兵くん、ここに連れてきてくれるか?」
「陛下!そのものが本物であろうと偽物であろうと危険すぎます!」
リンスコット様の発言だった。
「何を言ってんだ。帝国でここ以上に安全な場所はないぞ」
皇帝陛下は両腕を広げ部屋中を見回す。
ここにいる人たちは会議であるにも関わらず自分勝手なことをしかしないような人達だが、帝国でいや世界を見回したとしても、ここ以上に護衛が適している人たちがいるような場所はほとんどないだろう。
「そうですが……」
「トム。お前はいざとなったら俺のことを守ってくれるだろう?」
「命に代えましても」
「な?」
キース様は深くため息をつき、
「貴方が一番の問題児であることを忘れていました……。アルドさん、ゲオルグと名乗る男を連れてきてもらえますか?」
「……承知いたしました」
衛兵さんは頭を下げて部屋から出ていった。
アルドって衛兵の人の名前なのかな?リンスコット様、よく衛兵の名前を憶えているな。
「レイ。今からくる相手は、わたしが対応してもいいのでしょうか?」
「いいわけないでしょ!ゲオルグ・バルトと事を構えるためにここに呼ぶわけではないのですよ!」
グリーンフィールド様が皇帝陛下に問い掛けるが、リンスコット様が先んじて答えた。
「わたしは一言も殴り合うなんて言っていませんよ」
「な!?屁理屈を言わないでください!あなたの頭にはいつもそれしかないでしょう!」
「否定はしません」
「認めないでくださいよ、あなたは六天将なのですから……。いつまでもあなたは子供ですね」
「それがわたしの魅力ですから。それに、あなたも頭が固いところは変わっていませんよ」
何かを言いたげにするリンスコット様が頭を振る姿に哀愁を感じながら、そういえばあの貴族っぽい人達はどうなったんだろうと気になり様子を確認すると、だるまのおじさんはダンゴムシのように背中を丸めており、グッドウィン様はおじさんの背中をさすりながらグリーンフィールド様をにらみつけていた。
ちょっとかわいそう……。
そんなことよりも、丁寧系戦闘民族って感じのグリーンフィールドさんが興味を示すゲオルグ・バルトっていう人のことを考えるべきだな。
聞き覚えがあるような……いや、犬族でゲオルグ?もしかして……。
「連れてまいりました」
衛兵さんとともに現れたのは、背が二メートルは優に超えている犬族の獣人だった。
そいつは部屋を一望すると、俺に目を合わせた。背筋が凍るように感じ、すぐに目を伏せる。
「グラヴナスの使者、ゲオルグだ。あなたが皇帝だな」
「そうだ。そういうあんたはグラヴナスの将軍、ゲオルグ・バルトだな?」
「ああ」
この寡黙でありながら大木を思わせるようなどっしりした佇まい、間違いなく崖からフィリス様と一緒に落ちる原因となった奴だ。
もう二度と顔すら見たくなかったが、六天将の人たちがいることで何とか平静を保てる。
「停戦協定を結んでいるのにもかかわらず、うちで一、二位を争う大手の商会に銀狼族の乗り込んできたことの言いわけをしに来てくれたのか?」
「……わが国グラヴナスは貴国に宣戦布告を行う」
淡々としたものだった。
対して、好戦的な笑みを浮かべたり、子供がおもちゃを見つけた時のように目を輝かせたり、不敬だと言わんばかりの表情だったり、あんぐりと口を開かせたり、顔色を青ざめさしたりと、こっちはかなり表情豊かだ。
「理由を聞かせてもらおうか?」
「わが国の銀狼たちが遊び相手に窮している」
「……たったそれだけの理由で、停戦国にちょっかいを掛けようってのか」
ゲオルグさんは一度目を伏せ、
「それと王のご意志だ」
「それは……そんなことをするような奴には見えなかったが。だから、俺はあの戦闘民族を抱えるあんたたちの国の停戦を受け入れたんだ」
皇帝陛下の問いにゲオルグさんは沈黙で返す。
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