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第九十四話 強さ


 侵入者の報告を聞いても余裕の態度だったこととか、ポールさんにかなり頑強な防御魔法を張れる魔道具を渡していたこととか、あの銀狼族と張り合えるほどの戦闘能力を手に入るような魔法少女へ変身する魔道具を準備していたこととかから、侵入者のことを知っていたのではないかとエリザベスさんに言及したところ、素直に頭を下げた。

 なんでも、サプライズとして侵入者を撃退するところを提供するつもりだったらしい。

 俺とクローディアさんは大丈夫だろうという判断のもと今回のショーに呼び、想定にはなかったポールさんには最上位レベルの防御魔法を張れる魔道具を渡したのだとか。ふざけた話だ。

 勿論、あの侵入者が銀狼族というのも想定外だったらしい。


 謝礼としてさっきの武器紹介であった魔力の刃を発生させる剣の柄を渡された。ただで貸すと言われて。別に要らなかったが、ここで断って別の気が引けるようなものを渡されても困るので受け取った。

 クローディアさんはカーリン商会でも有名なケーキ店の引換券を一年分要求し、ポールさんはあの防御魔法を張れる魔道具を貰っていた。

 エリザベスさんの変なサプライズ精神のせいで死にそうな目に会ったので文句の一つでも垂れたくはあったが、俺たちがいなかったらいなかったでエリザベスさんが連れ去られていたことを考えると、どうにも攻めづらい。


「綺麗ですね」


「ん?ああ、そうですね」


 窓から景色を見下ろすポールさんに頷いた。向けている視線を考えると、光り輝く星々ではなく、夜なのにもかかわらず白く輝く街灯により明るい街に対しての感想なのだろう。

 俺としては綺麗というよりも懐かしいという感想だったが、説明しようとすると異世界人であることを語らなきゃいけなくなるため肯定した。別に綺麗だと思うというのも、嘘ではないし。


「それよりも自分はこの部屋の方が凄いと思いますよ」


 見回すと一切汚れのない白くフカフカなソファー、街を一望できるガラス張りの窓、ガラス張りのテーブルの上に置かれている水差し、アンティークな時計など、おしゃれ高級感で溢れている。出てくる夕食もかなり豪華だったし、頼めば基本的に何でも出てくるというオプションまでついていた。


 エリザベスさんから提供されたのは、いらない剣の柄だけじゃなくて、襲撃される前に提案されていた宿の宿泊もあったのだ。

 俺のような怠惰な人間がここに三日ほど泊るだけで、何もする気が起きないダメ人間になるような気がする。

 カーリン商会がここをどういう値段設定にするのかは知らないが、前の世界だったら一晩止まるだけでも目ん玉が飛び出るような宿であることは間違いない。


「……ですね。こんなところに泊まらせてくれるなんて、エリザベスさんには感謝です」


「うーん……。自分はあんな戦闘狂と戦わされる羽目になったから、感謝をする気は起きないですけど……。まあ、元々ここに泊まらせてくれるつもりだったみたいなので、太っ腹だとは思いますけどね」


「はは、確かにそうですね。ちょっとお手洗いに行ってきます」


 なんとなく、から返事のように聞こえる返答をしてトイレに消えていった。

 何か別のことに気が向いているようで心ここにあらずといった様子だったが、勘違いかもしれないとか思いどう対応した方がいいのかを考える。

 話を聞いてみた方がいいのかなと決まりかけていた頃にポールさんが戻ってきたけど、でもなんかさっきの話題をわざわざ切り出すのも難しくて。そもそも悩みがあるのだとしても、あのタイミングでトイレに行ったことを考えると触れてほしくないんだろうし。


「あの……。セオドアさんは強さって何だと思いますか?」


 ためらいがちに、不安げに、そしてちょっとの望みを乗せた問いかけだった。

 唐突だしなんとも答えが出しづらい質問だと思いながら、さっき誤魔化すような態度を取ったことと、この質問で点と点がつながる。


「そうですね……。パッと思いつくのは誰にも負けないような腕力とかですかね。ちょっとカッコつけると、不屈の精神とか」


「そう、ですよね」


「あとは機転が利くとか知識の多さとか、人に慕われるとか好かれるとかも?」


「……ああ」


 何かを思い出しているような様子で頷く。

 ポールさんって六天将のキース様と一緒に行動していたらしいから、その時のことを思い出しているような気がする。

 キース様は戦闘面じゃなくて政治とか計略とかそっち方面だろうから。


「他にも、お金とか地位とか家柄の良さとかもあると思いますよ」


「え、地位や家柄の良さですか?確かに力とは言えるのかもしれませんけど……」


 納得いかない、そんな感情が歯切れの悪さから感じ取れる。


「例えば家柄の差で考えた場合、一流の魔術師になれる才能が有りながらも次の日を生きるだけで精一杯という生活を送っていたら、魔法師にはなれない。でも、たいして魔法の才のない人が魔法についての教育が受けられるような家庭環境があれば魔術師になることができますからね。つまり、力があるのは家柄がいい人ということです」


「でもそれは、魔法の才能がある人が僕たちの通っているような学園に通えれば、魔術師に成れると思います!」


 いつものポールさんではあまり見られない、力強い返答だった。

 ちょっと驚きながらも、


「そうですね。でも、その人にはそのような機会は訪れない」


「それは国が全員にそういう機会を与えないことが悪いんですよ!」


「それはそうだと思います。でも、生まれる前に才能の差があるのに、生まれた後の差は環境が悪いと一言で片づけてしまうというのはあまりにも不平等だと自分は思っちゃうんです。だから、自分やポールさんは学園に通えているという時点で運が強くて、それを強さと言い換えてもいいと思っています」

 

「そんなのは……」


 納得しづらいのだろう。実感の得られにくいもので、自分の手で成した事ではないから。


「魔法を教えてもらえる機会を与えられている自分たちは、魔術師として大成する力を持っていると考えればいいんだと思うんです」


 多分ポールさんは恵まれた環境にいるのに今の実力であることを悩んでいるんだと思う。

 俺なんかは運よく魔法の才が突出しているし、クローディアさんも魔法学生らしくない格闘術を持っている。エリザベスさんも、妙に自信があって心が強いしお金持ちだし。あと、ブラウン様は俺達よりも五つくらいしか変わらないのに帝国でもトップクラスの実力を持っていて、あの銀狼族いたっては同世代でもおかしくなさそうなのにあの強さだ。

 そして、さっきの戦いが自分の力で何も関与できなかったこと、あと多分いろいろなものが積み重なった結果、うつうつとした気持ちを抱えているのだと思う。


 ポールさんは魔法の才があると認められた人しか通えないらしいあの学園でわりかしいい成績を収めているはずだから、俺からしてみれば気にする必要はないと思うんだけど……。そういうことではないんだろう。


「魔術師として大成する力……」


「魔術師に成れる切符を手に入れている自分たちには、前に進むための強い意志と努力が必要なんだと思います。自分の大切なものの優先順位を決めて、目標に向かうための努力を惜しまず、失敗しても折れずに、折れたとしても立ち上がり前に進むことで初めて、自分の納得できる力を手に入るのかな、と」


 考えだけのものだから、そして俺自身がそういうことをしてきた人間じゃないから、青臭すぎるから、ちょっと濁す。


「前に進むための強い意志と努力……」


 いろいろ言ったが、努力することさえ結局自分自身の力と言えない要素だ。

 だって、目標に向けて努力できるかどうかも環境やタイミング、その時の体調や劇的な出来事、出会い、その人の性格とかも関係していて、俺は家柄や才能と大して差がないと思っている。

 でも、そんなことを意識しても呪いにしかならないから、それは運などではなく自分の意志で努力していると考えるべきなのだろう。

 まあ、自分のことを批判したくなるまで追い詰められているのなら、それは自然の摂理なのだと考えてもいいんだろうけど、たぶん今のポールさんに必要なのは明確な目標とその筋道と自信だろうから。


「焦っても無駄なエネルギーを消費してしまうだけだから、着実に実力と心の強さを育てていくことが大事なんだと思います。そういう意味で言えば、あの銀狼族に襲われた際に俺のことを助けに来てくれたポールさんなら、心の強さは十分なんじゃないでしょうか。だって、自分がポールさんの立場だったら動けなかったでしょうから」


 これはお世辞ではなく本音だ。


「……ありがとうございます」


「いや、むしろこっちがお礼を言うべきでした。ポールさん、さっきはありがとうございました」


 ポールさんは虚を突かれた様子を見せ、照れていた。


 俺だったら俺みたいなやつにこんなことを言われたって、と思うんだけど……。何故か尊敬とまでは言わないけど、それに近い目を向けられているからこうも受け入れられているんだろうな……。


 語りたがりの部分が出ちゃっただけなんだけど、と思いつつ、終わり良ければ総て良しってことにした。


お読みいただきありがとうございます。


思想が出ていて気持ち悪いなぁ、ってなったらすみません。

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