第九十三話 侵入者3
静かに後ろから忍び寄っていたクローディアさんが少女を羽交い絞めにする。
「プロテクト」
少女がクローディアさんに肘をわき腹あたりに打ち付けようとしていたので、俺は防御魔法を張った。
「危ないわねこいつ!エリザベスさん!止めきれないから、力を貸して!」
「承知いたしましたわ」
エリザベスさんは少女の頭を抑えつける。
もともと力だけはエリザベスさんが優っていたから、動けなくことに成功させていた。
絵面的にこんな少女に寄ってたかっているのは……、とは思っちゃうけど、そんな体面を気にしていられないくらい強かったからな……。
「ちょっと面白いと思ったのに、つまらない真似をしやがって……」
完全に勝ちを確信していたタイミングで聞こえてきた少女の低い声に、全身の毛が逆立つ。
不穏に思い、といった曖昧なものではなく、もっと根源的な、生物的な差によるもので。それが勘違いではなかったと証明するかのように、黒色だった少女の髪の毛が銀色に変化していく。
「どきやがれ!!」
少女は抑えつけているクローディアさんとエリザベスさんを弾き飛ばした。
銀色の髪に変わった少女からは、フィリスさんと共に崖に落ちる原因となった犬族の獣人と近い重圧を感じる。
「銀狼族ですの……」
「へ、バレちまったみてえだな。この姿を見せることにはならねえと思っていたんだけど……。かなりイライラしたが、俺にこの姿をさせたことは素直に褒めてやるよ」
……いろんな問題が一気に襲ってきたな。俺たちの生存確率が急激に下がったとか、歴史書に乗るような問題がこの後に帝国で起きそうとか。
「降参ですわ」
「は?」
「降参すると言ったのですわ。わたくしは大人しくあなたに従うので、ここにいる人たちは見逃してくださいませ」
「……今さら何を言ってんだ。そんなの許されると思ってんのか?」
「ええ。だって、あなたは弱い者いじめがお嫌いなのでしょう?」
毅然と言い放つエリザベスさん。少女は行儀悪く頭を掻く。
「……いや駄目だ。この姿を見られちまったのに生きて帰すわけにはいかねえ」
「どうしてもですの?」
「ああ」
エリザベスさんの勇敢さに感心しながらも、もうどうしようもないのかと諦めかけていたら、
「なぜ銀狼族が何の報告なく帝国に踏みいり、カーリン商会の次期当主様を襲っているのでしょうか」
「お前……六天将のトニー・ブラウンか!!」
……助かったのか?
ちょうどいいタイミングに戸惑いながらも、生き残れる見込みが出てきて体に力が戻る。
「いいねぇ、面白くなってきた――」
少女が嬉々とした表情で背を丸め今にもブラウン様に襲い掛かろうとしていた体勢から、地面に倒れ込む。
少女が倒れたすぐ後ろに銀髪の獣人が立っていた。
「今あなたと争うつもりはない」
そう言い放ち、少女を肩に担いで立ち去ろうと背を向ける。
「銀狼族……。逃がすか!」
「止まれ」
一瞬寒気がしたと思ったら、銀髪の獣人の言われた通りブラウン様は足を止めていた。
そして、銀髪の獣人は一切振り返らずに壁に穴を開けて落ちていくところをただ見ていた。
もしかしたら、俺たちの安全を考えて見逃したのかもしれない。
「ありがとうございますわ、ブラウン様」
「……いえ、大事がなくてよかったです」
銀狼族が開けた穴をじっと見つめていたブラウン様は呼びかけられたことでエリザベスさんの方を向き、黄色い声が聞こえてきそうな甘い笑みを浮かべる。
エリザベスさんには性別的なことが理由からか効果はなかったようだけど。
「黒影は?」
「彼はかなり無理をして来ていただいたので、休んでもらっています」
「そうですの……」
エリザベスさんは安堵の息を吐く。
いわれてみれば確かに黒影さんがいない。ブラウン様を呼んできてくれたのか……。
「それにしても銀狼族がカーリン商会を襲うだなんて……。また、キースさんに心労を掛けさせてしまうなぁ」
ブラウン様のつぶやきを耳にし、これから帝国は大変そうだと他人事のように思いつつ、気が抜けてへたりこんだ。
お読みいただきありがとうございます。
下の☆☆☆☆☆の評価を押して応援してくれると嬉しいです。ブックマークもお願いします。
あと、マイナスなものでもいいので感想をくれると嬉しいです。




