第九十二話 侵入者2
「……強いわね、あの子」
クローディアさんは額に汗を浮かべながら呟く。
当たりとハズレ、どっちかなって思っていたけど、クローディアさんの反応的にハズレだったか……。
「実力差が分かったなら、素直に降参――」
「黒影!」
エリザベスさんが叫ぶと盾の紹介された時の人――黒影さんが現れ、男口調な少女のわき腹あたりに手刀を入れる。
がっつりえぐり込まれているように見えたのだが、少女は反撃で右拳をお見舞いしていた。
「クッ!?」
「いい一撃じゃねえか。わるくねぇ」
弾き飛ばされた黒影さんはわき腹を抑え、男口調な少女は口元から血を垂らしながら好戦的な笑みを浮かべる。
ちょっと格好をつけているだけなのかなって、考えていたんだけど……。血を垂らしながら好敵手に出会えて喜ぶとか、本格的な戦闘狂じゃねえか!
「じゃあ次行くぞ!」
黒影さんに向かっていく少女の前にクローディアさんが立ちふさがる。
少女の拳を手のひらで受け止め、埋まっていない手で殴りかかるがそちらは少女の手のひらで受け止められた。
形勢は全く同じだが力では少女の方が優っているためか、クローディアさんが押さえつけられる形になる。
「ちっ、セオドア!!」
「……クイックバレット」
叫び声で察したが、クローディアさんが盾になっているせいで少女の顔しか狙えず、少しためらってから魔弾を放つ。
猶予を与えたから、当たり前のように避けられる。
「バカッ!!」
「あぶねえなぁ!」
少女はクローディアさんの頭をどつき寝かせた後、こっちに飛びかかる。
「戦場では魔術師を狙うのが鉄則だからな!」
宙に浮いている少女はぐるぐると回転しながらかかとを俺の頭上に落とす。
それを紙一重で避けるのだが、
「お前も動けんのかよ!」
たった一回で攻勢が終わるはずもなく、少女から追撃の蹴りにたいして腕を十字にして受け止めたのだが。
うぐっっっ!?
防御壁がクッションになってくれてある程度威力は減衰されているはずなのに、勢いを殺しきれなくて壁に打ち付けられる。
一瞬息ができなくて動けないところで少女が目の前に現れて、目をつむった。
「ポールさま、セオドアさまを守って!」
「ぐぇっ!」
ポールさんにそんな指示をしても、と思った瞬間、お腹に重いものが乗っかる。
内臓が飛び出たんじゃないかという衝撃があり目を開くと、お腹の上にポールさんが倒れこんでいた。
「ごめんなさい!」
「いや……。でも何が?」
「何だ、この硬いの?」
少女は俺に殴りかかってきているのだが、何かに阻まれているのかこっちまで届かない。
多量の魔力を感じて確認すると、ポールさんの懐が光っていた。俺はこの商会に入る前に、エリザベスさんがポールさんに謎の白い箱を渡していたことを思い出す。
防御魔法?助かった……。でもだったら、やっぱり?……そんなこと今はどうでもいい。
エリザベスさんがポールさんに渡していた白い箱のおかげで攻撃を防げていることだけが重要で、さらに言えば向こうの攻撃が通らないってことはこっちからの攻撃も通らないことにもなる。
「皆さまよく耐えてくださいましたわ!」
状況が好転していないことに焦りを覚えていると、まるで遅れてきたヒーローが登場する時のような口上を言うエリザベスさんが現れた。
「なんだ、逃げてなかったのか。というか、何だその格好は?」
少女が疑問に思うのも無理はないだろう。エリザベスさんはスカートの丈が短いフリフリのドレスを着て現れたのだから。
知らないものであれば、戦場を舐めている格好に見えるだろう。だが、知っている俺からすれば、魔法少女が身に付けている戦闘衣装だと気づける。……それでも、戦いを舐めているとしか思えないが。
というか、さっきの武器紹介でも思ったけど、絶対に異世界人がカーリン商会と関与しているだろ。
「まあいいや。大人しくついてこないなら」
少女は頭を掻きながらエリザベスさんに襲い掛かる。
どうでもいいことを考えている場合じゃなかった、と悔いていたら、
「そんなものですの?」
今まで圧倒してきた少女の拳をもろに食らってびくともしていなかった。
「へぇ」
退屈そうにしていた少女に笑みが戻り、俺の目に負えない速度でなんども殴りつける。
だが、エリザベスさんはびくともしていない。
「その程度ですの?でしたら、次はこちらの番ですわ」
そういった瞬間、エリザベスさんの腕が少女の顔の真横にあった。少女は頬から血を垂らしていた。
魔法じゃないのかよ!と無粋なツッコミはしない。ステゴロタイプの魔法少女もあるわけだし。
「降参してくださる?」
「なめんな!!」
少女は吠え、瞬間移動にしか見えないような速度で動き回る。そして、打撃音が部屋中に響く。
何をしているのかは見えないが、恐らくいろいろな角度から殴りつけているのだろう。
「どうした!!お前からは攻めないのか!」
「わたくし、弱い者いじめが嫌いですの」
「なぁ!?」
その煽りの後、少女は一か所に立ち止まり何度も殴りつける。
敵ではあるのだが、イラついたからといって足を止めて一点突破をしようというのは悪手なんじゃないかと言いたくなったところ、
「へ、やっぱりな」
エリザベスさんの腕が少女の顔の真横にある体勢になっていた。さっきと同じ構図だ。
しかし、少女は勝ち誇ったような笑みを、エリザベスさんは苦い表情をしていた。
「お前が今まで手を出してこなかったのは、手加減じゃなく俺の動きを取られなかったからだろ?」
「そんなことをありません事よ。先ほど言った通り、弱い者いじめが嫌いですのよ」
「どうかな?お前は異様に硬くて殴るスピードもはえぇが、明らかに目が俺に追いついてきてねぇ」
「……それが本当だったとしても、あなたではわたくしをどうすることもできないでしょう?」
「いや、元々のお前はたいしたことがなかった。つまり、何かしらのズルをしているってわけだ。そのズルがどれだけ長く続くか楽しみ――」
「捕まえた」
お読みいただきありがとうございます




