第八十五話 エリザベスさん1
蜘蛛たちと戦いで消耗した俺とフィリスさん――フィリスさんはまだまだ元気そうなので消耗しているのは俺だけかもしれないが、運よくカーリンさんと出会い馬車に乗らせてもらった。
そしてカーリンさんから、今乗せてもらっている馬車がカーリン商会による技術の粋を生かして作られたものなのだと声たからかに説明される。
まず、そこらにいるモンスターに襲われても傷一つつかないような素材が使われていて、Aランク魔物の猛攻さえも凌げる防御魔法が積まれている。他にも、Bランク魔物を蹴散らせるような攻撃魔法とかも使えたり、馬がいなくても自動で動かせる機能もあるとか。
今は馬に俺たちがいる箱を引いてもらっているのは、自動操縦させるには必要で費用がかさむし、自動で動いていたら不自然に思われるという理由らしい。
ほとんど揺れないという馬車としてかなり優秀な機能も付いているという説明もあったのだが、サラリの流していたあたり、カーリンさんにとってはどうでもいいことなのだろう。……まあ、それまでに説明された内容を考えたら、しょぼくはあると俺も感じてしまったが。
ちなみにまだ隠された機能があるらしく、簡単には教えられないとか勿体ぶられてどんな機能なのかは教えてもらえなかった。ただ、恐らくは馬車に必要ない機能であることは想像に難しくない。
「では、お二人で逃避行なさるために姿を消したわけではなかったのですね」
「ええ。セオドアさんと愛の逃避行というのは悪くなさそうですが、残念ながら違います」
「まあ!」
疲れでうつらうつらとしていたのだが、突然とんでもない発言が聞こえてきて、一気に目が冴える。
何を誤解が生まれそうなことを言ってんだ!というか、カーリンさんは逃避行って言っていただけで、愛の逃避行とは言ってなかったでしょ!
カーリンさんも、まあ!とか言って驚いて、俺とフィリスさんを交互に見ないで欲しい。
「あの冗談ですからね」
「そうなんですの?」
「ふふ、どうでしょうね?」
いや、冗談ってことにしとけよ。というか冗談でしょ。
なんて思いつつもモーガンさんの反応が気になる。見ると我関せずといった感じで瞼を閉じていた。
ここで妙に反応しないことにありがたさはあるが、同時に安全な立ち位置にいることをずるいと思う。
「それにしても、あの深い崖下がダンジョンになっていたというのは驚きですわね。それと、大剣を背負った犬族の獣人というのも気になりますわ」
蜘蛛たちとの戦いですっかり頭から抜けていたけど、確かに何なんだったんだろうな、あの犬族の獣人。
フィリスさんと対等どころか、圧倒していたわけだし……。だって、フィリスさんってあの巨大蜘蛛ですら邪魔が入らなきゃいい勝負するぐらいなわけで、簡単に言えば、あの犬族の獣人って巨大蜘蛛より強いってことになるわけだからね。恐ろしすぎる。
「フィリス様でも手も足も出ない獣人と言われて思い浮かぶのは、暴狼の異名を持つゲオルグであるな」
今までずっと黙っていたモーガンさんからだった。
「ゲオルグですの?確か、グラヴナスの英雄ですわよね。帝国とグラヴナスは不可侵を結んでいるはずですし、そんな傑物がこちらに来るのなら連絡が一切ないということは考えにくいですわ」
「うむ」
反論しないのかよと思ったが、帝国に人型魔物を送り込んでいることにグラヴナス国が絡んでいるとしたら、かなりの大問題だからモーガンさんとしても考えづらいと結論付けたのだろう。
グラヴナスというのは確か、獣人たちだけの国で、国土が広く人口も多いらしいのだが技術力に関してはうちの国以下だと聞いている。ただ、驚異的な身体能力を持つ銀狼族があほみたいに強いらしい。それこそ、国土が広いのは戦争に勝ちまくっているからなのだとか。
あと、冒険者をやっていた時に最強の人類は誰かという話題を小耳にはさんだ時に、ゲオルグという人物が候補に挙がっていたことを覚えている。それと、銀狼族ではないのにグラヴナスで一番の戦士だとも。
「つきましたわよ」
違うんだったら結局あれはなんなんだったんだろうなと考えていたら、カーリンさんの声が聞こえてきて外に目を向けると、立派な城壁が映る。
ああ、ようやくあの辛い生活からおさらばできたのか……。
人が住んでいる都市が見えてきたことで、あの辛いサバイバル生活から抜け出せたことを実感し感動する。
「わたくしは商会に向かうつもりなのですが、皆さまはどうなさいますの?」
「私は皆さんを心配させていると思うので王城に生存報告をしに行きます」
「吾輩はフィリス様について行く」
フィリスさんとモーガンさんは王城に向かうらしいし、俺もついて行った方がいいか。
帝国の人にとってはフィリスさんがいなくなったことが問題なんだろうから、俺の安否とかそこまで重要じゃないんだろうけど、一応自分も行方不明者だから安否を伝えた方がいいよね?
「セオドアさんはエリザベスさんについて行ってみては?皆さんには私からセオドアさんの安否を伝えておきますし、カーリン商会を本拠地である帝国でカーリンの血族の方に紹介してもらえるなんてなかなかできない経験ですよ」
特別な体験とかはたいして興味はなかったが、フィリスさんについて行っても気苦労しそうだし、しない事態になったらなったで悲しい気持ちになりそうだから、
「じゃあ、そうしよ――させてもらいます」
いつもの感じで受け答えしようとすると、モーガンさんがじろりと目をこっちに向いてきたことで、人目があることに気づいた俺は丁寧な言葉遣いにする。
あぶねぇ……。ちゃんと人前では気を付けないと。
「では、ここで下ろしてもらってもいいですか?」
「あら、お城まで送りますわよ」
「いえ、歩きたいので」
返答を聞いたカーリンさんは御者に止めるように伝えて、フィリスさんとモーガンさんとなぜか小さくなってフィリスさんに抱えられているひーちゃんは馬車から降りていった。
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