第八十話 洞窟の奥
試しで家もどきを作ってみたのだがすぐにデカ蜘蛛に見つかってしまい、仕方なく現在の寝床として使っている滝裏の洞穴を進んでいた。
魔法で明かりをつけて十分ほど歩いているが、特に何もない。
「意外と深いですね」
「うん。でも、魔力が感じるから魔物でもいるのかと思っていたけど、一切そういうのがいないのはありがたい……うわぁ!?」
最初は暗いし魔力があるからビビっていたんだけど、いつまでたっても何も起きないのでだんだん気が抜けてきた段階だったところに、ガイコツと人っぽい形の骨を見つけてびっくりする。
「遺体でしょうか?このような姿になっていることを考えると、かなりの時が立っていそうですが」
「大丈夫なの?」
フィリスさんってこういうのはダメなものだと思っていたんだけど。
「はい。最近いろいろとあって、克服しましたので……」
フィリスさんはどこか遠くを見つめながら歯切れそうに言う。
「それに骨だけの姿なら、元々大丈夫だとは思いますし」
そっか。フィリスさんって、戦争で生身の人間を殺し続けた末にお母さんを自分の手で首を刎ねたことでトラウマになったわけだから、白骨化までしていればギリギリセーフって感じなのか。
……というか、わりかしストイックなイメージのあるフィリスさんが苦い顔をするなんて、なにがあったんだろうか?
「これは何でしょうか?」
フィリスさんは白骨化した死体へ近づいてしゃがんだ後に立ち上がると、ノートのようなものを手にしていた。
「ノートなのかな?」
「みたいですね……。ちょっと開いてみます。……ここはダンジョンである。この洞穴の奥にダンジョンコアがあったことから間違いない」
「ダンジョン?ここってただの崖下だとおもっていたんだけど?」
ダンジョンって、洞窟があって、そこに魔物がうようよしているような場所だよな?
「私もそう思っていたのですが、このノートにはそう書かれています。……洞穴というのはここのことを指しているのかもしれないですし、試しに一番奥まで行ってみましょうか」
頭ごなしに否定する必要もなさそうなので頷き、フィリスさんがノートを読みながら歩くので転んだりしないだろうかと思いつつ奥に向かう。
一番最奥に着き、壁に黒くて禍々しい感じがする石がはまっていた。
「それっぽい石はあるけど、ダンジョンコア自体を見たことがないから何とも言えないな……」
「私もないですが、ノートの内容通りではありますね。それに、岩壁を壊せないこと、風が一切吹いてないこと、この崖下でしか見たことがない蜘蛛の魔物が存在しているところがダンジョンの魔物は外に出られないところと似通っていること、崖上から見ると真っ暗で底が見えないのに下からは太陽の光が差しているという不思議な現象が起きていること。これらのことから、このノートを書いた人はダンジョンだと結論付けているみたいです」
確かに、魔法で壁を壊せないとか何で出来ているんだよとは思ったけど……。
ダンジョンコアっぽいものもあるし、その他もろもろも納得する部分が多いから……、ダンジョンなのかなぁ?
「ってことは、このダンジョンコアらしきものを取っちゃえば、あの蜘蛛たちから見つからないように壁を掘ってここから脱出することもできるんじゃないか?」
「止めた方がいいと思います。ダンジョンコアがなくなったダンジョンは崩壊してしまうと聞いたことがありますから。生き埋めされてしまうかもしれません」
パッと思いついた案が、死への直結ルートだったことに肝が冷えた。
一人だったら、安易にこのダンジョンコアを抜いていた気がする……。フィリスさんがいてくれてよかった……。
「このノートの主がどういう目的でここに来たのかは分からないけど、ここのダンジョンで暮らしていくつもりじゃなかったとしたら、ダンジョンコアを取って脱出するなんて思いつかないはずがないし、簡単に思いつく脱出方法とかあるわけないか……。なんか他に、有用そうなことは書いてなかったの?」
「蜘蛛の魔物は離れた場所でも通信出来るような能力はあるが、具体的な内容を伝えられるわけではなさそうだ、と」
ああ、やっぱりそうなんだ。具体的な内容が伝えられるわけではないというのも、一度使った魔法が魔法を使っている姿を見せていない個体には効いていたことから間違いなさそう。
「他にも蜘蛛の魔物の生態系や行動パターンなんかも書かれていたり、近況報告やここから出たいといった旨も書かれていますね」
そりゃそうだよな。こんな魔物がうようよしていて人っ子一人いないようなところに住みたくはないだろうし。
それこそ、帰りを待っている人がいたりなんかもあるだろうから。
「……そのノートに書いてあること以上の情報は得られないだろうし、全部読み終わったらあの蜘蛛たちと戦うしかないか」
「そうですね」
頷くフィリスさんを見て巨大蜘蛛達の集団との戦いを思い出し、自分で言いだした事ではあるが、もう少しあの味のしない魚を食べる生活を続けてもいいんじゃないかと思ってしまった。
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