第七十八話 滝の裏にある洞窟3
「それにしても、セオドアさんってマレビトだったんですね」
「マレビト?……ああ、異世界人ってことですか?」
「はい」
その場のノリと勢いで異世界人だってバラしちゃったけど、不味ったか?
……というか、やっぱり異世界人って他にもいるのか。
まあ、この国にきて俺だけのレアケースってことではないんだろうなとは思っていたけど、フィリス様みたいな貴族が異世界人の存在を知っていることは留意しておいた方が良かったりするのかな?
「マレビトってバレたら不味いこととかあったりするんですかね?」
貴族であるフィリス様に聞くのはどうなんだと一瞬よぎるが、そういうのを気にして黙るのはあまりにも失礼というか、薄情なんじゃないかと思ったから。
「どうなんでしょうか?そういう方がいるということを父から聞いたことがあるだけなので」
「なるほど……」
ばれないことに越したことはないって考えておくか。
「それにしても、セオドアさんがマレビトだったということは二度の人生を歩んでいるわけですよね。……前の世界とここを合わせたら、いくつになるんですか?」
「……まあ、四十手前ぐらいですかね」
「そんなに!?お父様よりも歳上なんですね……」
しみじみと頷くフィリス様を見て、ちょっと複雑な気持ちになる。
俺って、フィリス様の父親よりも年上なのか……。前の世界では年齢とか気にするような人間じゃなかったし、今世でもその感覚を引き継いでいるから気づかなかった……。確かに、フィリス様ぐらいの子供がいてもおかしくない年齢だな。
……これ以上考えるのは辛くなりそうだから辞めよう。
「そうなると、セオドアさんにかしこまった口調をさせてしまうのはあまりよくないですね」
「いや、そんなことないですよ。実質的な年齢差があるとはいえ、今世ではほぼ同い年ですし、肉体に引っ張られるから精神年齢的も十五歳ぐらいですし……。それに、雇い主と雇われ主という関係だから、そんなおかしなことでもないですから」
面倒なことになりそうだから、言葉をとにかく重ねる。
「……年齢や立場など関係なく、これから短くない時間この場所に二人でいることになりそうなのに気を遣われては堅苦しく感じてしまいます。ですから、セオドアさんには窮屈であってほしくないんです」
「いや、気を遣ってこういう言葉遣いをしているわけじゃなくて、別に誰と話すときでもこういう感じですよ」
「……試しに、追われていた時の口調をお願いできますか?」
窮屈じゃないって言ってるんだけど、話を聞いているのかこの人?……まあいいや、それにしても追われていた時の口調なんだっけ?
ああ、犬族の獣人に追われていた時、切羽詰まっていてため口で怒鳴っちゃった奴か。
……あの時は荒い口調が出ちゃったけど、貴族のお嬢様かつ雇い主に使っちゃダメな奴だろ。
「いや、そういうわけ――」
「お願いです!」
なぜか強く懇願され、断りづらくて、
「……分かった。これでいい?」
「はい!では、これからはそれでお願いします」
食い気味で言うフィリス様に圧倒されるが、このままだとため口を利かなければいけなくなりそうなので、どう言いくるめようかと必死に頭を巡らす。
「いや、フィリス様は丁寧口調なのに、自分だけため口なのはおかしくないですか?」
「私はこれが素ですから」
……ずるくない?
お嬢様であるフィリス様は丁寧語が標準というのはクローディアさんに対してもそういう口調だから、本当なんだろうけどさ。
「……分かったよ。ただ、人の目があるときは今まで通りにするからね」
「はい!」
……何だよ、この流れ。さっきまでのしみじみとした雰囲気はどこ行ったんだよ……。
「ああ、あと、フィリス様と呼ぶのもダメですからね」
「……じゃあ、何て呼べば」
「フィリスと呼び捨てでお願いします」
「いやいや。いきなり距離を縮めすぎでしょ、それは」
「そんなことありませんよ。むしろ、砕けた口調なのに様をつける方がおかしいです。……それとも、フィリスちゃんって呼びたかったりしますか?」
「……フィリスさんで許してくれませんかね?」
流石に同い年の人にちゃん付けはきつい。
「仕方がありませんね。それで許してあげます」
「……じゃあ、よろしく。フィリスさん」
「はい。改めてよろしくお願いしますね」
フィリスさんから握手するために金でもとられそうな綺麗な手をさし伸べられてちょっと躊躇するが、ためらう方がキモイと思ったからその手を握った。
……握手していて思ったんだけど、これって最初にハードルを上げておくことで本来の求めている要求を通すって手口じゃないか、これ……。
もう言っちゃったし、フィリスさんにも返事されちゃったから後の祭りなんだけどさ……。ほんと油断ならないな、この人。
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