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第七十六話 滝の裏にある洞窟1


 滝の洞穴を少し進んだところで、魔法で火をつけて暖を取っていた。

 本来ならこんな煙がこもりそうな場所で火をつけるのはよくないんだろうけど、寒すぎるから仕方ない。

 寝るときは消さないといけないんだろうが……、風邪ひきそうだな。


「暖かいですね、……背中側以外は」


「まあ、火が当たらないですからね。それに服の背中側はなかなか乾かないから、余計にというのもありますから」


 そもそも滝の裏にあるところだから、湿気が凄くて服自体が乾きづらい。たまに、頭上から水滴が降ってきたりするくらいだし。


「ちょ!?何してるんですか!?」


 火が当たっている部分を早く乾かし終えて背中側も乾かしたい、と考えていたら、突然フィリス様が服を脱ぎだしたので素っ頓狂な声を出してしまう。

 あまりの突飛な出来事に頭が真っ白で固まってしまうが、とりあえず見ないようにと、フィリス様から顔を背けた。

 

「そんな後ろを向いていないで、セオドアさんも服を乾かした方がいいと思いますよ」


「な!?……あの、一応言っておきますけど……、自分は男ですからね。もしかしたら、フィリス様はそういう風に認識していないのかもしれないですけど」


「それはつまり……、私のことを襲おうとしているということですか!?」


 服を折りたたんでいる布擦れが聞こえながら、俺のことを焦らせる魂胆が見え見えの悲鳴を上げてきた。

 魂胆が分かっていても動揺してしまうのだが、向こうに悟られないように平静を装う。


「いや、そんなことをするつもりはないですけど……。でも、警戒するでしょ、普通」


「いえ、私はセオドアさんのことを信用していますから」


 何だろう……。ヘタレと言われているようでちょっと腹立つが、言い返したところで言いくるめられるか自分が顔を赤らめるような展開にしかならないのは分かりきっているので黙る。


「こっちを向いていいですよ」


「……いや、大丈夫です」


「大丈夫じゃないですよ。ずっと、そうやって顔を背けているつもりなんですか?」


「……必要なら。というか必要なのでそうするつもりです」


「一緒にいるのにそれじゃさみしいですよ。だから、こっちを向いてください」


 こんな二人しかいない空間で無視するのは無理だろうから、はぁとため息をつきながら少しだけ顔をフィリス様がいる方に向けて横目で見る。

 すると、折りたたんである上着をひざ掛けのようにしてシャツ姿のフィリス様がいた。

 

「裸じゃないですよ!残念でしたね!」


 白い歯を見せ口角を上げるいたずらを成功させた子供のような笑顔だったが、俺からしてみればシャツ一枚でいろいろと透けてしまっているというだけでも刺激的過ぎる。


「……ちょっと、見過ぎですよ」


「ごめんなさい!」


 無意識のうちに魅入ってしまっていたことに気づき、また顔を背けた。

 胸辺りを腕で隠して少し頬を赤らめていたフィリス様が妙に頭に残る。


「……だから、そっぽ向かないでください」


 いや恥ずかしがってたじゃん、と思ったのだが、正面を向かないと拗ねられそうなので、フィリス様の方を向いて顔だけを見るように意識する。

 ただ、フィリス様は面が良すぎるので、顔を見るだけというのも気恥ずかしくなるから少し上の方を見る。

 

「あー……。それにしても、どうやってここから脱出すればいいんですかね」


「さっき歩き回った限りでは地上に繋がっているような道はなさそうだったので、壁をよじ登っていくしかなさそうですが……。この崖下では救援も望めないでしょうし」


「……ですよね」


 やるにしても、蜘蛛たちと味方か分からない黒い巨鳥から見つからないようにしなきゃいけないわけだけど……。

 壁を登っている間に隠れられる場所はないだろうから、見つからないように工夫とか無理だろうし……。


「幸いなことに食料に困ることはなさそうなのは助かりますが」


「え?そんな食べ物になりそうなものなんてありましたっけ?」


「先ほど魔物と戦ったではないですか」


「……もしかして、あのデカ蜘蛛のことを言ってます?」


「はい」


 いつも通りのニコニコ顔だけど、本気で言っているのかこの人。

 まず、見た目が虫な魔物を食べるというのがあり得ないし、そもそも俺たちの命を狙ってきたやつを食べようと発想自体がアレ過ぎるから、戦闘中に頭でも打っていたのか?

 いやでも、そもそもゲテモノを喜んで食べるタイプだったな……。

 いちおう、クモが食べられるとは聞いたことがあるけどさぁ……。でも、魔物だし……。


 俺はあぶったデカ蜘蛛の頭を噛みついて、ぐちゅりという嫌な感触がしてしまうシーンを想像してしまい体が一瞬こわばる。


「フィリス様って、よくそういうのを躊躇なく食べられますよね……」


「見た目がよくなかったり、魔物であるという偏見のせいで美味しいものを見逃してしまうのは勿体ないじゃないですか」


「……まあ、そうですね」


 そんな冒険してまで隠れた珍味を探し当てたいとは思わないが、ここはフィリス様に合わせておく。


「……今の言い方。本当はそんなことないと思っていませんか」


「いや、そんなことはないですよ。そんなことないですけど……、ただまあ、貴族の令嬢っていう立場の割にたくましいなって。それこそ、俺なんかよりもずっと」


「……女の子にたくましいという表現をするのは失礼ですよ」


 ジトッとした目で向けてきた。


 ……確かに。女の子に使う表現じゃなかったか。いやでも……、やめておこうか。


「すみません」


「別にいいですよ。度胸がある方だとは自覚していますし」


 自覚はあるんかい、とつっこみそうになるが、口に出すとまたジト目を向けられそうなので思うだけに留めた。


お読みいただきありがとうございます

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