第七十五話 良さそうな場所
「なかなか見つかりませんね」
「そうですね。隠れられる場所を作ろうにも異様に壁とか地面が硬くてなかなか穴を開けられないですし」
あの後、無事逃げられはしたのだが、また蜘蛛たちみたいな魔物に見つかったら厄介なので、どこか隠れられる場所を探していた。
三十分ぐらい歩き回ってなかなかないから、壁を掘って仮拠点を作ろうとしたんだが異様に硬くて諦め、今まだ探し回っている。
もう夜だからか太陽の光が差さなくて、服が乾かず若干湿って冷たい。時間も時間だけに、これ以上の探索も難しいだろう。
「このままだと、野宿することになりそうですね」
「……クモに見つかる可能性を考慮すると避けたい選択ではありますが、このままだとそうするしかなさそうです。……音がしませんか?」
「音ですか?」
耳を澄ましてみると、ザァーっと聞こえる。
「……しますね」
「もう少し先に行ってみましょうか」
少し歩くと、高さが百メートルはありそうなところから降ってくる大量の水が川を叩きつけていた。
「滝ですね」
「……ですね」
なんとなく想像ついていたけど、滝かぁ……。
そんなもんがあったところで、食料になるわけでもなければ寝床になるわけでもないからな。
むしろ、たいして景色が変わらないこの場所においてかなり目立つだろうから、もし蜘蛛たちが俺たちのことを探し回っているのだとしたら寄ってきてもおかしなところだし。
分かっていた結果ではあるが、状況が好転する何かがあるんじゃないかという希望も若干あったから、ちょっとへこむ。憂さ晴らしに、裏切られたイライラをぶつけるつもりでその辺に転がっている石を滝へ蹴った。
そして、バシャン!と水しぶきを立った後、石と石がぶつかるような音がする。
「今の、おかしくなかったですか?」
「おかしい……ですか?」
聞き返すとフィリス様は顎に右手を当て、しばらくし、
「セオドアさん、滝の端に石を蹴ってくれませんか?」
「……別にいいですけど」
どういう狙いがあるのか見当つかなかったが、滝の隅っこに向かって石を蹴ってみた。
「うわ!?」
石がバシャン!と水しぶきを立て、石と石がぶつかるような音をさせ頭上を通り過ぎるようして跳ね返ってくるから、少しびっくりしてのけぞる。
「やっぱり跳ね返ってきました」
「ですね……。あれ、さっきはよく見てなかったんですけど、石は跳ね返ってきてなかったんでしたっけ?」
「はい。滝の中に入ってどこかに行ってしまいました。先ほどは滝の中央辺りに石が飛んでいったので、そこらあたりに空洞でもあるのではないでしょうか?」
「ああ……。ありそうですね」
「確かめてみます」
フィリス様は滝の方に向かっていき、夜になって服も乾きづらく普通に寒いのに、滝の中に入っていく。
すげえ行動力だな……。何もなかったら濡れ損で終わっちゃうけど。
「セオドアさーん!洞穴のようなものがつづいていますよー!」
滝の中から出てきたフィリス様は手を振りながら伝えてきた。
本当にあったんだ……。滝の裏にある洞穴ってことなら、確かに見つかりづらそうな場所ではあるな……。
もちろん、こういう隠れることに適している場所だからこそ蜘蛛たちにばれている可能性もあるけど、そんなことをいちいち気にしていたら野宿するしかなくなっちゃうし。
ただ問題なのは……。
ごうごうと上から下に大量に水が流れている滝と、滝から出てきたフィリス様がびちょ濡れになっているのが見える。
そしてこの寒空で、寒いとかを通り越して痛そうな滝を通らなければいけないことについて考えてしまう。
「どうしたんですか?隠れるのにはちょうど良さそうですよ」
なかなか動き出さないからか呼びかけられた。
いくら滝に打たれるのが嫌だとしても、フィリス様が率先して滝の中に入り確認してくれたのにも関わらず、行きたくないとは口にできるはずもなく……。
フィリス様が平気そうな顔をしているので、案外そこまで危惧をする必要もないんじゃないかと自分に言い聞かせ、
「……今行きます」
このあと俺は、暴力的な冷たさと叩きつけられる水の圧で悲鳴を上げ、洞穴に入ってしばらくの間、フィリス様に案じられながら自分の肩を抱いて体を温めていた。
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