第七十四話 蜘蛛の魔物2
…………こんな目に会ったのにもかかわらず、まだ終わらないどころか、敵もパワーアップして来るわけね。
「セオドアさん!援護お願いします!」
……やりゃいいんでしょ!やりゃあ!こんな見たこともない魔物が巣食っているとか、何なんだよこの場所は!!
「アーススパイク!」
理不尽な境遇にさらされている怒りを込めて岩の杭を放つが、巨大蜘蛛がお腹に魔法障壁を張られて防がれてしまう。
ただ、俺の魔法に合わせて動いて隙をつく形になっていたからか、フィリス様は巨大蜘蛛の八本ある足のうちの一本を切り落としていた。
巨大蜘蛛はキシャァァァーという唸り声のようなものを上げ、デカ蜘蛛が放ってきた糸を三倍太くしたものを俺に向けて撃ってくる。
避けられないほどの弾速ではないので後方に跳ぶと、後ろに引っ張られる。
何が起きているのか理解できないまま引っ張られるとデカ蜘蛛の姿が現れ、フィリス様がその蜘蛛の頭に剣を突き立てた。
「……ありがとうございます」
「大きいものだけがいるわけではないので、気を付けてください」
……デカ蜘蛛の顔が見えた瞬間、死ぬかと思ったけど……、助けられた。
よく考えたら、親玉っぽいのが相手なんだから、その子分も引き連れているのは当然か。
改めて辺りを見回すと、二十匹以上もデカ蜘蛛が俺たちの周りを囲うようにいた。
「フィリス様。あの巨大蜘蛛を倒せますか?」
「……一対一ならなんとかできるかもしれません」
なんとかできる……。それも一対一ならか……。
周りにいるデカ蜘蛛たちの数からして、倒すだけでもギリギリなのに自分一人でフィリス様の邪魔をさせないように立ちまわるのは無理だろう。
ただ、フィリス様と巨大蜘蛛、周りにいるとりまきのデカ蜘蛛たちを見て、
「取り巻きの方は出来るだけ自分が引き付けるので、親玉の方をフィリス様にお願いしてもいいですか」
「……分かりました」
フィリス様は剣を構え、巨大蜘蛛を見据える。
信用してくれるのか……。逆に困るというか、こういう責任がある感じはあんまり好きじゃないんだけど……。
ただ、この巨大蜘蛛に何かの間違いで勝てたとしてもよそ見をさせないような真正面からの戦い方は出来ないから、消去法的にデカ蜘蛛達を引き付ける役目をやるしかないんだけどさ。
「クイックバレット」
見える範囲にいるデカ蜘蛛全部に頭に狙いを定めて高速の魔弾を放つ。
向こうはまだ初見だったためか、大半のデカ蜘蛛に防御魔法を張られなかったことで魔弾が頭を貫いた。
ただ、すべてとはいかなかったため、こっちに引き付けるという意味もあり近くにいるデカ蜘蛛と近距離戦をする範囲まで近づく。
地面を蹴って足を振り上げて頭にかかと落としを決めてデカ蜘蛛の頭を潰した。
その潰したぐちゅりとした感触にうえぇぇとなりながらも、他のデカ蜘蛛が糸を放ってきたので倒したデカ蜘蛛の死体に隠れてやり過ごす。
すると、目の前にある川からデカ蜘蛛が現れた。
「クイックバレット!」
放った魔弾は防がれ、口を開けながら襲ってくる。
物凄い近距離まで近寄られたせいで、今までまじまじと直視しないようにしていた、複眼の目とか口とか足が見えてしまう。
キッショッ!!
「イグニッションバレット!」
近寄られたくなくて魔弾を何発も過剰なまでに打ち込み、無理やり魔法障壁を突破して倒した。
脅威を排除できたことに安堵していたら、横から引っ張られる。
「うわぁぁぁ!?」
そのまま引っ張られ続けるとデカ蜘蛛の顔が現れて噛みつこうとしてきたので、反射的に右腕を前に出した。
噛みつかれながらも防御壁で防ぎ、
「ッ!!イグニッションバレット!」
左手をデカ蜘蛛の頭に添えて魔弾を放った。
噛みつくのに夢中になっていたとか、至近距離すぎて魔法障壁を張れなかったみたいな要因があったからなのか、防がれることはなく頭をぶち抜くことに成功する。
「セオドアさん!こっちもお願いします!」
フィリス様に目を向けると、巨大蜘蛛が足で踏みつけようとしてくるのを避けながら取り巻きのデカ蜘蛛が吐いてくる糸を避けて、近くにいるデカ蜘蛛に一太刀入れていた。
助けに行こうとして立ち上がろうとしたら、頭上から音がして飛びのき、その場所に糸が放たれる。
「……マジかよ」
見上げると無数の蜘蛛の巣が出来ていて、一つの巣ごとにデカ蜘蛛が張り付いている。
そして、壁に張り付いているデカ蜘蛛が俺たちの逃げ道となりそうな場所に蜘蛛の巣を作っていた。
これ、時間を掛ければ掛けるほど逃げ場がなくなっていくということか……。というか、どんだけいるんだよ、このデカ蜘蛛……。
あまりにもな状況で絶望しかけていたところに、クワァークワァーと野太い鴉の鳴き声が聞こえてくる。
空から体長が四メートル以上はありそうな黒い鳥が蜘蛛の巣を突き破り、くちばしにはデカ蜘蛛が咥えられていた。
そして、巨大蜘蛛と相対するように地面に一本の足で降り立つ。
……敵じゃないのか?
そんな俺の疑問に答えるかのように、翼を羽ばたかせデカ蜘蛛達に竜巻を放った。竜巻に触れたデカ蜘蛛達はなすすべもなく粉々になる。
巨大蜘蛛はフィリス様に構うのをやめて、黒い巨鳥にとびかかる。おそらく、黒い巨鳥の方が脅威だと判断したのだろう。
そのとびかかりを黒い巨鳥は翼を羽ばたかせながら後ろに跳んで避け、また巨大蜘蛛に突っ込んだ。
黒い巨鳥による上手い切り返しを、巨大蜘蛛は高くジャンプすることで避ける。
巨体同士の戦いの癖に、すげえ機敏だな……。
「ヒ―ちゃん?」
うわごとのようにつぶやくフィリス様の声が聞こえて、結構見ごたえのあるこの戦いを観戦している場合じゃないことに気づく。
「……てか、逃げれるんじゃないか?」
黒い巨鳥が巨大蜘蛛とデカ蜘蛛たちのヘイトを買ってくれているので、
「フィリス様、逃げましょう」
「……そうですね」
俺たちはデカ蜘蛛達があまりいないルートを選びながら、この場から逃げた。
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