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第七十一話 巨体の獣人


 城壁の近辺に着くと、壁に爆発でも起きて空いたんじゃないかと思わせる穴が出来ていた。

 

 ……普通だったらこんな穴が出来るようなことが起きれば周りも気づくんだろうけど、家屋が爆発したり魔物が襲ってきたりしてそれどころじゃなかっただろうから。

 これがもし爆発によって開けられた穴なんだったら、人が絡んでいる可能性はありそうか……。


 振り返りフィリス様に目を向ける。


「あの、もしかしたらなんですけど、これから戦う相手は人間かもしれません」


 さっき人の形をしてモンスターを倒せていたとはいえ、本物の人間だと勝手が違うだろう。

 今は子供を助けに向かっているが、もし子供とフィリス様を天秤に掛けなければいけない場合、俺はフィリス様に傾けなければいけないことになる。

 戦力的な面だけで考えればプラスになるのだが、人間が相手となると庇護対象になるかもしれないフィリス様を連れて行きたくない。


「大丈夫です」


「……分かりました」


 こっちが気圧されてしまうほどじっと見られ、了承してしまう。

 ついてきてほしくないという考えは変わらないのだが、覚悟が決まったような様子を見せるフィリス様を拒否できなかった。


「セオドアさんは連れ去られた子供たちとは面識があるのですよね」


「……はい」


 連れ去られた子供たちのことを思い出してしまい、気が重くなる。

 面識のない子供たちであっても、重圧はあったのだろうが、程度はこれよりは軽かっただろうと思ってしまう。

 知らない者たちであったのなら、上手くいかなかったときの顔は思い浮かばない。

 しかし、知り合いだとどうしても表情が浮かんでしまう。

 院長だったら何かに耐え堪える様子を見せながらお礼を言うだろうし、犬族の少年はどうして助けてくれなかったんだと泣き叫びながら訴える姿が思い浮かんでしまうから。

 そして、申し訳ないという気持ちがありながらも、謝ることで相手の気を静められるだろうという打算で謝罪をしている自分が思い浮かんでしまうのが、何よりも嫌だ。

 そんなことにはなってほしくないし、そんなことにはなってはいけないから、失敗できないというプレッシャーが重くのしかかる。


「いました」


 頭を横に振って、そして前を見据える。

 開けた場所には鳥人のような魔物が複数と身長が二メートル程あるのではないかと思わせる巨体な犬耳の獣人がいる。

 近くに森があり、そばに見覚えのある子供たちや知らない人たちが縄に縛られていた。

 そして、ずっと先に行った奥側は崖になっているのだが、ここからではどのぐらい深いのか分からない。


「イグニッションバレット」


 放った魔法で一匹の魔物が倒れたことを合図に、フィリス様は敵がいる方へと向かっていく。

 鳥人の魔物たちは仲間がやられたのに気づいてかキーキーと叫び合い、もう十メートルを切っているところでフィリス様の存在に気づいた。

 すれ違った瞬間、鳥人の魔物は全て上半身と下半身が離れ離れになり、周囲に赤い液体が散らばる。

 フィリス様はその液体を浴びることにはいとわず、縄に縛られ悲鳴を上げている人たちに近づき、縄を斬った。

 助けられた人たちは、赤い液体を浴びたフィリス様に怯えた表情を見せる。

 

 恩人であるフィリス様に……、とは思わなくもないけど、俺が人質だったら似たような表情と感情を抱いただろうからな……。それに俺も、いつもと違うフィリス様の躊躇なさに驚いたし。

 ……こんなことを考えている場合じゃないか。

 

「マルク君たち」


 顔見知りである俺だったら安心するだろうと思い、縄に縛られていた少年たちに話しかける。

 狙い通り少年たちは安堵したような表情を見せ、歓喜の声を上げ合っていた。

 そして、縛られた縄を解き囚われていた人達と一緒に街に戻ろうとしたところで、

 

「待て」


 野太い声が耳に入って、背筋に冷たいものが走り嫌な汗が頬を伝う。

 嫌な予感なんて生易しいものではない、もっと濃密な死で迫っている脳が伝えてきた。


「魔術師と剣士以外は行っていい」


 囚われていた人達は野太い声に従い、俺が声を掛けた少年もこっちをちらちらと見て申し訳なさそうに頭を下げた後、城壁の方へ逃げていった。

 魔術師というのは自分のことではないかもしれないという屁理屈をもとに逃げようとすら思えない。動いてしまった瞬間、自分の頭が飛んでいる姿がありありと想像できてしまうから。


「あの、見なかったことにしてくれるわけじゃなかったんですか?」


 ただ、このまま時が過ぎるのが待っていたとしても死という結果が変わらないことは分かりきっているので、冗談という体で野太い声の主がいる方に振り向く。

 そこには、先ほど見えた巨体の犬族がいた。

 全身筋肉で出来ているのではないかと思えてしまうぐらいの鍛え抜かれた肉体をしており、その巨体と同じかそれ以上に長い極太の大剣を背負っている。


「あれらは脅威とならないが、お前らはそうはいかない」


「……認められているという風に捉えてもいいんですかね」


「ああ、お前らは確実に脅威となる。だから、楽に死ぬか抵抗するか選べ」


 背中にある大剣の柄に手を掛けている巨体の犬族を見て、俺はここで死ぬんだなと悟った。


「逃げますよ!」


 巨体の犬族による圧力のせいで存在をすっかり忘れ去っていたフィリス様に手を引っ張られる。

 頭では逃げられるわけがないと告げてくるのだが、目くらましとして辺りを光らせる魔法を放つ。

 そして、すぐ近くにあった森へ逃げ込んだ。


お読みいただきありがとうございます

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