第六十四話 カラオケ
あの後の会議は帝国の教育機関が人型の魔物に襲われたこと、王国では奴隷商と学園が襲われたということ、俺とクローディアさんが人さらいの獣人化を見たといったことの事実確認が行われた。
それらの事から、魔物化をさせるための人材をさらうのが目的だったのではないかという結論になった。そして、教育機関が狙われたのは実力的にはまだ未熟であり、なおかつ魔法に適性がある人材が欲しかったのではないかと。
「ここはカラオケ屋といい、好きな曲を歌ってストレス発散を目的とした店となっております」
会議が終わった後、皇帝陛下が街を見て楽しんで欲しいと言い出し、なんなら自分が案内すると言ってきた。
リンスコット様はものすごく反対したし、フィリス様やクローディアさんも恐れ多いと断ったんだけど……。
皇帝陛下が俺はこの町のことを一番知っているし、何よりも書類作業をこれ以上したくないとごねだしたのだ。
フィリス様やクローディアさんはあまり口出しを出来ないし、キース様は強く抵抗したのだが、最終的には哀愁を漂わせながら頷いていた。
……不憫だったなぁ、あれ。
そんなこと経緯があり、皇帝陛下が案内人の恰好をして街を案内してもらっている。
「あの、そんなかしこまった喋り方をされなくとも。その、恐れ多いので」
「そのようなことは気にしなくとも大丈夫ですよ」
「いえ、その……。こちらが気後れしてしまいますから……」
クローディアさんの途切れ途切れな喋り方から、相手が皇帝陛下だから言葉を選んでいることが伝わってくる。
「うーん、そういうなら……。他の人もそれでいい?」
フィリス様とクローディアさんは頷き、ポールさんも頭をぶんぶんと縦に振っていた。
俺としても皇帝陛下にこういう言葉遣いをさせていると第三者に見られたら、皇帝陛下にどうして気を遣わせているんだ、みたいな難癖をつけられても面倒だと思い頷く。
いくら皇帝陛下が自分の意志でやっていることだとしても、周りが納得するかどうかは別だからな。
そういう言葉遣いをさせるがよくないと思うのなら、皇帝陛下本人に言って欲しいところだけど、こっちに飛び火して来るのは目に見えているし。
「ああそれと、俺のことはミヤタと呼んでくれ」
……ミヤタ、ね。やっぱりこの人、俺と同じか。
近代化とか、種族差をつけないような政策を行ったという時点で、薄々そう予感していたどころかほぼ確信していたけど、これで間違いないな。
「ミヤタですか?聞きなじみのない言葉ですね」
「俺としては馴染みのある名前だから。今この場でパッと考えた名前じゃあ俺のことだと気づかない可能性があるから、そう呼んでほしい」
「分かりました。ミヤタ様と呼ばせていただきます」
「ああ、よろしく頼むよ」
ミヤタ様はフィリス様に軽い感じで返答した。
「話を戻すんだけど、このカラオケ屋に入ってみない?思いっきし歌うとスカッとするし、結構楽しいぜ」
カラオケか……。
そこまで歌に興味がなかったし、歌うような友達もいなかったからマジで縁がないものなんだよな。
前の世界ではオタクに分類されるタイプではあったから、アニソンぐらいは歌えなくもないって感じだけど、こっちの世界の歌なんて全く知らないよ、俺。
そんな危惧を覚えたがポールさんやクローディアさんを見てことで、みんな初心者だから何とかなるかと不安が和らぐ。
「今日は五名の利用で、代金はここに置いておくから。空いているのはどこ?」
「二の四となっております」
ミヤタ様の唐突な注文に店員さんは慣れた感じで対応して、二の四と彫られている木札がひもで括りついている鍵を渡してきた。
この感じ、この人ここに来るのは一度や二度どころじゃないな。
そんな感想を抱くぐらい、ミヤタ様の目的部屋へ案内がスムーズだった。
部屋の中は思ったより広めで、黄土色の長方形型である木製テーブルの上にマイクのようなものが二本とすぐ近くに六人ほど座れそうなソファー、机がある反対側に縦が一メートル、横が二メートルほどある魔道具があった。
「とりあえず、席に座ってくれ」
一目散に座りに行くのは立場的なことを考えて躊躇していると、ミヤタさんはソファーの端っこに座り、フィリス様はミヤタさんと反対側に座る。
そして、クローディアさんがフィリス様の隣に座るのを見てから、俺はクローディアさんの隣に座った。皇帝であるミヤタ様の隣はなんか嫌だったから。
取り残されたポールさんは皇帝陛下に視線を一瞬向けた後こっちを見て、恐れ多そうにしながらミヤタ様と俺の真ん中に縮こまりながら座った。
「君たちはまだここの遊び方が分からないだろうから、まずは俺がお手本を見せてやろう。ウィーゴー!」
ミヤタ様が席を立ち聞き覚えのある曲名を叫んだら、耳に覚えがある曲が流れてきた。
フィリス様やクローディアさん、ポールさんは驚いたように辺りを見回し、音の発生源であるあの大きい魔道具のことを見る。
いきなり歌が流れてきたびっくりしたのだろう。
ミヤタ様の歌はちゃんと声が出ていて歌い方もこなれており、ああ、カラオケが上手い人ってこういう感じなんだなと思った。
ミヤタ様が歌い終わった瞬間、拍手する音が聞こえてきたので俺も倣うように拍手した。
「とてもお上手です。……それにしても聞いたことのない曲ですね」
「まあ、最近帝国で流行った歌だから」
「そうなんですか。とても元気がもらえるいい歌だと思いました」
「だろ!」
フィリス様の言葉に、まるで自分がほめられたかのようにミヤタ様は凄くうれしそうにする。
自分が作った作品でもないのに、押している作品がほめられた時のような喜び方を。
好きなんだな、この人。あのアニメ。
「それにしても、どういった原理で曲が流れてきているのでしょうか?あの魔道具が音を発生させているのですか?」
「そうらしいよ。俺はあんまり魔道具とか詳しくないから原理は分からないけど、音を保存する魔法を使っているとか言っていたぜ。だから、あの魔道具に収録されている曲しか流れてこないし……。あ、これにどんな曲が収録されているか載っているから見てみて。ちなみに、曲名を言ったら曲が流れて来るから」
ミヤタ様が何故か俺に冊子のようなものを手渡してきた。
明らかにわくわくしている様子のフィリス様か隣にいるボールさんに渡すものなんじゃないかと思いながらも、手渡されたんだったら、自分が歌った方がいいのかなと思い冊子を眺めてみる。
冊子の手前のページではボカロっぽいのや、アニソンっぽいの、アイドルソングみたいな見覚えのある名前が並んでいた。
好き勝手やっているなという感想を抱きながら、これらの曲を歌えちゃったらおかしいよなと思いページを半分ぐらいめくったところで、冊子を閉じた。
「あの、曲名を見てもよく分からないので、ミヤタ様が歌っていたものでいいですかね」
「ん?ああいいぞ」
「じゃあ、ウィーゴー」
流れてくる曲をうろ覚えといった感じで歌う。
わりかし俺も耳になじみがある曲だったはずなのに、気分が乗らなかった。
もともと歌なんてうまくないので、調子に乗っている感じにならなかっただけましか。
「次は私ですね」
フィリス様は立ち上がり、マイクを構えている姿は歌姫という言葉が似合うものだった。
そして何故か、フィリス様が口にしたのはあいつがいつも歌っていた曲名と同じもので。
曲のイントロが流れると、懐かしさとか罪悪感とか哀愁とかいろいろで揺さぶられて、とても透き通った歌声が聞こえてきた。
そのおかげでぐちゃぐちゃしていたものが吹き飛び、フィリス様の歌声に酔いしれることができた。
そして、曲が終わると大声援が耳に流れる。
「あんた大丈夫?」
熱い拍手が途切れたころに、クローディアさんが心配そうな表情でこっちを覗き込みながら言う。
何のことだと思ったら、目元が湿っぽいことに気づく。
「……えっと、大丈夫です」
周りを見ると、心配そうに見られていることに気づく。
そんな表情をされたら、気遣うような声を掛けられたら、色々なものが噴き出てしまいそうで……。
「トイレに行かせてもらいます」
俺は周りにいる人たちに視線を合わせないようにしながら席を立ち、速足で扉まで行って部屋を出た。
他の客にすれ違ったりするのだが、顔を見られないように頭を下げながらちらちら横目で辺りを確認しながら、目的地のトイレを探す。
少しばかり時間が掛かったがトイレを見つけることが出来て、個室に少しの間こもって心を落ち着けた。
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