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第六十二話 帝国


 入国審査が通って帝都に入ると、近代ファンタジーと言ってもいいような光景が広がっていた。

 自転車のようなものに乗っていたり、道行く人たちが現代っぽい服装を着ていたり、カラオケと書かれている店が目につく。

 王国とか俺がもともといた国なんかは、基本的に生活するために必要な店しか見かけないことを考えると一般市民の生活ランクが高いと言えるだろう。

 一番目を引くのが、ビルっぽい背の高い建物があったりすることだ。これのせいで、近代ファンタジー感が醸し出している。


 他の人はどんな反応をするんだろうと見回してみると、第二王子様とクローディアさんとポールさんは目をまん丸くさせていた。

 第二王子様はそんな呆けた姿を見せた後、すまし顔になっていたけど。帝国に驚かされたということを、謎のプライドが働いて認めたくないんだろう。


 シャムロック様は特に驚いたような様子は見せていなかった。

 帝国に来たことがあるのか、それとも事前に帝国のことを知っていたから心の準備ができていたのだろうか?

 フィリス様は見たらすぐわかるぐらい、目をキラキラとさせていた。

 どれくらいのキラキラ度合いなのかというと、目を離したらどっかほっつき歩き始めるんじゃないかと思わせて、しっかりと視野に収めておかないと不安になるぐらいだった。

 普段だったらそういう役割を担うのはクローディアさんだからあんまりそういう気を張らなくても良かったからと言うだけかもしれないけど。

 俺は前の世界の時代から三十年か四十年ぐらいさかのぼったような街並みにビルとかが建っているだけだから、違和感があるくらいだ。

 門の前だけじゃなくて、しっかりとこの街でいろんな種族が暮らしているということには驚きがあったけど。


「貴方達が第二王子様御一行ですね」


 お上りさんである俺たちに、現代人が身に着けるようなスーツを纏った男性がこっちに話しかけてきた。

 三十代ぐらいだろうか。きちっとスーツを着こなしていることで出来る営業職という印象を受ける。

 

「ああそうだけど、アンタは?」


(わたくし)は、貴方達の案内を務めるミヤタと申します」


「ふーん。……その着ている服は何なの?」


 第二王子様はスーツ姿の男を舐めまわすに見る。


 ああ、やっぱりこの服装は疑問に思うんだ。第二王子様って、女の人じゃないとあんな視線を向けないのに。

 王国の偉い人とかは中世とかにいる貴族って感じの服装だし、商人もスーツを着ている人なんて見たことがないから、物珍しいんだろう。

 帝都の街並みのおかげである程度の親和性はあるけど、世界観的には合ってない姿だから俺としても違和感があるぐらいだし。


「これはスーツと呼ばれるもので、帝国の正装と言えるものです」


「……ならいいか。じゃあ、ぱっぱと案内をしてよ」


「かしこまりました」


 案内役の人は頭を下げると、街並みが現代チックなせいでもはや歴史遺産のように見えるお城へと向かっていく。

 俺たちはその案内人の後をつけながら、そういえばフィリス様が静かだなと思って辺りを見回してみる。

 すると、さっきは好奇心旺盛な少女だったのに、貴族のお嬢様に変貌しているフィリス様がいた。

 フィリス様はしっかりいることを確認できて、安堵しながらも、妙に静かなことに疑問を覚える。


 案内人にあのお店は何ですかとか、あの乗り物は何ですか、とか聞きそうなものなのに……。

 もしかして、第二王子様がいるから、あんまり自分を出さないようにしているのか。

 よくよく思い出して見れば、フィリス様の態度が第二王子様の対応する時と同じ感じだし。





「ねえ、もう疲れてきたんだけど」


「もう五分ほどで目的の場所である、会議室に着きますので」


 案内人は第二王子のいちゃもんに眉一つ動かすことなく、臆したような様子も見せない対応をしていた。


 もう疲れたって……。まだ二十分しか歩いてないけど。

 特に疲れているようにも見えないし、終始あくびをしていたことから飽きているんだろうな。

 しかも、この後に退屈で仕方がない会談が控えていることで億劫とか思ってそうだ。他国の王城に入っても緊張感を見せる様子もないところを考えると、自分の国がどうなるかとか、相手国との関係なんて興味なさそうだしな。

 第二王子さまってだいたい高校三年生ぐらいだろうから、そういうのに興味ないのも仕方ないような気もするけど。

 ……いや、立場的に興味持つべきではあるか。というか、そういう王になるための教育を受けているはずだから、色に狂っているにしてもそこら辺の責任感とかはありそうなものなのに。……ってことは、周りが悪いのか?


「ねえ、そこのお姉さん。俺と一緒に遊ばない?」


「ん?妾に言っておるのか?」


 若干第二王子様だけが悪いわけでもないのかなとか思い始めていたところに、会議が控えているのにもかかわらず、すれ違ったとんでもない美女に声を掛けていた。

 金色の髪と緋色の目、スタイルに関しては比の打ちどころがなく、どこか妖艶というべき大人の色気がプンプンとする。

 それと同時に一般人では生み出せない存在感、みたいなのがあった。


 え、マジかこの第二王子さま……。いくらフィリス様レベルかそれ以上の美女とは言え、大事な会談がある前にナンパをするか、普通。

 ……いやもう、常人じゃなしえないことを平然とやってのけるな。ここまでくると、尊敬を覚えるレベルだわ。

 

「なんであいつが……」


 案内人がさっきまでの丁寧な言葉遣いとは違い、乱雑な言葉遣いで言う。

 それも、位置関係的に俺にしか聞こえないような小声で。


「ねえどうなの?実は俺、王国の第二王子でさ、次期国王候補なんだよね。お姉さんだったら今晩とは言わずに、王国まで連れてってあげてもいいよ」


「ほう、魅力的な誘いであるであるな」


「そうでしょ、そうでしょ」


「まあ、頭に脳みそが詰まっていない女であるならば、という注略はつくがの」


「はあ?」


 第二王子さまは言われたことが理解できないとでも言いたげな呆け顔をした。

 

 お、いいぞ。もっと言ってやれ!それでもって、心を折らしてここにいる間だけでもいいから大人しくさせてくれ。

 

「おぬしと逢瀬を楽しむぐらいなら、そっちのパッとしない案内人の方がましであるぞ」


「はぁ!?」


 金髪美女は胸元に手を突っ込み、そこから取り出した閉じた状態の扇子を案内人に向ける。

 取り扱いが難しい話をぶっこまれた案内人は、さっき聞こえた素の部分らしき態度を出しながら何言ってんだとでも言いたげな顔をした。

 

「こんな地味な見た目の奴の方がいいって言うのかよ」


「そうだのう。良しというわけではなく、ましというだけ――」


「第二王子殿下、このような者の話を聞く必要はございませんよ。この者は見てくれだけはいいのですが、素行が悪く、皇帝陛下でさえもこういった口を利くのです。第二王子殿下の方が劣っていると口にしたのも、殿下を不愉快にさせるため――」


「もういい!!俺もう帰るから!」


 第二王子様は怒鳴り声をあげて、すたすたと出口の方へと向かっていってしまう。

 

 自分より優れていると評価された奴に、あんなに分かりやすいおべっかを言われたら、第二王子様の周りからぬくぬく養成されてきたプライドじゃあ傷ついちゃうわな。

 まあでも、怒り出すタイプじゃなくて、すねっちゃう感じなのはありがたい。

 

「あー……。すみませんね、うちの殿下が。殿下を一人にしておくこともできないので、自分もお暇させてもらいますね。一応、戻るようには説得しますけど、皇帝陛下には第二王子及びカーティス・シャムロックは欠席すると伝えておいてください。……じゃあ、この後は任せるね、フィリスちゃん」


 シャムロック様はフィリス様の返答を待たずに、城の出口に向かっていった。


 まじかよ……。第二王子様はいる方が問題を起こしそうだから別にいいと思ったけど、シャムロック様がいなくなるのは違くない?

 軽いけど有能そうな雰囲気があるし、あの第二王子様のお目付け役として来ている面もあって、実際能力があるタイプの人だと思うから、いなくなるのは困るんだけど。

 まあ、第二王子様を一人にさせておくわけにはいかないから、こうなるのは必然なのかもしれないけどさ。


「あの小童(こわっぱ)のプライドを的確にへし折る言葉選び、流石だの」


「はあ?俺はただフォローしただけだぞ」


「あれでフォローしたつもり……?はっはっは!やはり貴様はあほだし、面白いのぉ!」


 金髪美女は高笑いしながら、突然現れた楕円形の姿見のような形をした何かに入り、どこかに消えていった。

 

 もしかして、今の空間魔法でどこかの場所につなげたってわけじゃないよな……。 

 いや、そんなわけないよな……。だって、空間魔法で好きな場所を行き来できるとかおとぎ話の話だし。


「クソッ、あいつ。場を荒らすだけ荒らして、帰りやがって。……あ。皆さん、皇帝陛下の待合室まであと少しですから、ついて来ていただけますか」


 案内人は金髪美女が消えた方向に恨み言を吐いた後、俺たちに見られているのを気づいたのか初めて出会った時と同じ丁寧な言葉遣いで聞いてきた。


 いやもう、取り繕っても遅いよ。


 そうツッコミたかったが、そんなことを言っても向こうが困るだけなので心の中で呟くだけに留めた。


お読みいただきありがとうございます

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