第六十話 また呼び出される
ありえん強い三匹の魔物に襲われた後、学園から戻ってきたら生徒とか先生が魔物に襲われていた事件は、オウカさんが戻ってきたころには収束していた。
生徒教師共に少なくない死傷者が出ており、さらには連れ去られて消息不明の人もいるらしい。
そんなことがあったので当然のごとく学園は休みとなり、ひと月が立っていた。
俺は基本的に怠惰に過ごしたいと考えている人間ではあるのだが、さすがに今回はこの休みに喜ぶというような不謹慎な考えはない。
こんなことを考えている時点で思いやりという部分が欠けているのではないかと言われるんだろうけど、開き直ってやったーといったような反応をするよりはましだろうと、今回は悲しい事件だったと思うようにしている。
「とても緊張しますね」
「そうですね。今回で二度目ではあるんですけど、正直落ち着かないです」
落ち着かないどころか、今すぐ帰りたいレベルなのだが。
なんでそんな気分なのかというと、また王城に呼ばれてしまったからだ
俺以外にも、フィリス様、クローディアさん、そして今俺に話しかけてきたポールさんと、エリザベスさんもいる。
どういう理由でここに呼ばれたのかは聞いてないが、いるメンツを考えると盗賊に襲われた時のグループではあるなとは思っている。フィリス様はあの時はいなかったが、俺とクローディアさんの主として呼ばれていると考えられるし。
だからって具体的になんで呼ばれたのか推測が付くわけじゃないけど。
「お入りください」
豪華な扉から出てきた衛兵らしき人が、俺たちに呼びかける。
この扉に入った後、何を聞かれて、何をさせられるのかと心中でため息をつきながら、衛兵のあとに続く。
ただ、中に入ると前にいた貴族っぽい人達はいないことが分かって、ちょっとだけ安心した。
衛兵の後をつけて王様の前まで着くと、まずフィリス様がお辞儀をし、そしてクローディアさんは左ひざを立てもう片方の膝を床につけながら頭を下げた。
俺は不格好なんだろうなと思いながらも、クローディアさんに続けて同じことをする。
自分だけ上手くできてなかったら目立ちそうで嫌だなと思い、横目でエリザベスさんのことを見る。さすが大商人の娘というべきなのか、俺なんかよりもしっかりとした敬礼が出来ていた。
でもポールさんなら俺レベルの不格好なものになっているんじゃないかと期待しながら確認してみると、意外に、いやかなり堂に入っているように見える。
ダメなの、俺だけかよ……。てか、なんでポールさんがこんなにしっかりできているんだ……。
「面を上げよ」
向こうは使用人に礼儀がしっかりできることを期待していないのか、特に咎められるようなこともなく顔を上げるように指示される。
指示された通りにすると、前に見た時と同じ王様と、原稿のようなものを持っている硬そうな雰囲気の背が高い男の人、王様を若くしたらこうなるんだろうなと思わせる外見をした少年がいた。
「一か月前、学園に人型の魔物に襲われたと聞いているがそれは間違いないか?」
「はい」
王様ではなく原稿のようなものを手にしている男から質問され、それにフィリス様が答える。
「貴方達の学園が魔物に襲われた三日前に、わが国でも一、二を争う奴隷商が謎の襲撃にあった。その奴隷商は千を超える奴隷を扱っていたらしいのだが、その襲撃によってすべての奴隷が奪われたと奴隷商の店主から報告を受けている。また、帝国でも人型の魔物が押し寄せてきたと一週間前に知らせが届いた」
奴隷商から千人以上の人が誘拐されて、うちの学園と帝国も人型の魔物に襲われた、か。
前に戦った人さらいの二人、人が飲むものとは思えないような色の薬を飲んで、チーターの獣人とモグラになったってことがあったよな……。
「そこの二人は賊が薬を飲んで人ではなくなる姿を見たらしいな」
「はい」
俺とクローディアさんは頷く。
「千以上の奴隷がどこに消えたのかということ、学園と帝国で襲撃があった際に人型の魔物が多かったこと、そして賊が薬を飲んで人でなくなったということを合わせて考えると、人が魔物化したからではないかと陛下は結論付けられた。帝国側も同じ結論を出している。そして、わが国と帝国は今回の事態を重くとらえ、一度話し合いの場を作ることになった」
え、なんでそんなこと、俺たちを呼んで伝えてくるの?
……まさか。
「よって、人が魔物化をしたところを目撃した貴方達には第二王子であるアラン殿下と共に帝国に赴いてもらう」
……マジか。そんな重役、俺たちに任せるなよ。
そんな重要なことを俺たちに任せていいのと思ったけど、格みたいなものは第二王子とかいう人も一緒につけることで補っているということなんだろうな……。
こんなん絶対に嫌だけど断るような勇気はないし、そもそも決定権を持っているのは俺じゃないし……。それに、断るという選択肢がない命令口調だったからな……。はぁ。
「あー、もういいよね」
「はい」
硬そうな雰囲気のある男の人なのに、いきなり口出ししてきた王様の面影ある少年に異を唱えない。
そして、その少年は席を立ちフィリス様の前まで来た。
「ねえ、君の名前って確か、フィリスだったよね」
「はい」
「じゃあさあ、フィリス、俺の側室にならない?」
え?いきなり?
「……申し訳ありません。私はまだ籍を入れることを考えておりませんので」
「そうなんだ。じゃあ今すぐ決めた方がいいよ。俺の妻になれるなんて幸運はそうそうあるもんじゃないからさ」
かなり自信に満ちた発言だな。初対面の相手を呼び捨てだし。
「アラン殿下、フィリス様は困っているご様子です。いくらアラン殿下のような魅力的な男性であっても、とつぜん誘われては心の整理がつかないものです。それにご結婚となると、この場で決められるようなことではございませんよ」
アラン殿下って呼ばれたな……。てことは、やっぱりこいつが第二王子なのか。
だとしたら、妻になれたら幸運っていうのはあながち自信過剰とは言えないか。
まあ、フィリス様は第二王子だと分かっても目の色を変えたようには見えないから、脈はなさそうだけど。
「硬いこと言うなよ。確かにフィリスは家のことを考えて断ったのかもしれないけど、やっぱり愛が一番大事でしょ。だから、余計な口出し――」
「アラン」
「……ちっ。……じゃあもう俺、部屋に戻るわ」
王様が名前を呼ぶと第二王子は不貞腐れた様子を見せ、ここから出ていった。
……まだ解散してないのに、自分の都合がいいようにいかなかったらってどっかに行っちゃったよ。
俺以上のダメ人間じゃん。
……というか、あの第二王子と一緒に帝国の重要な話し合いをしに行かないといけないの?
「では、よろしくお願いしますよ、フィリス嬢」
「……はい」
フィリス様は珍しく少しひきつったように見える笑みをしていた。
……まあ、そりゃそういう反応になるわな。
あの王子、帝国で絶対なんかやらかしそうだから。俺も気が重いし……。
いや、ここが自分の国だから、ああいう自分勝手な行動をしたというだけだよな。
そうじゃないとあんなのを他国の代表として送り出すなんてことするわけないもん。うん、間違いない。
帝国に行くというだけでも面倒なのに、あの第二王子のせいで起きるなんてことを考えたくなくて、そう自分に言い聞かせた。
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