第五十三話 逃げ道なし
学園外に出るということでいつもの待ち合わせ場所である校門でオウカさんと合流した。
そこから歩いて二十分ほどたち、郊外に出る際の特訓場所である森を通り過ぎていた。
「今回はいつもの所じゃないんですね」
「うむ。ラストが同じところでは味気ないでござろう」
「いや、別にそんなことはないですけど……」
むしろ同じところで安心させてほしいまである。
勝手がある程度分かっている場所で難易度が高いことをさせられるのと、全く何も知らない難易度が高いところを行かされるのとなら、前者の方いろいろとやりやすいはずだから。
だからそんな粋な計らいは要らないんだけどなと思いつつ、奥から魔力が感じ取れる洞穴のようなものが見えてきた。
「あの、もしかしてここが」
「うむ。今回のセオドア君が挑んで欲しいところでござるよ」
……なんか前にこういうところを一度見たことがあるなぁ。入り口は違うけど、魔力が感じられるところがまんま同じだ。
「ここってダンジョンですよね」
「よく分かったでござるな。……そういえば、セオドア君は護衛の職に就く前は冒険者でござったな」
「はい。まあ、基本的に危険の少ない依頼を受けていたのでダンジョンを潜ったことはないですけど」
「つまり、これが初めてということでござるな」
「そうなりますね」
冒険者として活動していた時は、こういう危険そうなところには近づかないようにしていたのにな……。
「ここで何をすればいいんですか?」
「最深部まで潜ってほしいでござる」
「……え?」
冗談だよね?
でも、オウカさんってたまにしか冗談を言わないし……。
ただ、冗談を言っているようにも見えないから聞き間違いをしたのかな?
「もしかしたら聞き間違いをしているのかもしれないので、もう一度言ってもらっても」
「最深部まで潜ってほしいと言ったでござるよ」
「???あの、最深部までっていうのはこのダンジョンの一番奥まで行けってことですか?」
「うむ」
「え、無理じゃないですか?そもそも食料とか持ってきてないですし」
オウカさんは肩から下げているハンドバッグのようなものに手を突っ込み、肉塊のようなものを取り出した。
見た目的に干し肉だろうな、あれ……。前に一度食べたことがあるけど、塩辛くてけっして美味しいと言えるようなものでは無かった記憶がある。
「しっかり持ってきているでござるよ」
「いやでも、それじゃあ一食分もないよう――」
「まだまだあるでござるよ」
俺が言いきる前にオウカさんはハンドバックの容量に見合わない量の干し肉を取り出した。
オウカさんが持っているハンドバック、マジックバッグってやつか……。結構高価なものだった気がするんだけど。
「それに手持ちがなくなったとしても、魔物を食べればいいだけでござるからな」
魔物を……。
前に食堂で食べたやつは意外と美味しかったから火を通して調味料でも掛ければ食えなくはないんだろけど、見た目のことがあるし……。
はぁ、しっかりと準備がされているところを見ると本当に潜らされそうだ。
やだなぁ……。
「あの自分、このダンジョンが初見などころか、ダンジョン自体に入ったことすらないんですが」
「大丈夫でござるよ。拙者もついて行くし、ここに出現するモンスターもセオドア君の敵ではないでござるから」
一応、一人で潜らせたりはしないのか。
……そりゃそうか。俺だけ一人で潜ったら、最深部まで到達したかどうかをオウカさんが確認するすべがないわけだし。
「いや、なんかその……。ダンジョン自体が初めてだから、最深部までとかじゃなくてもう少し緩い目標、例えば中層まで行ったら終わりみたいな」
「うーむ、そこまで広いダンジョンではござらんからな。それに、初めてのダンジョンで踏破してこそ箔がつくでござろう」
オウカさんはしたり顔をする。
いや、そういうのは求めてないです。
ちょっとは頑張ろうという気持ちはあるけど、ダンジョンを踏破は難易度が高すぎるよ。
……でも、これ以上否定するのはあまりにもやる気がない感じに見えてしまうから、まずはどういうところなのかということを聞いてみるか。
「ここって、一番下まで行くのにどれぐらい時間が掛かるんですかね?」
「そうでござるな……。今日ここで一晩を過ごすぐらいでござるかな」
……え?てことは、一日はかかるってこと?しかも、寝泊まりはダンジョンの中?
ごつごつとしたダンジョンの床上で寝るとか、魔物と戦うことよりもずっと嫌なんだけど。
「ダンジョン内で寝泊まりとか大丈夫なんですかね?」
「うむ。でないと、深層のダンジョン攻略が出来なくなってしまうでござるからな」
「確かに……。でも、初めてダンジョンに潜るような人がやることじゃないような気もするんですが」
「……そんなに嫌でござるか?」
いくら厳しいものであったとしても、夜だけは自分の部屋で過ごせるという憩いの時間があることが心の支えだったから、正直物凄く嫌ではある。
ただ、オウカさんが一度もしたことがない悲しそうな表情をしてるのを見てしまい。
「……いや、そんなことはないですけど。……ただ心配で」
「そういうことでござるか。心配せずとも、何かあれば拙者が何とかするでござるよ」
オウカさんはドンと胸を叩き、こちらを安心させるような満面の笑みを浮かべた。
ここでそれでも不安ですと言えば面倒くさい奴になっちゃうし、もっといろいろと準備した方が……、みたいな御託を並べれば並べるほど向こうに相当やる気がないんだなと思われるだろうからな。
……積みか。
「そういうことなら大丈夫そうですね。じゃあ行きましょうか」
もうどうせこのダンジョンを潜ることが確定しているのなら、ぐずぐずしていても帰る時間が長くなるだけなので、さっさと潜ることを提案した。
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