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第四十七話 魔導杖3


「少し小腹が空いてきたので、まずはあそこに寄ってもいいですか?」


 フィリス様が指さした先は屋台形式のパン屋だった。


「はい。自分も朝食から結構な時間が経っていてお腹が空いていたところなのでちょうどよかったです」


「ふふ、ほんとですか。奇遇ですね」


 近寄ってみると、チョコっぽい見た目のパンやアップルパイ、ドーナッツのようなものなどが並んでおり、甘い系、つまりは菓子パンのようなものが多めに売られている店のようだ。

 普通に美味しそうに見えるのでもっと人が並んでいてもおかしくなさそうと思うのだが、全体的にちょっと値が張るためなのか前には三、四人ほどしか並んでいない。

 

「セオドアさんはどれを選ぶつもりなのですか?」


「そうですね……。アップルパイがいいです」


「一つだけですか?」


「はい」


 実はそこまでお腹が空いているわけでもないというのと、やっぱりちょっと高いので何個も頼むつもりにはなれない。


「フィリス様はどれを?」


「あれとあれとあれを選ぼうかと思っています」


 チョコのような見た目をした黒いやつと、丸っこい普通のパンと、砂糖がたっぷりかかっているドーナッツか。相変わらずよく食べる。

 こうも太りそうな物を躊躇ちゅうちょなく食べて、よく完璧と言ってもいいような体型を維持できるよな。

 常日頃、体を鍛えているからなんだろうけど。


 そんなことを思いながらパンを買った後、俺たちは近くにあるベンチに座った。


「あ、うまい」


 とりあえずの話題作りとしてのものではなく、素直な感想だった。

 リンゴを生かした甘さとすっぱさがあり、甘ったるくないのが口にあっている。

 

「このチョコパンも中にチョコのムース入っていて、美味しいですよ。一口食べてみますか?」


「え?いや……」


 フィリス様が自然な感じで、口にしたチョコパンを俺に渡そうとしてくる。

 別に人が口にしたものを食べるのに抵抗があるわけではないが、さすがに女の人からのものとなるとためらいが出てしまう。


「チョコレートのような甘いものは苦手でしたか?」


「いや、そういうわけではないんですけど……」


「なら、あ……。高価な食べ物ですからね、遠慮してしまうのは分かりますがとても美味しいので食べて見て下さい」


 フィリス様は自分がパンに口をつけた部分を見て何かに気が付いたような様子を見せると一瞬だけ口元をゆがめ、そしていつもの柔らかな微笑みを向けてきた。


 絶対に今、俺が何に躊躇しているか気づいただろ、この人。それなのに勧めてくるとか……。

 あと、周り――特に男の人から怨念のこもったような視線を感じるんだけど。

 はたから見ると、うぶなカップルって感じだろうし、何よりもフィリス様のような美少女とっていうのが大きい気がする。

 俺が望んでこうなったわけじゃない、むしろ遠慮した結果こうなったんだからそういう視線は勘弁してほしい。


「ありがとうございます」


 ここで嫌がるのもフィリス様に負けた気がして、だったらすぐにこのくだりを終わらせようとチョコパンを受け取った。

 チョコパンの断面をじっと見たどうしようか悩んでいたら、食べる部分だけを手でちぎってしまえばいいことに気づく。

 俺がそうやってちぎっている姿を、フィリス様がにやにやしながら見てきた。


 ……わざわざちぎっているところをにやにやみられると、意識しているねと言われているみたいでちょっとやりづらい。


「うん、美味しいです」


 主にフィリス様と周りからの視線のせいで、味わうような余裕はなかったがかなり甘いということだけは感じ取れた。

 自分だけ意識しているのが悔しくなって、じゃあ自分のはどうですかと言ってやろうと思ったが、フィリス様が何のためらいもなく口にされてしまうと完全敗北してしまうことに気づきやめた。

 そもそも、女の人に自分のたべかけのものを渡すというのも抵抗があるし。


 この後、道行く人にちらちらと見られるのが恥ずかしかったので、すぐに移動したかったのでアップルパイ急いで食べた。


「セオドアさん、食べ終わったんですね。では、次に行きましょうか」


 まだ何かあるのかと思いながら、パンを美味しそうに頬張るフィリス様について行く。

 商店街のような街並みを歩く中、ひときわ大きい店が目についた。


「ここです」

 

 貴族の屋敷レベルの大きさだな。何の店なんだろう?

 スーパーみたいには見えるけど。


 そんな感想を持ちながら店に入ると案内板があり、食品、家具や服といったそれぞれがエリアごとに分かれていると書かれていた。

 魔道具も扱っているエリアや、レストラン街、プレイルームというのもありかなり多種多様なお店があるらしい。

 服や家具が安いものから高いものまで揃っているなという感想を抱きながら奥に進み階段を登りきる。

 さっきまでは主婦みたいなのが多かったのに、階段を登り切った先は俺たちと同世代か少し下ぐらいの子供が多かった。

 さらに進むと複数の卓球やポッケ―の台が並んでいた。


「前来た時にとても楽しそうだなと思ったのですが、一人できるものがなかったんですよ。ただ今回はセオドアさんと一緒なので、ちょうどいいと思ったんです。ここにあるもので遊んでみませんか?」


「はい」


 ここまで来て遊ばないという選択肢は俺の中でもなかったので、素直にうなずく。

 受付の人に使用料を払い、遊び方を聞いて球とラケットを借りた。

 ちゃんと持ち手にでっぱりのあるペンホルダー用の奴とシェイクハンド用の奴があり、俺とフィリス様はシェイクハンド用のラケットを借りる。

 受付の人からは子供たちが遊んでいる卓球台ではなく、少し行ったところにある仕切りで隔離されている台に案内された。


「まずは受付の方から説明を受けたラリーというものをやってみましょうか」


「そうですね。このゲームの基本って言っていましたし」


 実は前世で中学校の頃は卓球部に所属していたし、今生では体を鍛えているというのもあってそこそこ自信がある。

 だから、初心者であるフィリス様にガチガチの対戦をするのは気が引けたので、お互いに打ち返すだけのラリーはちょうどいいと思いうなずいた。


「じゃあいきますよ。この台の上に跳ね返るようにして打てばいいんですよね」


 フィリス様によって放たれた球は一瞬で消え、耳元で風を切るような音が聞こえた。


「……え?」


 何が起きたのか状況がつかめない中、後ろを向くと壁に魔法障壁のようなものが発生していて球がぽとりと落ちるのが見えた。

 

「少し力を入れすぎましたか?」


 フィリス様のその言葉で何が起きたのかを瞬時に理解する。

 フィリス様の打った豪速球が俺の横を通っていったのだろうと。

 起きて事象を理解してしまったことで体から嫌な汗が分泌されだす。

 

 え?これ、当たってたら死んでたんじゃないの、俺……。

 体を鍛えて前よりも動けるから手加減してあげないと、とか思ってたけど、それ以上に化け物じみた戦闘力を持つフィリス様がなんの制約もなくやったらこうなるのは当然か……。


「……まあそうですね。ですから、かなり力加減してもらえると」


「……分かりました」


 この後はちゃんと俺でも反応できるぐらいの速度で球を打ってくれたので、ラリーが成立するようになった。


 俺としては加減してもらっても普通に楽しめているけど、フィリス様としては全力が出せなく退屈だったりするのかな。

 もしそうだったとしても、加減してくれないと話にならないしなぁ。


「拙者も混ぜてはくださらぬか?」


 ちょうど俺が球をこぼしてしまったタイミングで、一人の少女が話しかけてきた。

 少女は黒髪と薄い茶色の目から日本人を想像させるような容姿をしていた。顔立ちもかなり整っており、胸も大きめで余計肉が付いていない理想な体型をしている。

 見た目と口調が相まって、忍びという言葉が頭によぎった。


「受付の方にここを使ってくれと言われたのでござるよ。申し訳ないが、どちらか譲って下さらぬか?」


 なるほどね。フィリス様による反応することすら出来ない豪速球でも球、ラケット、卓球台に傷一つついてないなと思ったけど、特別だったのか。

 てことは、この少女も規格外だったりするのかな?


「あ、じゃあ自分がどきますよ」


「ありがとう」


 この黒髪の少女と卓球をすることに嫌な予感しかしなかったので、ちゃんと球が飛んでこなさそうだなというところに避難する。


「この遊びはやったことがありますか?」


「うむ、故郷で何度か。であるから、貴女がよろしければそこの御仁を待たせるのも悪いので、さっそく手合わせしてもらっても良いでござるか?」


「あ、自分のことは気にしなくていいですよ」


 この黒髪の少女はどれほどの実力があるかは分からないけど、俺がこの二人と卓球するような事態にはなってほしくないのでしっかりと言っておく。


「そうでござるか?ならまず腕慣らしで?」


「いえ、真剣勝負でお願いします」


 フィリス様の返答に黒髪の少女は愉快そうに少し口元を歪めると、左手で球を投げ右腕が一瞬ぶれたように見えた。

 フィリス様もいつの間にか、台の右側に動いていた。

 

「まずは、拙者が一ポイント先取でござるな」


 え、なにこの見ることさえ出来ない超人同士の試合。

 そしてフィリス様に勝ったのか、この人。

 故郷で卓球をやったことのある経験者であるとはいえ、そもそも身体能力的にフィリス様と同じ土俵に立っていないと勝つことなんて到底できないよな。

 ……ここまで規格外な者同士の戦いがどういう結果になるかは気になりはするけれど、怖いから逃げよ。


 俺はそっと他の卓球台で遊んでいる人達の所に行き、平和な卓球をしている同い年の人たちの戦いを眺めることにした。

 そして五分ほど時間が経ち。


「楽しくござった」


「ええ。また再戦をお願いします」


「うむ。貴女からの再戦ならいつでも受け付けるつもりでござる。そこのいる貴殿も、譲ってくれてありがとうでござるよ」


 黒髪の少女はそういって、去っていった。


 終わったのか。

 話の内容からして、黒髪の少女が勝ったのかな?

 剛速球を打ち出すフィリス様に勝っちゃうとか、あの黒髪の少女、絶対に卓球だけが上手いだけじゃないだろ。

 日本人みたいな見た目をしているというのもあって気になりはするけれど、だからと言って何かできることがあるわけでもないしな。

 

「そろそろ帰りますか?」


「そうですね。今日はセオドアさんと一緒に街を回れてとても楽しかったです」


「自分も楽しかったです。それと案内ありがとうございました」

お読みいただきありがとうございます。


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