第四十二話 王国の貴族
「オルコットさんと、アッカーさんですよね?」
「え?は、はい」
「そうです!」
ブレイクリー、オルコット、アッカーの三人で集まり話し合っているところに、フィリス様が声を掛ける。
だらしない体つきをしたオルコットは振り向いてフィリス様を見ると表情をこわばらせ、ヒョロヒョロな体格のアッカーは少し興奮気味に返事をした。
オルコットは汗をかき挙動不審な様子なのに対し、なぜアッカーはチャンスが来たとでも言いたそうな表情が出来るのか。
話しかけてくるタイミングを考えたら、どう考えてもいい方向の話にはならないと分かるはずだがな。
もし、あの依頼したのがこやつらでないのならそうおかしい反応ではないといえる、……いやだとしたらオルコットの反応がおかしいか。
「何かこの二人に御用ですか?フィリス嬢」
オルコットとアッカーに話しかけたはずなのだが、ブレイクリーが話に乗ってくる。
オルコットとアッカーしか名前に挙がってなかったが、こやつも関係があるのか?
「ええ、少しお聞きしたいことがあるのです。実はつい最近、わが家の使用人が人さらいに襲われまして。幸い連れ去られたり大きな怪我をしたりといったことはなかったのですが、もしこれがわが家を狙われたものだとを考えると……。何かお心当たりはありますでしょうか?」
「全くありません!」
「わ、私もです!」
二人は顔を真っ青にしながら頭を振る。
恐らくだが、自分たちのしたことがただの使用人を狙っただけということにならずに、オズボーン家をターゲットにした犯行だと思われていたからだろう。
使用人を狙ったというだけならば、追及されてもどうということはないと考えていたのだろうが、オズボーン家を狙ったとなってくると話が変わって来るからな。
フィリス様はどんな人でも対等に接する貴族なのかでも稀有な方であるから、使用人であるクローディア殿やセオドア殿のためにこういった追及をしているというのはある。
だが、そもそも他の貴族であっても、自分の所有物が傷つけられればいい気はしないということを、この二人は分かっているのであろうか。
……分かっているならば、こんなことはせんな。
「なんで二人にそんなことを聞くんでしょうか?フィリス嬢のご心配は分かりますが、私達じゃ分かるはずないじゃありませんか」
「実はその人さらいから話を聞いたところ、オルコットさんとアッカーさんからの依頼を受けたと言ってまして」
「……本当なのか、オルコット、アッカー」
オルコットとアッカーは必死に頭を振る。
「二人はそんな依頼をしていないと言っています。それに、こいつらはそんなことが出来る奴じゃないです!きっとその賊たちは、俺たちをはめるためにそんなことを言ってるんだ!」
俺たちをはめるため……、人さらいたちが何のためにそんなことをする必要があるのか。
そもそも、オルコットとアッカーはそんなに名の知れた貴族ではないし、わざわざ関係のない貴族に喧嘩を売り、目を付けられるようなことをする理由なんてないはずなんだがな。
「……そうですよね。お時間を取らせてすみませんでした」
ブランドンが想像以上の大声を出したためか、視線が集まり始める。
フィリス様はその視線を嫌ってか、頭を下げた後にこの場を離れていくので、吾輩もついて行った。
「やぱり、問い詰めることは出来ませんでしたね、アリンガムさん」
「そうですな。ですが、あ奴らの反応を見る限り黒で間違いないでしょう。ただ、ブレイクリーが関係しているのかは分かりませぬが」
「恐らくですが関係していると思いますよ」
「何故そう思われたので?」
「私はオルコットとアッカーの名前しか出してないのに、俺たちをはめるためにそんなことを言っているのだと口にしていたからです」
「なるほど」
人さらいからオルコットとアッカーの名前が上がったとか口にしていないのに、俺たち――つまり自身も含めた言い方をしているということか。
「そのような失言をしていたのだとしたら、どうして指摘しなかったので?」
「指摘したところでただの言い間違いですと言われたら、こちらから問い詰めていかなければならない状況になりますから。ただ、そういうことをすると悪目立ちしてしまいます」
「だとしたら、教室ではなく人がいないところで問い詰めればよかったのでは?」
「一人づつ問い詰めることも考えました。それをすれば、あの二人を追い詰めることは出来るとは思いますが、たかだか使用人のためだけにそこまでするのだという悪評が付くでしょうからね。それを悪評であると捉えるような者たちにどう思われてもいいですけれど、選民思考に染まっている貴族が多いこの国だとそういう行動はあまりいい見られ方をしませんから。少なくとも今は目立つようなことを避けたいところです」
「相変わらずフィリス様は貴族のことがお嫌いですな」
「ええ。だって、私たちを支えて下さっている人たちを貴族でないというだけでないがしろにするような恩知らず達を嫌悪しない方がどうかしていませんか?」
吾輩はフィリス様を見て、背筋がぞくりとした。
光のない瞳と、冷たい笑みを浮かべていたからだ。吾輩に向けられているのではないと分かっているのだが、それでも気圧されてしまう。
まだ仕えて日付は浅いが、フィリス様がほぼ接点がない相手を呼び捨てしているようなところを見たことがないし、やはり選民思考な貴族というのが嫌いなのだろう。
「吾輩も参加した社交界に出た時に、使用人を少し気に入らないというだけで怒鳴っているのを見た時はあまり良い気分ではなかったですな」
「あなたはそういう人ですよね。そういう感性の持ち主だと分かっていたから、私はアリンガムさんを拾ったわけですし。もちろん、実力があるというのも理由としてはありましたが」
「……さらっと、吾輩を雇った理由をおっしゃいましたな。初耳ですぞ。……それと、吾輩にはもうアリンガムという姓はないのですから、モーガンと呼んでくださいと何度も言っているではありませんか」
「ふふ、すみません。そういう反応が見たくて、モーガンさん」
「まったく、困りますぞ」
こういうところを見ると、ただのいたずら好きな美しいご令嬢なのだがな。
吾輩を選んだ理由は今口にしたことであろうが、どういう目的で王国で一番の防御魔法を使える家系の吾輩を拾ったのかはまだ聞いたことがない。
吾輩の役割はこの方をお守りすることであるからして、フィリス様がどんなことするつもりかなどはどうでもいいことであるが。
「今回は彼らを見逃すことにしましたが、次は見逃すつもりはありません」
「お気持ちは分かりますが、手荒な真似は目立ちますぞ」
「ええ、分かっています。……今回、付き合ってくれてありがとうございました」
「いえ、これが吾輩の仕事ですから」
「なら、また頼らせてください」
ふふっと笑うフィリス様は見て、世の男たちがこの笑みを向けられたらおそらく勘違いを起こすのであろうなと思いながら、自室に戻った後にする荷造りについて考えを巡らせた。
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