第四十話 人さらいたちとの激闘5
まだ続きます
「良かったんですか?」
「よくはないですけれど、まあ仕方ありません。チェスター君はわがままですからね」
二対二で戦った方が良かったんじゃないかという意図での発言、言葉足らずだがおっさんモグラには伝わったようだ。
俺にとっての最悪の展開、おっさんモグラにとって都合のいい展開というのが一致していたからこそ理解されたんだろう。
おっさんモグラがクローディアさんの妨害をしながら、魔法無効の少年を俺の方に突っ込まされるだけで勝ち目がなかっただろうからな。
「それに、先ほどまでだったら手も足も出なかったでしょうけど、今はあなたに負ける気がしませんから。別に少しのわがままくらいは許しますよ」
体全体が丸くて可愛らしい姿をしているのにいきっている姿はいっそ微笑ましいと言いたいところだけど、見た目に反して侮れない実力になっているからなめてかかるような真似は出来ない。
強化された土壁の魔法は簡単には突破できなさそうだし、さっきやったように身体強化して突っ込んだら俺が怪我しそうだ。
……うん、勝ち目が見えないな。
まあでも、
「別に自分も負ける気はしませんよ。それに時間を掛ければ掛けるだけこっちが有利ですから」
「……チェスター君が負けるからですか?」
「はい。だって、体術とかは最近覚えたばっかりな自分がしのぎ切れるような攻撃しかしてこなかったあの少年じゃあ、クローディアさんの相手にはならないですよ」
「……確かに先ほどはチェスター君が負けていましたけど。怠け者で修練を行っている所を見たことがないのにあそこまで動けるんですよ、彼。ならば、強靭な肉体にその才覚が宿った場合はどうなるんでしょうね」
元褐色おっさんモグラはどこか含みがあるような言い方をする。
俺はそんな物言いにある不安が大きくなる。クローディアさんが勝てないのではないかという不安が。
おっさんモグラのパワーアップ度を考えると、あの少年がクローディアさんを上回る実力になっていてもおかしくないからだ。
もしその不安が的中しているのだとしたら、俺はおっさんモグラを片付けて二対一に持っていくというプランが崩壊することになる。
「来ないのなら、またこちらから責めさせてもらいますよ」
岩の柱が俺の四方八方を囲うようにして襲い掛かって来て、すべてを迎撃するのは難しいと判断し上に飛ぶこと選択する。
「……マジで殺しに来ているな」
ぶつかり合った岩の柱が下からこっちを覆うような形で襲い掛かって来る光景が見えて、背中がひやりとするのと共に心の声が漏れた。
「イグニッションバレット」
全部を打ち落とすことが無理なことを悟りながら、迫ってくる岩の柱に魔弾を打ち込み、予想した通り全部を迎撃することはかなわず、三本の岩の柱が防御壁に直撃する。
防御壁が破られることはなかったが、衝撃をすべて逃すことは出来ず壁まで吹っ飛ばされた。
そして、吹っ飛ばされた先にあった壁がとつぜん、俺のことを囲い辺りが真っ暗になる。
……これ、飲み込まれたのか。
今はまだ防御壁で防げてはいるけど、ダメージの入り方的にすり潰されるのは時間の問題っぽいな。
無理やりこじ開けないと不味いか。
「イグニッションバレット」
岩壁に魔弾を円形状に穴が空くように発射して、くり抜かれた部分の岩を蹴り飛ばしてやると人間が通れるぐらいの穴が出来た。
「なぁー!?」
奇声を上げるモグラを無視して、すぐさま修復されても困るので急いで作った穴から脱出する。
「危ないじゃないですか!?」
「……いやまあ、戦ってるんだから危ないことをやるもんでしょ」
うつ伏せの状態から顔を上げて、モグラはこっちに訴えかけるようにして叫んできた。
モグラが何に怒っているのかがいまいち分からなかったが、敵対している相手に謝る理由もないと至極当然のことを口にする。
「そうですけど……。だって、今の絶対に意図した攻撃じゃないでしょ。ずるいですよ、そういうの」
意図した攻撃じゃない?……ああ、穴を作るために発射した魔弾が当たりそうにでもなったのか。
知らねえよ、そんなこと言われたって。むしろ、当たってくれれば楽だったのに。
「でもこれで分かったんじゃないですか。このまま戦っても私に勝てないと」
こっちからの攻撃は簡単に防がれるし、向こうからの攻撃はほぼ全力で対処しなければならない。
……かなり苦しい状況ではあるな。
「……もし勝てないことを認めたとしたら、どうするつもりなんですか?」
「大人しく捕まってもらいます。特に手荒なことをつもりはないので、貴方としてもこの提案に乗ったほうがお得だと思いますよ」
大人しく捕まるね……。依頼を受けて俺を捕まえに来たとか言ってたけど……。
目の前にいるモグラはどうせ人殺しとかも普通にしているような奴だろうから、人を自分の手で殺めたくないとかいう理由ではないよな。
ということは、俺を生かそうとするのは依頼主に殺さずに連れてきて来いと言われたとか、どこかに売り飛ばすために生け捕りにしたいとかそういったメリットがあると考えるのが妥当なところか。
となると素直にこのモグラの言うことを聞くのは得策じゃないことになる。この場で捕まっておけば、今は死なないし痛い目に合わないってメリットはあるっちゃあるけど。
でもなぁ、このまま耐久してクローディアさんを待つというのも賭けになるし、そもそも耐えるというのがしんどいんだよな。
「どうですか、捕まる気になりましたか?」
「……はい。痛い目に合いたくないですし」
「なら、この手錠をつけてください」
おっさんモグラはさっき見たのと同じような手錠を投げてきた。
手錠は俺の目の前に落ち、目を光らせてこっちを監視してくるモグラのことをちらちらと確認しながら拾うために背中を曲げる。
ちらりと隣の岩壁を確認するが、何か起きるような様子はない。
時間稼ぎはこれ以上できなさそうだし、やるしかないか。
「イグニッションバレット」
「それがあなたの答え――なぁ!?」
モグラは情けない驚きの含んだ声を上げる。
大人しく従わないことは予想していたんだろうが、ここまで大量の魔弾が飛んでくることまでは想像していなかったんだろう。
ただ、いくつもの魔弾が飛んでいっているのにもかかわらず、ときおり岩の柱がこちらに向かってくるので攻撃に回していた魔弾のいくつかを防ぐために回す。
向こうから攻撃が飛んできていることから余裕があるんじゃないかという不安を抱えながら、すべてを出し切るつもりで大量の魔弾を発射し続けた。
「はぁ、はぁ、出し切った」
魔弾の着弾地点では土煙が上がり、おっさんモグラがどうなったのかが確認できない。
……起き上がって来るなよ。
「ちょっとやりすぎじゃないですかね!?」
まだ余裕がありそうな声色が聞こえてきて、疲労で何も言葉は浮かばないが、ただただ絶望感だけが頭の中を占めた。
「おや、そちらは限界そうですね。こちらもかなり痛手を負ってしまいましたけど、これなら捕まえるのも容易そう――あがががが!?」
足場から俺のことを囲うように土が盛り上がって来ることに抵抗する気力も起きなかった中、突然おっさんモグラに雷が落ちた。
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