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第二十六話 自己紹介


 俺は嫌な汗が頬に伝わるのを感じながら、上部に執務室と金色の文字で彫られている黒くシックな扉を叩いた。


「入ってきて」


「失礼します」


 やけに重く感じるドアノブを引っ張るとフィリス様のお父さんが視界に入り、あまり音を立てないことを意識しつつ、丁寧に扉を閉めたあとに頭を下げる。

 派手なわけではないが作りがしっかりしていてかなりいい奴なんだろうなと思わせる机の上に、一枚の紙の横にはペン立に収まっている羽ペンと大量に積み重なっている紙の束があった。

 部屋の雰囲気やそんな机の様子から、今さっきまで仕事をしていたんだろうと想像がつく。


「その、御用があると聞いたのですが……」


 今日の朝、いきなりクローディアさんからフィリス様のお父さんから話があると言われて俺はここに来た。

 いい人そうだなという第一印象ではあったが、俺のことをどうとでもできる立場の人から呼び出しということもあって、正直ちょっとビビっている。


「ああ。セオドア君に娘とクローディアのことをお願いしたいことがあるんだ」


「お願い、ですか?」


 お願いということは、護衛としての責務を一度放棄しようとしてしまったことを問い詰められるというわけじゃないのかな。……よかった。


「セオドア君には娘やクローディアと同じ学園に通ってもらうことになっただろう。だから、もしものことがあったら力になってほしくてね」


「はあ……」


 フィリス様とクローディアさんが何かあった時に、自分が力になれる状況というのが想像できなくて、頭の中でハテナが浮かぶ。


 フィリス様は明確な弱点があるから分かるけど、クローディアさんに限っては俺が邪魔をするだけになりそうな気がするんだけど。

 というかクローディアさんって俺と同じ使用人って立場なのに、フィリス様のお父さんに気に掛けられているのか。

 自分の娘と歳が近いことが関係しているのかな?


「やってくれないのかい?」


 フィリス様のお父さんは不安げな様子でこっちを見つめてくる。


「いえ、もちろん出来る限りのことはやります」


 さっきのやる気のなさそうに感じさせる反応をしてしまったせいなのか、不安にさせてしまったのかな。

 ……今のよくよく考えたら、フィリス様のお父さんが寛容な人だったから問題にならなかった感じだよね。……気を付けよう。


「そうか、ならよろしく頼むよ」


 そう言われながら叩かれた肩を触り、屋敷に出る前のフィリス様のお父さんとの会話を思い出していた。


「セオドアさん、自己紹介をお願いします」


「あ、はい」


 ぼんやりと考えにふけっていたところに子供特有の高い声で名前を呼ばれ、自分の番が来たことを理解し席を立つ。


「オズボーン家の護衛をやっているセオドアです。えーと、ここに来る前は冒険者をやっていました。これからよろしくお願いします」

 

 周りにいる同い年ぐらいの人たちを見回しながら、淡々としゃべる。

 やんちゃそうな男子生徒や、さわやかイケメンといった感じの男子生徒、金髪のいかにもお嬢様みたいな見た目の少女生徒が目につき、なんとなく面倒くさそうだなこのクラスと思いながら自己紹介を終えて席に着く。


「次はポールくん、自己紹介お願いしますね」


 担任のヤードリー先生が気弱そうにみえる生徒を指名する。


 さっき見た面倒くさそうな生徒以上に印象的なのはこの先生だ。

 さっき、皆さんを指導できるように頑張りますとか言っていたところからして真面目なんだろうとは思うのだが、見た目が俺たちよりも年下――小、中学生にしか見えない。

 最初の挨拶の時とか、女の子たちからはきゃーかわいいとか言われてマスコット扱いされてたし。


 魔法学校というのは完全な実力主義なのか、それともこんな小さい子を雇わなきゃいけないほど人材不足なのか。

 この学園は大丈夫なのか不安になる部分だとは思うが、別にしっかりしたところでなかったとしても自分としてはどうでもいいことだなと結論付ける。


「ポールと言います。僕は農家の三男で……、風魔法が使えます。今日からよろしくお願いします」

 

 気弱そうに見える茶髪の少年が頭を下げる。


 たいした長さの自己紹介でもないのに詰まってるところからテンパっていることが伝わってくるな。

 農家の出で三男坊ってことは、スペアのスペアっていう感じだろうし、こういう場はあんまり慣れてないとかありそう。

 こんな初々しい反応を見せられると、学生なんだなと思わせられる。


「クローディアさん、お願いします」


「私はオズボーン家メイド、クローディアです。これから同級生として仲良くしてください」


 一番前の席にいるからかわざわざ後ろの方を向いて、肩にかかるぐらいの紅髪と意志の強さを感じる赤い瞳をした少女が礼をする。


 今までの自己紹介の中で、一番所作とかみたいのがしっかりしているように見える。やっぱり、きっちりしているな。

 パッと周りを見回した感じ容姿もクラスの中でトップクラスだし、知り合いじゃなかったらぜったい関わり合いにならないと思っていただろうな。


「次は――」


「わたくしの出番ですわね。おーほっほほほ。わたくしはカーリン商会の長女、エリザベス・カーリンですわ。クラスメイトの皆さま、魔道具、魔術書、魔法触媒など、何か入り用があればわたくしを頼ってくださいませ」


 先端がロールされている金色の髪の毛と緑色の瞳から、お嬢様というのをほうふつとさせる少女が高笑いをする。


 この金髪少女、見た目も凄いなと思ったけど、それ以上に自己紹介のパンチが効きすぎているな……。先生にお願いされる前に自己紹介を始めるし、“ですわ”なんて口調の人、本当に現実でいるんだ。

 しかもキャラが強いだけじゃなくて、カーリン商会って国をまたいで幅を利かせているようなところだった記憶がある。


 うちのクラスって貴族とかは別のクラスに分けられてるから、気後れするような相手はいないと思っていたんだけど……。

 下手したらそこら辺の貴族よりも、気を付けないと不味そうじゃないか?

 かなりあくも強いし、関わり合いにならないようにしよう。 


お読みいただきありがとうございます

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