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第二十四話 墓


 激闘から一週間が経ち、女王アリみたいなのを倒したおかげなのか街に魔物が現れることはなくなった。

 六日ほど前には冒険者ギルドから事態が収束したと告知がなされ、ギルドに避難していた人たちはいつもの生活に戻っている。

 幸いにも魔物に店や家などはあまり荒らされているわけではないらしく、復旧作業にはそこまで時間が掛からないと聞いている。

 だからと言って、何もかも元通りとはいかなかったが。


「みんな、どうして……」


 いくつも並ぶ木で出来た十字架の前で、一人泣き崩れる少女が目に入る。

 

 俺たちに村を見てきてほしいと依頼してきた子だったよな、たしか。

 ……そうか、生き残りがいるはずもないか。

 ……どうするんだろうな。


 俺は少女がこの後、すぐに命を絶つのか、ただ息を吐いているだけの人生を歩むのか、それとも色づく何か――少なくとも自分が生きているという実感のある何かがあるのか気になった。

 そして、この少女に一瞬だけ手をさし伸べたい――いや、そんな善意的なものではなく差し伸べる義務があるのではないかと。

 だとしたら、自分はあの少女に何が出来るのかと考えた結果、声を掛けるなんてことはせず今日の目的地へと向かうことにする。


 ボロボロと泣いている小、中学生くらいの子供たちと寄り添うようにいるシスターの恰好をした女性がいたり、子供サイズの帽子が掛かっている十字架の前で成人した男女二人が肩を震わせながらうつむいていたり、一人のおじいさんが木の十字架に何か語りかけていたり。

 他にも涙を流し悲痛の声を上げている人たちが視界に入りながら、ハロルドと彫られている十字架の前へと着く。


 ハロルドさんの死体を見つけたのは、あの村から帰るときだった。

 顔に軽い切り傷と胸を刃物で一突きされたような傷跡があったから、魔物ではなく人によって手に掛けられたんだろう。


 ……ハロルドさんの死体を見つけた時もそうだったけど、こうして十字架の前に立ってみてもあまり感情は動かないな。

 周りの人たちの様子を見ていると、冷静なままの俺がここにいるのは場違いなんではないかと感じてくる。

 ……とりあえず、お参りをしないとか。


 俺は目を閉じて手を合わせる。


 合掌を終えたら後ろから気配を感じて振り返ると、花束を抱えた銀色の髪色をした女性が俺の隣まで来て、手を合わせた。

 そしてその女性は抱えていた花束を別に添えられている花束の隣に置く。


 ……俺も花ぐらいは持って来るべきだったか。


「セオドアさんはハロルドさんとは仲が良かったですよね」


「え!?いや、あー、まあ……、そうなんでしょうか?」


 ハロルドさんとほぼ交友関係がなかったはずなのに何を基準にして仲が良かったという話になるのと思いながら、まあ一応ちょっと踏み込んだような話をしたからなとも思ったのでフィリス様に聞き返してしまう。

 

「そんなことはないのですか?コボルト討伐の時は、仲が良さそうにしていましたよね」


「まあ……、でも別にそんな仲が良かったっていうわけでもないですよ」


 仲良かったのかということを少し考えた結果、俺としては話しかけられた、ハロルドさんとしても暇つぶしでという感じでしかなかっただろうからという結論になり、そう口にした。


「そうなんですね。……では、セオドアさんから見てハロルドさんはどういった方だと思っていましたか?」


 どう思っていたか、か……。

 なんでそんなこと聞いてくるんだろう?別に答えても損はないから、答えるけど。


「しっかりやるべきことはやって、そつなく何事もこなすイメージですね」


 自分優先で、人のために何かしようと思わない、そして向上心がなさそうなところが特に俺と似ているなという感想もあったが、あえてプラスな部分を口にする。

 故人の墓前でそんな陰口を言うのは気が引けるというのと、そういう駄目な部分があるにしても、そつなく仕事が出来る俺よりましな人を俺が悪く言うのはなぁと思ったから。


「そうですね、とても頼りになる方でした。宿の手配などもスムーズにやってくれましたし」


 フィリス様の言っている内容だと、ただ単に便利といっているようにしか聞こえない。

 付き合いが俺よりは少しある程度だろうから、そんな感想しか口にすることがないってことなんだろうけど。


「もう一つ聞きたいことがあったんですが……」


 フィリス様はハロルドさんの墓標に目を向ける。


「私は用事があるのでもう行きますが、セオドアさんはどうしますか?」


「あー……、自分はもう少し残ります」


 すぐに帰るつもりだったけど、なんとなく一緒に帰ると踏み込んだことを聞かれそうな気がして残ることを選択する。

 おそらく聞きたいことっていうのが、どうしてあの時に俺が村に戻ってきたのかといったたぐい話なんだと思う。ただ、ここでその話をするのは気が引けたのだろう。


「……分かりました」


 もう五分ぐらいいるかと思いながら、フィリス様が去っていく後姿を見送る。


「ハロルドさんに何があったんだろうな」


 普通に考えたら、ここに立っているのがハロルドさんで、眠っているのは俺とフィリス様というのが妥当な結果だったはずだ。

 かなりの実力者に会ってしまって、という感じなんだろうか?

 その実力者ってのが、あんな魔物がいる状況でわざわざ人を殺すなんてことをしていることを考えると、今回の黒幕だったりするのかな?そもそも、黒幕がいるのかどうかさえ知らないけど。

 ……なんにしても、運が悪かったという感想しか思い浮かばない。


 ……もしハロルドさんがいなかったら俺はどうしていたんだろうか。……多分逃げていたんだろうな。

 村に向かうという決意をしたのは、ハロルドさんを見て俺が同じような選択を取っていいのかという感情になったというのがある気がするから。

 そう考えると、俺としてはハロルドさんという存在がいたのは運が良かったのかもしれない。


 ……なんか、この安っぽい作りの木で出来た十字架を見ていると可愛そうに思えてきたな。

 周りの嘆いている人たちはきっとこれからもこのお墓には来るだろうし、人によってはもっと立派なものに作り替えるなんてことをするだろう。

 でも、俺は死をいたむこともなくこんなどうでもいいことを考えているし、フィリス様も時間の合間に来たという感じだった。

 ハロルドさんがどうして別行動していたのかをもう知っているクローディアさんは心の中で当然と言わないまでもそんないい感情は抱いてないと思う。

 他の護衛の二人はハロルドさんの死を伝えた時、ふーんそうなんだっていう感じでそこまで動揺していないように見えた。

 ハロルドさんにはそこまで仲がいい人とかいなさそうだし、少なくとも俺たちの中にもう一度この墓の前に立つ人はいない気がする。


 墓は立派であることがいいとか、看取る人、泣いてもらえる人がいないことが悲しいとは思わない。

 そうは思うんだけど、この墓を見ていると物悲しい気分になってくる。

 それとどうにもこの墓が他人事には思えなくて。

 

「ああ。だから俺は今日ここに来たのか」


 また来よう。

 ハロルドさんは誰かに看取られるような生き方、最後じゃなかったのかもしれないけど、一人ぐらいはこの十字架の前で手を合わせる人がいてもいいじゃないかと。

 ここに来ることは傷のなめ合いでしかなく、ハロルドさんのためでなく自分のためでしかないのだとしても。

お読みいただきありがとうございます。


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