第百十話 逆賊
「貴様らが帝国の寄こした連中か」
「はい、レスター陛下。皇帝陛下からの命を受け馳せ参じました」
「ふん……。寄こしたのが大男を一人と、ガキが三人か」
フィリスさんに憎まれ口をたたくのは、メルジャン王国の現国王レスター・スタンフォード陛下だった。
濃い青い髪で堀が深く、アイドルというよりも俳優向きの顔立ちをしている。もし俳優業を営んでいるとしたら、大人の魅力ってやつで主婦層辺りをノックダウンさせそうな役柄が似合っていそうだ。
「ご不快にさせたのならば申し訳ございません」
「貴様らに文句を垂れるつもりはない。そもそも、反乱軍についてはこっちだけで対処する予定だった。事が収まるまで貴様らは好きにしていろ。すべてが終わってから帝国へ都合のいい報告するといい。私からは貴様らのことを役に立ったと伝えておいてやる」
フィリスさんが深々と頭を下げているなか、レスター陛下はそれだけ言うと部屋から出ていった。
「ああもう!むかつく――きます!」
クローディアさんは心のままに嘆いていたのだろうが、フィリスさんがいることに気づいて言葉遣いを丁寧にする。
「とても好待遇ではあるとは思いますよ。何もしないで功績をくださるという話なのですから」
「そうですけど……」
クローディアさんはフィリスさんにかみつくが、それに意味がないことを悟り黙り込む。
「あんたはどう思うのよ」
そして俺の方を向いた。
「え?いや、好きにしていいって話なら別に問題ないと思いますけど」
だって、楽が出来るってことでしょ。
「……そういえば、あんたってそういう奴だったわね」
クローディアさんは呆れた様子だ。
省エネで行けるのならばそれに越したことはないと考えているので、弁明する気はない。
まあ、向こうの気持ちも理解できるちゃできるからな。頼んでもいないのに突然援軍を寄こしてきたと思ったら、まだけつの青い子供だったわけだから。しかも、何の役に立つのか分からないのに、フィリスさんという他国の貴族と扱いづらいのを送ってきて。
向こうとしては、いらんものを寄こしやがって、ここは託児所じゃないぞ、といった感じだろう。
「セオドアさん、調子が戻ったようですね」
「え?ああ、あの時は馬車酔いしていたんですけど、時間が経ったので」
調子が悪かった理由は違うのだが、そう誤魔化した。俺の過去を知られているフィリスさんに、ここが故郷であることをばれたくなくて。
コンディションに関しては馬車に乗っている間は頭が痛くて吐き気すらあったのだが、この国についてからはそういうのは一切ないので問題ないと思う。
俺が幼い時に来た王都とは全く別の街並みになっていることで、あまり戻ってきた感じがしないから調子が安定してきたんだろう。
「あんた、そんなにやわだったっけ?」
「いや、あんまり馬車で酔うことはないんですけど、多分あの時はかなり疲れていたので」
実際、調子を崩して弱っていたから馬車酔いをして気持ち悪くなっていたというのはあるだろうし。
「何にせよ、セオドア殿が元気になったのならば何よりであるな」
モーガンさんの言葉で心配かけていたんだなと思った。ちょっと申し訳なくなる。
「誰か!救援を頼む!」
レスター陛下が出ていった方角から女性の叫び声がした。
レスター陛下との話し合いをしているときに、騎士みたいな恰好をした女性が控えていたな。
「ディアは他から救援を呼んできてください。私とセオドアさんとモーガンさんで突入します」
クローディアさんは不満そうな顔をしながらも周りに助けを呼びに行き、残りの三人で叫び声がした方に向かう。
「どういうつもりだメイベル。マルヴィナはお前に、こんな逆賊のような真似をするために育てたわけではないと思うのだが」
メイベル?
俺は妹分だった少女と同名だったことに動揺するが、そんなはずはないと頭を振った。
フィリスさんは陛下との面会をするため武器を預けているため、多分俺もしっかりとやらないと不味いはずだから。
「黙れ!お前がマルヴィナさんのことを語るな!」
声を聴いていると懐かしい感覚が蘇るのだが、違うはずだと言い聞かせてフィリスさんの後をつける。
部屋前まで着くと、フィリスさんは扉を開けようとするがガチャガチャと音をさせるだけ。
「モーガンさん!」
フィリスさんはいったんどくと、モーガンさんがその巨体を生かして体当たりをして扉を突き破った。
開けた先には幾人もの騎士の恰好をした人が倒れており、さらに視線を奥に向けると尻餅をついているレスター陛下と杖をレスター陛下に向けている白髪の少女がいた。
「あぁ……なんで……」
「セオドアさん?」
白髪少女は眉間にしわを作っているが、元の作りがいいため可愛らしい。顔立ちはあの幼かった妹分が成長したらこうなるんだろうなという感じだ。
服装はいかにも魔術師らしい黒いローブを羽織っており、身長に見合っていない太く長い杖をレスター陛下に向けている。
そしてその杖の先から魔法陣を構築されていた。
「止めてください!」
「承知!」
魔法陣から放たれた雷はレスター陛下に向かうが、モーガンさんが張った防御魔法で阻まれた。
あの虫の殺生すら嫌っていたメイベルが人を殺そうとした……?
「セオドアさん!止めますよ!」
「……はい」
いろいろと信じられなくて呆然としていたが、フィリスさんから声を掛けられて意識が現実に返る。
……メイベルを重犯罪者にさせるわけにはいかないか。
「だれ!?まさかあの怪しい奴!違う!」
「大人しくお縄についてください」
陛下の前に立ったことで、メイベルは俺たちに気づく。
「それは無理な相談。そこをどいてくれるなら痛い目には合わせない」
「そうですか……。セオドアさん、モーガン――」
「セオドア!?」
メイベルが大声で俺の名前に反応したことが原因なのか、フィリスさんは指示の途中で黙る。
声を上げたメイベルは俺の方を向いて目を見開いた。
それを隙だと判断したのか、フィリスさんはメイベルのことを取り押さえる。
「邪魔!どいて!そいつだけは!!」
「やらせません」
メイベルは杖をレスター陛下に向けようとするが、フィリスさんがその杖を無理やり取り上げていた。
いま目の前で起きていることは何が何だか、現実なのかすらおぼつかないままメイベルの暴れている姿がずうっと映っていた。
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