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第百話 別の所では1


「最初はどうなることかと思ったけど、意外と楽勝だったな」


「先輩、まだ終わってないんだから油断しないでください」


「おいおい、硬いこと言うなよ、っと」


 そばかすに目が行く衛兵さんが僕と年齢が近そうな衛兵さんの腰を思いっきり叩く。年齢が近そうな衛兵さんは腰をさすり抗議しながらも矢を渡した。

 魔物が襲ってきているんだからもう少し真剣になった方が……と思いながらも、そんな弛緩していても問題ないくらいには魔物の討伐は順調だ。

 うちの国であれば対処できないほどの魔物が降ってきて襲ってきているはずなのだが、恐ろしいほどまでに戦果を挙げているクロスボウのおかげで十分すぎるほどに対処できていた。


「ん、あれは何だ?」


「え、どれですか?」


 僕も気になりそばかすに目がいく衛兵さんが指す方を見ると、銀色に光る何かがあった。

 それはものすごいスピードと地鳴りの音を立ててこっちに近づいてきており、シルエットから人であることが確認できる距離になると宙へ跳び、


「おもしれぇおもちゃじゃねえか!ちょっとだけ痛かったぞ!」


 それが着地すると土煙を立て、それが収まると魔物の死体や生きているものを吹き飛ばしていた。あんなに劣勢だったにも関わらず一切引く様子を見せなかった魔物たちは、散り散りになって逃げだしていく。

 しかし僕は一切喜ぶどころか、熱くて掻いているものとは違うひんやりとしている汗が噴き出す。


「なんだ、ただの可愛い嬢ちゃんじゃないか」


「何言っているんですか先輩!絶対に普通じゃないですよ!」


 年齢の近そうな衛兵さんは叫び、そばかすに目がいく衛兵さんはひきつった笑いをしていた。

 二人の衛兵さんが感じているものは間違っていない。だって、正体は商会を襲ってきたあの銀狼族の少女なのだから。


「で、そのおもちゃは俺には効かない訳なんだけど、別のおもちゃはねえのか?まあ、待つつもりはないから、早めに対処しろよ」


 銀狼族の少女は砦目掛けて拳を振り、粉々に吹き飛ぶ砦を想像して思わず目を閉じる。


「あれ、意外とかてぇな」


 が、目を開けると僕が考えていたような結果にはなっておらず、銀狼族の少女も思っていたのと違うといった様子で首を傾げていた。


「くぅ、何という威力だ」


 唸り声を上げるモーガンさんが額に汗を浮かべて、地面にひざを立てる。それにより、どうしてこの砦が無事だったのかを察した。


「大丈夫ですか!」


「ああ、まだ数発なら耐えられるだろう」


 王国一の防御魔法使いとして有名なアリンガム家の長男でも……。歴代でもトップクラスの才能だと聞いていたんだけど……。


 ブラウン様相手に立ち向かうどころか、笑みさえ浮かべてた銀狼族少女の尋常のなさを再認識させられる。


「おーほほほほ!あら、あの時のお嬢さんではないですか」


 通常の二倍ほど近い大きさがある馬車の屋根の上にのったエリザベスさんが、いつもの高笑いをして全員の注意を引く。

 よく見ると馬が引いていなくて、あんな先にも後ろにも逃げられないような場所にいて大丈夫なのだろうかと不安になるが、エリザベスさんは意外と計算高いところがあるので勝算があってのことだと言い聞かせる


「なんだと!俺はお嬢さんじゃなくて、アルテっていう名前があるんだ!というかお前、カーリン商会の跡取りじゃねえか!というか、名前はもう教えてただろうが!」


「ええ。ですが、ただの商会の跡取りに敗北してしまったのに、その勇ましい名前で呼んでしまうことはむしろ誇りを傷つけることになるのでは思いましたの。わたくしの心遣いに感謝して欲しいですわ。今回の戦場に理由も、お嬢さんが負けたままだと可哀そうだと思い、リベンジをする機会を差し上げようと思ったからですのよ」


「はぁ!?俺はまけてねぇ!むしろ、あのまま続けていたら、俺が勝ってたんだから、リベンジするのはそっちだろうが!」


 エリザベスさんは嘲笑するように、ふっ、と笑い、


「負け惜しみですわね」


「何だとぉぉぉ!!」


 銀狼族の少女――アルテさんは見え見えの挑発に乗り、顔色を真っ赤にしてエリザベスさんに襲い掛かる。

 挑発をするエリザベスさんの身を心配していると、先にハートの形になっているピンク色のステッキを持ちフリフリなスカートを履いた男性が現れてアルテさんの一撃を受け止めた。


「お前、俺へまともに攻撃を入れたやつか。……というか、なんだよ、その格好は?」


「聞かないでくれ」


 メルヘンな格好をした男性の正体は黒影さんだった。

 少女チックな格好は身長が高くて鍛えられている黒影さんにはあまりにも似合わない。

 おそらくエリザベスさんに命令されてあの格好をしているのだろうから、黒影さんの気持ちを考えてあまり深く考えない方が良さそうだ。


お読みいただきありがとうございます

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