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ハリーポッターと幼子の記憶

人は往々にして、「初めて」というものの記憶に囚われているものである。例に漏れず私も、初めて映画館で同じ映画を2度観た日のことをよく覚えている。映画は「ハリーポッターと謎のプリンス」だ。私の家は、家族ぐるみでハリーポッターシリーズが好きで、劇場公開されると、日曜日に家族全員で足を運んでいたものである。シリーズ第5作目である「ハリーポッターと謎のプリンス」も、もちろんすぐに家族5人で観に行った。

それから2週間ほど経ったある日、当時小学生だった私は、その日どうしても学校に行きたくなかった。昨晩から続く雨が窓を打ちつけていたからかもしれないし、自信のない算数のテストが返却される日だったからかもしれない。とにかく学校に行きたくなかった私は、体調不良ではないけれど、どうしても今日は休みたいという旨を、正直に母に話して聞かせた。普段ズル休みなど絶対に許してはくれない母が、その日はなぜか「しょうがないね。」と笑って、学校に休みの連絡を入れてくれた。

妹を学校に送り出し、2人で朝食のトーストを齧りながら母が言った。「ハリーポッター観に行こっか。みんなには内緒で。」大人になって思うが、これ以上にときめく口説き文句を、私は未だに経験していないと思う。その瞬間、憂鬱の種だった雨音は素敵なBGMになったし、トーストに塗られたブルーベリージャムはキラキラと輝いて見えた。

そういう経緯で、私は人生初の劇場再訪を達成したわけである。映画の後に食べたパスタも美味しかった。しかも、帰りに家電量販店に寄って、私が前に壊して落ち込んでいたウォークマンを、新しく買い与えてもらった。学校をサボって、内緒で映画を観て、美味しいランチに、新しいウォークマンまで。こんな良い思いをしていいのかと、強烈な印象を受けたことを、今でも鮮明に覚えている。母の単なる気まぐれだったのかもしれないし、もしかしたら母も、もういちど映画が観たくて、なにかきっかけを探していたのかもしれない。

その日以降はまた、ズル休みに厳しい母に戻っていた。これもまた、サボり癖がつかないようにという母の愛情なのだろうと、今になって思う。この経験を経て、ここまで読んでくれた皆にひとつアドバイスをするならば、こう言いたい。もし意中の相手がいるなら、こうやってデートに誘えと。


「映画観に行こっか。みんなには内緒で。」

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