第1話 宿題
「もっと分かり易く言ってよ碧ちゃん!」
「なんだ!?」
「あっ……ごめん。」
私は一人で手紙を開けるのが心細かったのでレイベルトに頼んで傍にいてもらい、碧ちゃんからの手紙を読んだ。
手紙をもらってから既に17年が経過していた。
「突然アオイからの手紙を読むって言いだしたかと思えば急に怒り出すとは……一体何が書いてあったんだ?」
「はい。読んで見て?」
私は何が書かれてあったのかを伝える為、レイベルトに手紙を渡す。
エイミーへ
お互い女同士だったと知った時は本当にビックリしたよ。実は女だって分かってからは以前にも増してたくさんお話したよね?
エイミーは強くて頑張り屋さんで、それでいて実は弱い子。
だから困った時はレイベルトにたくさん相談すると良いよ。君は力で物事を解決しようとする傾向が私以上に強い上に、実はあまり考えずにやっちゃうから危なっかしい。
レイベルトなら君のストッパーになってくれるはずだよ!
あと、何も言わずにいなくなってごめんね。
一緒にいられなくてごめんね。
レイベルトはエイミー一筋だから、きっと無理に結婚しても私が惨めになるだけなので許して下さい。
エイミーとは一緒に暮らせないけど、私達は大の親友。レイベルトとだって結婚出来なかったけど、それでも大の親友。
私達三人はずっと英勇トリオだよ?
死を運ぶ英勇トリオは流石に不穏過ぎて誇りたくない称号だけどね。
エイミーは運命を捻じ曲げてしまったって言って、ずっと後悔してるよね?
力が強過ぎたって言って、その力を忌避してるよね?
でもさ、そんなのは不可抗力なんだし、私に罪悪感を持つ必要はないから安心してレイベルトと暮らして欲しいな。
運命に干渉する力って凄いよね? 凄過ぎるよね? だって、前はその力で私達三人が結婚出来たんだもんね?
だからどうしても罪悪感がーっとか、美少女勇者の碧ちゃんに居て欲しいーって言うなら…………アドバイスしてあげる。
前回の自分を再現しなさい。
私達を欺きなさい。
運命なんて捻じ曲げてしまえば良い。
そして最後に…………環を完全に閉じなさい。
多分、君にはそれが出来るんじゃないかな?
何年後にこの手紙を読むかは分からないけど、答えが分かったら私の運命を好きにして良いからね。
長月碧
「手紙を開くのに時間が掛かる事まで読まれてるし……。結局何が言いたいのか分かんないよ碧ちゃん。難し過ぎ!」
「全然意味が分からん。」
「本当だよ。」
碧ちゃん。私分からないよ。
前回の自分って何?
私達を欺けって何?
運命を捻じ曲げたら、また同じ結果になっちゃうじゃん!
環を完全に閉じるってもはや意味不明!
「碧ちゃんって時々意地悪だよね。」
「良く茶化してくるしな。」
呆れ顔をしつつも、懐かしむ様な目をするレイベルト。
「本当は碧ちゃんと結婚しなかったのをちょっと惜しい事したって思ってるくせに。」
「何でだ?」
「だってレイベルトは巨乳派……」
「へー。お父さん巨乳派なんだ?」
あっ…………
「サ、サクラ……違うぞ? お母さんが勝手に変な事言っているだけで、決して俺は巨乳派なんかじゃ…………。」
「焦ってるところが怪しいよね。」
「やっぱりサクラもそう思う?」
「うん。」
サクラ…………。
私とレイベルトの間に生まれた可愛い娘。
私は神の力を継承した影響で運命や魂が分かってしまう。
この娘は前回私が産んだサクラと魂が同一だった。
「さっきから聞いてたんだけど、二人共また碧ちゃん碧ちゃん言ってるの?」
サクラには碧ちゃんの事も話してあるし、当時の状況も詳細に語って聞かせている。
「あ、あぁ……。俺も親友だったし、ついな。」
「別に良いでしょ。お母さん、碧ちゃんと大親友だったんだから。」
「ま、良いんだけどね。でもそんなに寂しがるならお父さんが碧ちゃんを貰っちゃえば良かったじゃん。」
本当にサクラの言う通りだわ。
二人をくっつけようと凄く頑張ったのに、レイベルトったらもう!
「いやな。やっぱり二人を嫁に貰うってのは少し不誠実だな……と。」
「碧ちゃんって巨乳だったんでしょ? 尚更貰えば良かったじゃん。しかも美人で性格良いなら言う事なしでしょ。」
「あー……そりゃ、俺だって嫌いだったわけじゃあ勿論無いが。」
「なら貰ってよ。頑固ベルト。」
「が、頑固ベルト……。」
私の一言が効いたのか、ガクリと肩を落とすレイベルト。
「あはははは! 何だっけ? こういう時は…………当たりが出たらもう一本、だっけ?」
「違うよサクラ。座布団一枚! だよ。」
「それそれ。もう全然意味が分かんないよね。」
実は私もそんなに分かってるわけじゃない。
「あーあ。お父さんが碧ちゃんを貰ってればもっと賑やかだったかもしれないのにね?」
「ほんとほんと。」
「お父さんが碧ちゃんを貰ってれば私の胸にも視線が来ないかもしれなかったのにね?」
「ほんとほん…………は?」
なにそれ?
「私の方がお母さんより大きいから、時々視線がね。別に気にならないけど。」
「…………ちょっとスケベルト。お話があります。」
「いや、待てエイミー! 落ち着け。な? サクラは多分ちょっと勘違いしてるだけだから!」
「お父さん。女の人は胸に視線が来ると分かるんだよ?」
「や、やめろ! いかにも尤もらしい事を言うのはよせ!」
「スケベルト。ちょっとあっち行こっか?」
私はレイベルトの耳を引っ張り夫婦の寝室へと連れて行った。
多分、まだまだ煩悩が解消出来てないのね。
今まではレイベルトの体を気遣って少な目で済ませてあげてたけど、今度からは手加減なんてしないで一日50回位搾ってあげよう。
「さーて、お父さんもお母さんもいなくなったし、お手紙を拝見っと。」
ごめんねお父さん。
お母さんは手紙を私に読ませてくれない気がしたから、ちょっと悪者になってもらっちゃった。
「あー……これは分かりにくい。碧ちゃんは結構意地悪さんなのね。」
碧ちゃんがお母さんに宛てた手紙には解決策が示されていた。
私にとってはもう一人のお母さんだったかもしれない人。
「自分の能力でもないのに、良くこんな解決策が思いつくよね。」
多分方法は色々とあるんだろうけど、お母さんが自力で答えに辿り着くには何度もやり直す必要がありそう。
私もこの手紙を読んだから一つの答えに辿り着けただけで、手紙無しだったら気付けなかったかもしれない。
「お母さんは碧ちゃんに未練たらたらだし、後で教えてあげようっと。」
勝手に手紙を見るなって怒られる気もするなぁ。
【エイミー(桜)の魂が大幅に強化されました……エイミーの魂(桜)+84857を獲得】
【記憶の引継ぎに成功しました】
「我がイットリウム王家に伝わる宝剣じゃ。是非役立ててくれ。」
「「ありがとうございます!」」
これは……『アレ』を倒しに行く直前の場面?
「あ、ありがとうございます。」
1.宝剣はレイベルトが使って。
2.宝剣は碧が使って。
良し。あの時の選択肢が目の前に表示されている。
特に問題なく戻れたみたいね。
「どうかしたのかエイ?」
「なんかボーっとしてない?」
久しぶりの碧ちゃんだ。レイベルトも若い。
「大丈夫。ちょっと宝剣が格好良すぎて驚いただけ。」
うん。
しっかりあの時に戻れてる。
なら…………今度は『2』を選択。




