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戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。  作者: 隣のカキ
第三章 戦争から帰ってきたら、私の婚約者が別の奴とも結婚するみたい。

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第5話 停戦交渉

 あの後、ストレッチ王国軍からの攻撃が激しくなった。


 数の力に物を言わせ、タイミングをずらして何度も敵兵が攻めて来るのだ。


 隕石を落としたり、巨大な炎の竜巻を発生させたり、洪水で押し流したりと私が全て対処したから何の問題もなく撃退できたけど。


 向こうは引っ込みがつかなくなっているのか、はたまた自然災害が起きたとでも思っているのか。


 確かストレッチ王国軍の総司令官はヴァイセン侯爵だったはずよね。


 もしかしたら馬鹿なのかしら?


 撤退するか、どうせなら残った全軍で一斉に突撃をかけてくれば良いのに。


 まぁ、撃退は可能だからどちらにせよ向こうは詰んでる。


 一応味方側にはレイベルトと碧ちゃんと私の三人で合体魔法を撃っているという事で報告しておいた。


 碧ちゃんが咄嗟に思いついた言い訳を採用した形。


 嘘だとバレても面倒なので、本当に合体魔法の練習もして使えるようにだけはした。


 二人が好きな様に魔法を撃ち、私がそれを束ねて自身の魔力を乗せて発射するだけという簡易的な合体魔法。


 言うのは簡単だけど、勇者桜の知識がなければ決して不可能な魔法の使い方ではある。


 相乗効果もあって全員の魔力消費は少な目で、そのくせ大規模な攻撃が可能というあまり世に広めたくない魔法。


 やり方を教えても誰にも真似できないだろうから、その点は安心だけどね。


 最近は大規模な戦闘の合間に味方側に潜んでいるスパイの貴族も始末し、戦争は順調に進んでいた。


 スパイかどうかの判別は簡単。


 いちいち難癖をつけてくる奴がいるのだから、そういう奴の頭上に大岩を落としてやるだけで良い。


 ただ単に活躍し過ぎている私達を気に入らないだけの奴も中にはいたかもしれないけど、スパイと疑われるような行動をとる方が悪い。


 今はもう、そんな奴一人もいなくなってしまったけどね。



「エイって凄いね。もうどっちが勇者か分からないよ。」


「そんな事はないって。碧だって強くなったじゃん。」


「うーん。でも、一応勇者として呼ばれたのに自信無くしちゃうなぁ。」



 ちょっとやり過ぎたかもしれない。


 碧ちゃんが微妙に気落ちしている。



「気にする必要はないだろう。英雄と呼ばれている俺だって、自分は必要ないんじゃないかと思っている。」



 レイベルトまで落ち込んでいる。



「気にしない気にしない。戦争で勝てそうなんだからもっと笑顔笑顔!」



 今の私達は死を運ぶ英勇トリオと呼ばれ、戦場では文字通り死神のような扱いを受け始めている。


 レイベルト隊の旗が見えた瞬間に敵兵は大混乱するし、味方側の兵も一切近づいて来ようとはしない。


 敵はともかく、味方は普通に接してよ。


 上官でさえも私達に敬語を使って来る。


 つい二日前なんて作戦会議に呼ばれた私達に対し、会議に出席していた貴族達が軒並みビビり倒していた。


 しかも「暑いですね。」と何の気なしに言っただけで、上位貴族が自らダッシュで飲み物を持って来てくれたのだ。


 私はタチの悪い不良か!


 勿論これだけにとどまらない。


 レイベルトが居住まいを正しただけでビクリと反応したり、碧ちゃんが少し発言すると場が静まり返ったり、とにかくこちらの機嫌を損ねないようにしているのが丸わかり。


 中には質問しただけで謝り始める貴族までいた。


 待って? 私達、何もしてないよね?


 一体どんな風に噂されているのかが気になり、レイベルト隊の人に情報収集をお願いしてみたものの、死を運ぶ英勇トリオと呼ばれている事くらいしか情報を得られなかった。


 レイベルト隊と言うだけで避けられ、一般兵に聞いても埒が明かないと思い貴族に尋ねてみたらしいけど、その貴族は金品を差し出し許しを請うたのだという。


 完全にカツアゲだわ……。


 貴族なんだから平民にペコペコしないでよ。


 ここまで味方に恐れられてしまうと、正直戦後が心配になってしまう。


 私が伝説の勇者の先祖返りである事をもっと大っぴらに喧伝した方が良いのかもしれない。


 レイベルト隊には戦力が集中している。


 スパイによって私や碧ちゃんがレイベルト達から引き離される事を懸念していたけど、既にそのような動きをする者は一人としていない。


 勇者である碧ちゃんは別にしても、レイベルトや私は勇者でもなんでもないのに馬鹿みたいに強いせいで人類のカテゴリーから逸脱しているように見えてしまっている可能性がある。


 それもそうか。


 前回英勇コンビなんて言われ持て囃されていたのだって、二人が常識外れの活躍を見せつつも敵軍に対してギリギリで勝てていたからだ。


 決して今回のように、万単位の敵を相手に一方的な勝利を見せていたわけじゃない。





 そして先祖返りである事を喧伝しようと決心した翌日…………


 ストレッチ王国軍から停戦の申し出があった。



「レイベルト殿、アオイ殿、エイ殿、お三方にはストレッチ王国軍との停戦交渉の席に同席して頂きたく。何卒、何卒宜しくお願い致します。」



 停戦交渉は良いけど、何でこの人は土下座しているの?



「エディンガー侯爵。土下座をやめて下さい。」


「はっ。もしや同席して頂けるので?」



 もうこれ、どっちが上か分からないわね。



「あの、俺達よりも身分も立場も上なのですから、どうかそのような態度はやめて欲しいのですが……」


「も、申し訳ありませんでした!」



 レイベルトが言い辛そうにしながらもエディンガー侯爵のあり得ない態度に言及すると、英雄の機嫌を損ねたという意味で解釈してしまったようで更に深々と頭を下げてしまった。


 それをやめろと言っているのに。



「ダメだこりゃ。」


「ちょっと碧。その発言はマズいよ。」


「ははぁっ! ダメな侯爵でございます!」



 本当にダメだこりゃ。


 プライド捨て過ぎでしょ。







 エディンガー侯爵の必死の土下座に絆され、私達は両国停戦交渉の場に同席する事となった。


 両国のトップに加えて英勇トリオの私達も同席し、国境で互いの兵を待機させたまま交渉を開始する。


 先ず、ストレッチ王国国王のベグレート王が口を開いた。



「この度は停戦交渉に応じてもらい感謝する。俺の希望通り、英勇トリオが同席している事も大変ありがたい。」



 私達三人に参加して欲しいと言い出したのはイットリウム王国側ではなく、まさかのストレッチ王国側だったみたいね。



「して、何故英勇トリオを呼んだのか聞いても良いかの?」



 ジャルダン王も不思議に思っているようで、私達の代わりに質問してくれた。



「あぁ。英勇トリオをこの目で直接見たいと思ったのだ。今回我々は停戦交渉と銘打ってこの席を設けた。しかし、英勇トリオの力と考えを確認して問題がなければ、ストレッチ王国は停戦ではなく降伏を考えている。」



 現在、ストレッチ王国の軍勢は約二十万程残っている。


 このタイミングで降伏を考えているという事は、私達の活躍に余程肝を冷やしたんでしょうね。



「今こうして実物を見させてもらったが、英勇トリオの三人は好んで大虐殺を行うような人間には見えない。」



 そう言ってベグレート王は私達に質問を投げかけてくる。



「先ず三人は戦後、貴族の地位がもらえる事は確実だろう。貴族としてどのような政治を行いたいのか、民をどのように扱うつもりなのかを聞きたい。」



 質問に対してレイベルトは、民の幸福を考えた公平な政治を行うと答えた。


 碧ちゃんは民を富ませ、結果として貴族である自身も富むWinWinな政治をすると答えた。


 私は人々を不幸にする人間を憎み、徹底的に処罰すると答えた。



「成る程。三人の考え方は理解した。停戦後、復讐戦などは考えていないのか?」


「そのような事は考えていません。」


「僕も考えてないです。」


「……私もです。」



 スパイの親玉であるブレイン侯爵だけはぶち殺してやろうと思っていたけど、実際に悪辣な手法を考えて実行したのはネイル達だった。


 前回、頭に血が上ってブレイン侯爵を殺そうとしたのは間違いない。


 ネイル達に対する憎しみを解消しきれず、矛先がスパイの元締めに向かってしまったのだ。


 それに自国民の為とは言え、結果として前回の私はブレイン侯爵に命を救われている。


 何もかもが無かった事になってしまった今の時間軸でこれ以上追及するつもりはなかった。


 感情としては納得していないけど、まだやってもいない事を切り口に相手を追及するのは無理がある。


 暗殺するという手もあるにはあるが、せっかく話が纏まりそうなのに万一バレて拗れさせるのも望ましくない。


 今の私が出来る事はスパイの証拠を王に提供してスパイを処分してもらうのが関の山。


 勿論スパイ発覚後はブレイン侯爵に職を辞してもらうけど。



「ところで、あの恐ろしい魔法は何度も使えるのか?」


「はい。私達三人が力を合わせて撃つ合体魔法は連発が可能です。」


「なんと…………分かった。ストレッチ王国は降伏し、イットリウム王国に吸収させようと思う。」



 え? そんなにあっさりと?



「元々はイットリウム王国もストレッチ王国であったのだ。600年前にイットリウム公国として独立し、500年前には属国となり、400年前には独立戦争で伝説の勇者が活躍してイットリウム王国となった。そして今、ストレッチ王国が吸収される形で新生イットリウム王国となるのだ。」


「いくら何でも簡単に決めすぎじゃありませんか?」



 碧ちゃんの疑問は尤もだ。



「俺だって簡単に決めたわけではないし、英勇トリオという大戦力相手に勝てると思う程ボケてもいない。ただ……英勇トリオを見極めた結果、ストレッチ王国としての歴史は終わるが、新生イットリウム王国として存続していく方に可能性を見出したに過ぎん。」



 私達と戦い続ける事で、下手をすれば殲滅戦をされてしまう可能性に思い至ったんでしょうね。


 そんな事をされるくらいならば、国ごとあげてしまえば民達も被害を被る事はないって事か。



「良し。ならば今後についての話し合いをしようかのう。」



 ストレッチ王国は降伏を申し出、イットリウム王国はそれを受け入れる。


 両国トップが詳細を詰める為に話し合い、私達三人が手持ち無沙汰になっていたところ…………。



「緊急!! ご報告申し上げます!! 付近に正体不明の怪物が突如として出現!! 両国の兵に多大な被害が出ております!!」



 とうとう来たわね。


 今度は圧倒的な力で叩き潰してやるから、覚悟しておきなさい。




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