第25話 臨時会議
合同訓練を決意した日の夜の事。
俺は嫁二人に襲い掛かられた。
エイミーを気遣いアオイにも遠慮して、今まで二人に全く手を出さなかった事に痺れを切らしてしまったようだ。
二人の勇者を相手に英雄の俺では対抗しきれず、足腰立たなくなるまで戦わされてしまった。
俺の戦場に新たな勇者が投入されたのだ。
「レイベルト? またしてね? 私、本当に嬉しかった。本当に嬉しかったの……。」
「エイミー……。」
お前、そんな大人しそうな顔で……やるじゃないか。
でも、良かった、な……。
「「レイベルトーッッ!!」」
俺は、全力で戦った。勇者を二人相手に出来る奴なんてきっといないだろう。
自分で自分を褒めて……やりたい。
「お前ら加減しろ。」
「ごめんごめん。」
「ごめんねレイベルト。」
まったく。俺でなければ死んでるぞ。
「また戦いが始まるんだ。今から子供が出来るのはマズいだろ。」
「へいへい。」
アオイ。お前、全然悪いと思ってないな?
「えへへ。ごめんね?」
エイミー。お前も実はそれ程悪いと思ってないだろ。
まぁ、あまり問い詰めても仕方がない。
「レイベルトは自分で嫁を増やしたんだから、ちゃんと私達を平等に可愛がらないとダメだよ。」
アオイの言う通りだ。
かなり無理を言って納得してもらったのだから、体力が持たないなどとは言っていられない。
訓練の量を減らすか…………いや、ダメだ。
たとえ勇者が二人であっても俺は負けない!
「なんか決意してるみたいだけど、訓練の量を減らしたら?」
何故俺の考えが……
「アオイ。お前まさか、能力を使ったな?」
こいつは戦闘中に限り、相手の思考が読めるという能力を持っている。
戦争の時にはかなり助けられたものだ。
「流石に使わないって。そもそも戦闘思考傍受は戦闘中じゃないと……ん? これもある意味戦闘と言えなくも…………。」
マズい。余計な事を言ったかもしれん。
ただでさえ勇者二人の相手は厳しいというのに、これで能力まで使われてしまったら俺は一体どうなってしまうのか。
「レイベルト大丈夫?」
エイミー……。
君は俺を心配してくれるのか?
……やはり持つべきものは幼馴染。
そう言えば昔から俺が言い辛い事なんかを察してくれて……
「夜が楽しみだね。」
「……。」
そう言えば昔から察してはくれるが、我を通すところもあったな。
俺の戦場は激しさを増すばかりだ。
あれから更に一年。
合同訓練もこなし続け、俺とアオイの部隊は想定以上に強くなっていった。
結局、エイミー親衛隊と名乗る部隊はエイミー親衛隊として組織した。多分その方が奴らもやる気が出るだろうとの配慮だ。
俺が鍛えた部隊はそのままナガツキ伯爵家の兵として雇用し、この二年の間にナガツキ伯爵家だけでストレッチ王国を上回る軍事力へと成長している。
「王よ。いよいよ準備が整いました。」
俺は今、戦争の準備が整った事を報告する為王宮に来ている。
「うむ。大変喜ばしい事ではあるが……英雄の部隊はいくらなんでも強くなり過ぎじゃろ。 一人で兵六百人相当など人間をやめとりゃせんかの?」
「いえ、彼らもちゃんとした人間です。笑顔を見せる事もあれば涙を流す事だってあります。訓練すればする程笑顔を見せてくれる可愛い部下です。」
「……可愛いならもっと人間らしい扱いをせんか。」
え?
これ程大切に扱っているというのに。
何か誤解を受けているのだろうか?
「どのような意味でしょうか?」
「分からんのか。……お主の訓練内容は報告で聞いておる。報告してきた奴はあんな訓練を受けるくらいなら戦争した方がマシだと言っておったわい。」
「戦争した方がマシだと思う訓練を受けるからこそ生き残れるのです。」
「お主は一体何を言っとるんじゃ?」
「え?」
何故か王に呆れられてしまった。
「まぁ良い。それより、仕掛けるのであろう? 一応他の貴族にも声を掛けておかんと後々面倒じゃぞ?」
他の貴族とて手柄が欲しい奴、戦争自体に反対な奴、それぞれの意見があるので、俺達だけで戦争してしまうと勝手にナガツキ伯爵家が暴走したと取られかねないのだ。
「その点に関しましては心配いりません。」
「何かいい案があるのか?」
「はい。文句を言ってきた奴をぶちのめします。」
「……。」
「ストレッチ王国を滅ぼさねば私の気が済みませんので、反対する貴族がいるなら先に潰して御覧に入れます。」
「御覧に入れて欲しくないんじゃが。お主、目が血走っとるぞ。まぁ、反対派の中にはまだ捕まえる事が出来ておらんスパイもおる。一度貴族を集めてついでに様子を見るかのぉ。」
「はっ! そのご提案、誠に有難く。」
そうして王は自国防衛の為の臨時会議を開くという名目で、中・上級指揮官として働くであろう子爵以上の貴族をほぼ全て集めた。
「皆の者。良くぞ集まってくれた。此度は自国防衛の為として集めたのじゃが、実は英雄ナガツキ伯爵から提案があるそうでな。さぁ英雄よ。その提案を皆に聞かせてやってくれ。」
「はっ!」
普段パーティに用いられる広い会場には40人程が一堂に会していた。
自分の決意を表明する為、そして少しでも士気を向上させる為、全員に届くよう声を張り上げる。
「俺はナガツキ伯爵家の兵を一人六百人に相当する戦力へと鍛え上げた。その人数は84人。加えて俺が七千、勇者が七千の戦力。もう一人の先祖返りした勇者は三万の戦力。合計すればストレッチ王国を倒せる戦力となった。」
実はあれから俺とアオイも鍛錬に鍛錬を重ね。実力を大きく上げていたのだ。
会場内が大きな動揺と困惑に包まれ、ざわざわと騒がしくなった。
「準備は整った。今度はこちらが仕掛ける番だ!!」
俺の宣言で一瞬静まり返ったかと思えば、貴族達からは反発が起こる。
「待て! そんな事あるわけないだろ!」
「いくらなんでもあり得ない。」
「でも、本当ならば……」
「将来の憂いを除けるな。」
「常識で物を考えろ!」
「もうこちらに戦をする余力はない!」
「戦って負けたらどうする!?」
ふむ。反対意見の方が多いな。
これは皆スパイという事か?
「何故反対する。勝てる戦なのだから突撃すれば良いだろう。」
「ちょっとレイベルト! いくらなんでも、根拠も無しに話したって賛同は得られないよ!」
そうかもしれん。
今、ナガツキ伯爵家の兵が強い事を知っているのは一部の人間だけだったな。
「勇者殿は話が分かるようだな。」
「再び戦争なぞ現実的ではない。」
「ふむ、勇者殿の話ならば聞く価値はありそうだ。」
「英雄は戦しか知らぬという話だしな。」
「待て待て。勝てるのならば挑むべきだ。」
「勇者殿の話を聞いてみても良かろう。」
「しかし、六百人に相当するという話は有り得ないぞ。」
アオイが発言した途端、少しは聞く姿勢になった貴族達。
恐らく俺の嫁が美人だからだろう。
「さて、兵一人が六百人に相当するという話は嘘に聞こえるかもしれません。ですから、ここに王宮の騎士団長を呼んでいますので、話を聞いてみて下さい。」
アオイが一人の男を紹介し前に立たせた。
彼は娼館通いが趣味のドゥラン騎士団長。その実力は兵二百に相当すると言われ、前回の戦でもかなり活躍した傑物だ。
「ドゥラン騎士団長です。結論から申し上げますと、英雄殿の兵は少なくとも全員が私に倍する実力の持ち主です。皆様は英雄殿の訓練風景を見た事がございますか? あれは……先の戦などが致死率の高いピクニックに見えてしまう程の凄まじい訓練でした。」
待て。致死率の高いピクニックとはどういう事だ?
俺の訓練は地獄かもしれんが、戦をピクニックだと思った事はないぞ。
「もしお疑いでしたら、あの凄まじい訓練を一度見学なさっては如何でしょうか。ちなみに私は遠慮します。あれは人が受けて良い訓練では決してありません。」
おい。
俺の訓練を馬鹿にするのはやめろ。
「お前も鍛えてやろうか?」
「英雄殿! 申し訳ありませんでした! どうか、どうかあの訓練だけはご容赦を!!」
やめろ。土下座をするな。貴族達の顔が青くなってるだろうが。
風評被害も甚だしい。
これ以上泣き喚かれては敵わんとエイミーに指示を出すと、泣きながら謝り倒している騎士団長は彼女に引きずられ、別室に連れて行かれてしまった。
「え、えーと……ドゥラン騎士団長ありがとうございました。えー……彼は体調が優れないようなので別室で休んで頂きます。」
コホンと咳払いし、アオイが再び口を開く。
「皆様、多少のトラブルもありましたが、ドゥラン騎士団長の実力はご存知かと思います。彼の言であれば信用も出来るのではないかと。」
再びざわつく貴族達。
「お、おい。ドゥラン騎士団長が泣いてたぞ。」
「それ程までに過酷な訓練なのか……。」
「民に苦役を課した事もあるが、俺とてそこまで酷い事は出来ん。」
「英雄は頭がオカシイから英雄だったのかもしれん。」
「しっ! 聞こえるぞ!」
「だが、ドゥラン騎士団長がああまで言うならば勝算はあるかもしれんな。」
頭がオカシイって言った奴。
覚えたからな。
「と、言う事だ。しっかり勝算があっての提案だ。反対する奴はスパイとみなすからそのつもりでな。」
「レイベルト? 目が血走ってるよ?」
おっといかん。
王にも注意されたのだった。
そうして話し合いが進み、殆どが賛成派に回った頃……一人の貴族が反対を主張し始めた。




