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戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。  作者: 隣のカキ
第二章 ルートⅢ

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第24話 訓練

 王都に戻り生きている刺客から情報を吐かせた結果、やはりストレッチ王国からの刺客だという事が判明した。


 エイミーがスパイを殴り殺した後の現場を見て、スパイ行為が発覚してはいけないと犯人を追跡したところで俺が彼女と再会した場面に鉢合わせたらしい。


 本来であればエイミーは商会に呼び出された時に始末されている筈だったらしく、それで彼女が生きていた事に驚いたそうだ。


 そうしてゴタゴタが片付いた後、俺とエイミーの結婚話を進めていく過程で貴族連中からの反発があった。


 いくら彼女に罪はなかったとはいえ、傷物にされた女を貴族家の第二夫人にするという事が常識外れである事は理解している。


 当然、俺が無茶をしているという自覚だってある。


 今回はスパイの証拠を掴んだという功績で一代限りの準男爵位をエイミーが賜り、一応の箔付けをしてから結婚した。


 公式にはスパイの件を発表出来ないので、伝説の勇者の先祖返りという部分を強調して準男爵位を得た形だ。


 スパイの件を大っぴらに言うと逃げられてしまう可能性があるから仕方がない。


 王もエイミーの境遇には同情してくれたが、結婚の事を言いだした時は「反発は覚悟しておくように」と言われた。


 俺はエイミーの名誉回復の為、対外的には英雄を妬んでいた奴によって彼女が陥れられたという事で周囲に話を広めている。


 一部の貴族からは婚約者も守れない馬鹿英雄と言われるようになったが、一方では勇者二人を擁する特級戦力と見られるようになり、宝剣を所持していなくとも表立って突っかかってくる貴族は激減した。


 これに関してはアオイが言っていたのだが、エイミーが傷物だから云々は建前でしかなく、戦力が集中し過ぎている事を嫌った勢力による反発だろうとの事。


 一つの家に戦力が集中する事を面白く思わない奴がいるというのは理解出来る。


 また、スパイの件は元々アオイが報告していたのもあって、王と信用のおける極一部の上位貴族が積極的に対処していく事となった。


 手紙で証拠を掴んでいる者に対しては容赦なく狩り取って情報を吐かせ、オリヴァーの報告と照らし合わせて怪しい者には証拠を掴むまでは泳がせる、といった基本方針で国内の平定に努める事にしたそうだ。


 そして俺とアオイが立てた『一人五百殺』作戦の事も王に相談した結果、本当にそんな事が出来るのならばやっても良いという消極的な賛成を得られたので、早速取り掛かる事にした。


 以前は俺が上官に部隊を取り上げられたが、今度は俺が軍から自ら鍛えた部隊を取り上げ連日再教育し、アオイもナガツキ伯爵家の兵を存分に鍛え上げている。


 エイミーはあれから女の子を産んだ。


 子供に罪はない。


 アオイは合間を見つけて育児に協力し、ナガツキ伯爵家の養女として立派に育て上げるのだと息巻いている。


 エイミーとアオイはすっかり仲良くなり、今ではまるで姉妹であるかのようだ。


 ただ、エイミーが娘にアオイと名付けようとしていたのは流石に止めた。同じ名前が二人だと混乱する為、勇者繋がりで伝説の勇者サクラの名を付けた。


 曲がりなりにも我が家は伯爵家。


 使用人の協力もあり、エイミーにも多少の時間は空く。


 苦しい生活を送っていた事もあり、少しでも休養を取って欲しいと思っていたのだが、彼女はその空き時間で訓練に参加し始めた。


 俺だとエイミーに対して甘さが出ると言って、アオイが鍛えているらしいのだが……



「レイベルト。エイミーってば凄く強くなったんだよ? 伯爵家の兵士さんもかなり強くなったし、成果を見てみたくない?」


「それは気になる。」



 アオイは兵士達をどういう方向性に鍛えたのか。


 エイミーがどれだけ強くなったのか。


 非常に楽しみだ。









「ストレッチ王国をー!!」


「「「「「うおおおおおお!!!!! ストレッチ王国をぶち殺せー!!!」」」」」



「は?」



 俺の目の前にはアオイと兵士達が大声で物騒な言葉を叫び、激しく剣を打ち合うという謎の光景が繰り広げられていた。




「ストレッチ王国をー!!」


「「「「「滅ぼせっ!! 滅ぼせっ!! 滅ぼせっ!!」」」」」


「ストレッチ王国の横暴をー!!」


「「「「「許すなっ!! 殺せっ!! 滅ぼせっ!!」」」」」


「良し! 敵兵を見つけたらー!!」


「「「「「即殺!! 滅殺!! 抹殺!!」」」」」


「今日の剣術訓練は以上!」


「「「「「もっと訓練をお願いします!!」」」」」




 なんだこれ。



「奴らは……何をしているんだ?」


「あ、レイベルト。見に来てくれたの?」


「エイミー……。何故こうなった?」



 これは本当に意味が分からない。俺が鍛えた部隊だってここまでの熱気はない。


 俺とアオイはそれぞれ別々の場所で兵を鍛えていたので、今まで互いの訓練風景を見る事はなかった。


 なんせ俺が鍛えた部隊とアオイが鍛えた部隊はスタートラインからして違う為、一緒に訓練しても良い影響はないだろうと配慮したのだ。



「アオイちゃんは美人だから兵士さん達が張り切っちゃって。」


「だからって、こうはならんだろ。」


「んー。多分……私の境遇をアオイちゃんが話してから余計にこうなっちゃった感じはするかなぁ。言ったらマズい部分は曖昧に伝えたみたいだけど。」




「エイミーをー!!」


「「「「「守れっ!! 守れっ!! 守れっ!!」」」」」


「エイミーの敵はー!!」


「「「「「全身の骨を良く砕いてぶち殺せー!!」」」」」


「エイミーに絡んでくる奴がいたらー!!」


「「「「「理由は聞くな!! とにかく殺せ!!」」」」」




「なぁ。これだとあいつら、指示を出す前に突撃してしまわないか?」


「えっと。流石にアオイちゃんの言う事は聞くと思うんだけど……。」



 本当か? あいつら、訓練だというのに目が血走ってるんだが?



「まぁ、エイミーが溶け込めたようで何よりだ。」



 俺は思考を放棄する事にした。



「あ、訓練終わったみたいだよ?」



 アオイとナガツキ伯爵家の兵士達が駆け足でこちらへやって来る。



「全員閣下に敬礼!」


「「「「「エイミー親衛隊、剣術訓練を終えました!!」」」」」



 一切乱れず統率された動きはいっそ見事という他ない。


 剣の腕もそこそこ鍛えられていて、仮に俺がこいつら全員を相手にするとなれば、少しは楽しめるだろうなと思う程度には強い。


 しかし、お前らはナガツキ伯爵家の兵だろうが。いつからエイミー親衛隊になったんだよ。



「レイベルト。次はエイミーが訓練するから見ててね。」


「あ、あぁ……。」



 アオイの言葉に俺は頷く事しか出来なかった。


 良し。一度気を取り直して、エイミーの成果を見よう。



「それじゃあ、いくよー!」


「うん!」



 アオイとエイミーは互いに距離を取って構える。


 アオイは静かに佇み、エイミーは自身の体から膨大な魔力を噴き上げさせた。


 直後、エイミーの背後には50を超える火の玉が出現し、手を前に突き出した瞬間アオイにそれらが殺到する。


 アオイは涼しい顔で避け、剣で払い、時には魔法で相殺し、少しづつエイミーとの距離を潰していく。


 放たれた火の玉は人を殺すのに十分な威力が込められており、魔力量どころか魔法の技量までも俺以上である事が伺える。



「信じられん……。」



 この一年であそこまで魔法をモノにした? 伝説の勇者の血統とはここまで恐ろしいものなのか? 


 いや、良く見ればエイミーの目は黒く変化していない。


 という事は、まさか……。



「アオイちゃん。本気でいくよ。」


「オッケー。」



 互いに示し合わせたようにアオイは魔力を解放し、エイミーは瞳の色を黒に変化させると同時に更にその倍程の魔力を放出する。


 得意魔法が同じなのか、火と風の大魔法を連続でぶつけ合う二人。


 もはや災害だ。


 王より借りた練兵場の地面が次々と抉れ、とんでもない爆音が連続で響き渡っている。


 一見互角に見える戦いだが、エイミーの方は徐々にアオイについていくのが難しくなり、アオイがその場から動かないのに対してエイミーは魔法を避けながら反撃する事を強いられていた。


 魔法の展開速度が劣っている故の結果。


 しかしこれは……



「完全に勇者級だ。」


「閣下。エイミー様は毎日とんでもない密度の訓練に励んでおいでです。」


「うん? あぁ……えっと。」


「エイミー親衛隊隊長のザックです。」


「あ、あぁ。」



 だからエイミー親衛隊って何だよ。


 そんな部隊を創設した覚えはない。



「エイミー様は閣下のお役に立ちたいと日々の訓練に全力で取り組み、ああして練兵場の地面をアオイ様と共に抉っているのでございます。」



 抉るなよ。



「そ、そうか。」



 これ、王に怒られないよな?



「心配は無用です。練兵場の地面を土魔法で均すのも我々の訓練の一つですので。」


「そうか。」


「はい。次は我々の魔法訓練です。」


「楽しみにしている。」








 嫁二人の訓練はアオイの勝利で終わった。


 聞けば、エイミーの保有魔力はアオイの五倍。


 魔法だけで持久戦をやった場合はアオイが負けてしまうそうだ。



「純粋に一対一で戦うなら私やレイベルトの方が強いけど、エイミーを魔法の固定砲台として運用するなら私やレイベルトなんて目じゃないね。」


「どういう意味だ?」


「つまり、エイミーに大魔法だけ連発させれば、それだけで大勢の兵を倒してしまえるって事。戦力換算すれば二万は余裕でいけると思う。エイミー親衛隊を前衛にすれば万が一もあり得ないしね。」



 俺の幼馴染は果たして何者なのだろうか……。


 開いた口が塞がらない。



「レイベルト? 口に虫が入るよ?」



 エイミーを見れば、相も変わらずポヤポヤと穏やかな雰囲気を漂わせ、とても二万もの兵を薙ぎ払えるようには見えない。








 一度気持ちを切り替えた俺は、エイミー親衛隊の魔法訓練を見学した。


 魔法を重点的に鍛えたらしく、魔法だけなら俺の部隊と遜色ない程までに強い。



「こいつら、予想以上に強くなってるな。」



 剣術と魔法の実力とを総合してみれば、一人一人が兵二百人に相当するくらいには強いかもしれない。


 一方で俺の部隊も鍛えはしたが、一人当たり四百人相当の戦力となった辺りでなかなか実力が上がらなくなっていた。



「合同訓練をしてみるのも手か?」



 俺がエイミー親衛隊に剣術を、アオイが俺の部隊に魔法を訓練してやれば、更に強くなれる気がする。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この勢力に文句を言う貴族は気狂いですね、、、まぁ実力を知らないだけでしょうけど。
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