第22話 対談
衛兵の一人から国のトップが話し合いを望んでいると伝えられ、私はその提案に乗る事にした。
色々と聞き出したい事やお願いがあったので、私としても都合が良い。
案内に従い衛兵に付いて行くと、一つの広い部屋に通された。
室内には恐らく王や貴族と思われる人たちが集まっていて、私が入室すると全員が緊張した様子でこちらに視線を向けてくる。
その中から一人の人間が少し前に出て、私に話しかけてきた。
「こんにちは。」
「えっと? こんにちは。」
誰かな。
「私はランデル侯爵と申します。貴女はイットリウム王国の方ですか?」
「はい。私はエイミーと申します。」
上位貴族? という事は、政治に関りがある?
「どのような目的でいらしたのかお教え願えますか?」
「クズの親玉を殺しに来ました。」
「……貴女は幾つもの村や街を滅ぼしてきたはずです。ここで手打ちと致しませんか? これ以上何もしなければストレッチ王国は決して貴女に手を出さないとお約束します。」
だから何?
私は死んでも良いつもりで復讐をしに来た。
当然この程度で止まるはずもない。
「無理です。私はこの国を滅ぼしに来ましたので。ところで、ランデル侯爵様はイットリウム王国にスパイを送った人ですか?」
「いえ、スパイがそちらに紛れている事は知っていますが、私が送ったのではありません。」
「そうですか……では誰が?」
王以外にもやっている奴がいたら、そいつも殺してヤル。
「あの……スパイが貴女に何かしたのですか?」
「何か? 何かしたか、ですって……?」
ダメ。怒りで魔力が溢れてくる。
ここで意識を失えば、直接この手で復讐する機会がなくなってしまう!
我慢しなきゃ!
「私は……そちらのスパイによって愛する人との婚約を解消され、暗示や薬で妊娠させられ、婚約者に失望されました。相手がスパイだと知ったのは、私が伝説の勇者の力に目覚めた時に殴りつけてやったらペラペラと話してくれたからです。」
「そ、そうでしたか。なんという事を……。」
ランデル侯爵は悔しそうな顔で下を向き、歯軋りしている。
もしかしたら、この人は本当に関与していないのかもしれない。
「ですから、スパイとスパイを派遣した人、そして王を殺し、ストレッチ王国を崩壊させる事が出来れば私は満足です。」
「ど、どうか……ご容赦頂きたく……。」
「ダメです。」
「貴様っ! 先程から聞いていればなんと無礼な! 大体、貴様一人でこの国を崩壊させるだと? 出来るはずがない!」
状況が分かっていない人がいるみたいね。
「ランデル侯爵。あのうるさいのは誰ですか?」
「……ヴァイセン侯爵です。」
あのうるさい男は帯剣している。それなら軍部の人間という事かもしれない。
「ヴァイセン侯爵。私はこれまでたくさんの村や街を滅ぼして来ました。」
「フンッ! それが本当でも、国全ては無理だろう?」
「成る程。確かに全ては無理だと思うかもしれませんよね? では先に貴方の治める街や村から滅ぼしましょう。」
「は?」
「どうかしましたか? 貴方は標的になりたくて馬鹿な事を叫んでいたのでしょう? 良かったじゃありませんか。」
「貴様っ!」
「黙れヴァイセン侯爵。」
「陛下! こうまで言われては黙っておけません! 良いか貴様! 民を殺して回るなど恥を知れ!」
この人は少し頭がオカシイのかもしれない。
「面白くない冗談ですね。ストレッチ王国はイットリウム王国の村や街に攻撃を仕掛けてきましたよね? 自分は恥を知らないけど、こちらに恥を知れと? もう少し面白い冗談が言えるようになったらまた発言して下さい。」
「強国の民と弱国の民が同価値なわけなかろう! いい加減にせんと……」
「いい加減にするのはお前だヴァイセン侯爵。状況が見えていないのか?」
「で、ですが陛下……。」
「ですが、じゃない。貴様は暫くカカシのように黙って突っ立っておけ。ヴァイセン侯爵に代わり私から謝罪する。すまなかった。」
王は状況が見えているという事ね。
でも気に入らない。
王はヴァイセン侯爵をもっと早く止める事だって出来た。
止めなかったという事はこちらがどの程度で怒るのかを確認し、交渉の際に少しでも役立てようと立ち回ったのだ、と考えられる。後は時間稼ぎ?
他にも何かがあるのかもしれないけど、私に理解出来るのはこの程度が限界。
今の場面においてそれが出来るというのは大した度胸の持ち主なのね。
このクズ、確実に私を舐めているわ。
「話を遮って済まない。私はストレッチ王国国王ベグレートと言う。どうか、この国の王である私が謝罪した事で、今の件は勘弁して貰えないだろうか。」
「はい。謝罪は受け入れます。私の実力をいまいち理解出来ていない方がいるみたいですので、少し見せてあげましょう。皆さん窓の外をご覧下さい。」
部屋には開放的でデザイン性の良い窓が備え付けられており、ここからだと王都の一部が良く見える。
部屋が高所にあるというのは好都合。
私は窓から上方に手を伸ばし、ストレッチ王国王都上空に巨大な火の玉を出現させる。
「ば、ばかな……」
「これではまるで……太陽だ。」
「きっと、悪い夢だ。そうに違いない……。」
「や、やめてくれ……。お願いだ。」
「いかがでしょう? 今は一つしか出していませんが、こうして火の玉を何十と浮かべて街へと撃ち出すのです。」
私の前には呆然と立っている者、床に膝を付いている者、頭を抱えている者、ただ震えている者……それぞれが恐怖の感情を行動で示してくれている。
クズ共が恐れ慄いている姿を見るのは、正直気分が良いわ。
「本当にすまない! 先程の無礼な発言は全て取り消す! ヴァイセン侯爵の名において謝罪する! どうか、どうかぁっ!」
「発言の取り消し、ですか。でも私の魔法は取り消しが出来ませんけど、これはどうしますか?」
「け、消せない……のか?」
「はい。もうどこかに撃つしかありませんよ?」
魔法の取り消しなんて習ってないし、そもそも出来るものなのかも知らない。
「……どの程度飛ぶのだ?」
「10㎞は飛ぶんじゃないでしょうか。」
「ダメだ……どの方向に撃っても人がいる。」
「早くしないとここに落ちますよ?」
「な……すまない民よ。真っ直ぐ西の方へ撃ってくれ。」
イットリウム王国の民にも謝って欲しいんだけどな。
まぁ、自国民が大切なのは仕方ないか。
私もストレッチ王国の民なんてどうでも良いものね。
「では西へ撃ちます。あ、間違えちゃった。」
私は魔法の精密なコントロールが出来ていないので、意図せず北の方へと飛ばしてしまった。
「何故こんな事をする!?」
何故って言われても……間違えたとしか言いようがない。
「すみません。魔法の制御が完璧ではないものでして。でもちゃんと謝りましたので勘弁して下さい。」
「そんな……北の方は一番人口が多いんだぞ!?」
「ごめんなさい。でも、運が良かったですね? 私は魔法の制御が出来ていないので、威力にムラがあるんです。今のは結構小さい玉でしたね。」
「は?」
「ですから、今の魔法は私が作る火の玉の中でも小さい方だから、ある意味運が良いですね、と。」
「そうか……そうなのか。伝説の勇者の先祖返りという報告は真実であったか。」
流石は国、という事かな。
先祖返りである事をきちんと調べていたんだ。




