第21話 侵食
今の私はひたすら村や街を大魔法の連発で襲撃しながら北上している。
目指すはストレッチ王国王都。
王都を陥落させ、王族を根絶やしにしてしまえば私の復讐は為される。
「さて、次はこの国で三番目に栄えた街、デルンね。」
ここを滅ぼすのにはかなりの魔力を要する。
でも、道中で村や街を滅ぼした際に魔力が上昇している為、決して不可能ではない。
伝説の勇者の血が目覚め始めている、という事なのかもしれない。
私はデルンの街上空に巨大な火の玉を何十と浮かべ、より広範囲に爆発が広がるよう魔力を更に込めて一斉に放つ。
そして巨大な火の玉が街へ雨のように降り注ぐと、大きな爆発を起こして街が吹き飛んでしまった。
「レイベルトに嫌われちゃうかなぁ……。」
こんな事をしていると知られてしまえば、レイベルトには軽蔑されるかもしれない。
でも、私の人生を滅茶苦茶にしてくれたストレッチ王国をこのままにしておく選択肢もない。
「あ、また魔力が増えた。」
そもそも、ストレッチ王国なんて存在しているから悪いのだ。
滅びたくないのなら、伝説の勇者の血筋が残るイットリウム王国なんて放っておけばよかったのよ。
「この調子でいけば『さぐぬtヴぃらヴんみr』に帰れる。」
早く次の街を襲撃しないと。
その後もストレッチ王国各地の村や街を襲撃し続けた。
恐らク、今のわタしに敵う者など勇者や英雄くらいシか存在しナいのでハないか。
正確には分からないけド、ストレッチ王国にアる村や街の一割は滅ぼしタと思ウ。
早ク、早ク次の襲撃を開始しナければト自分でモ分からナい焦りノ感情を感じなgら、風魔法を纏い馬以上ノ速度デ疾走すル。
「次は大都市スールの人達とナカヨクなろう。」
たくさんの人とナカヨクなれば……エ?
仲良く? ナカヨク? ってナニ?
わたs、何考えてるノ?
「あ、そっか。ナカヨクというのは魂を吸収するコト。」
ワタシったらおっちょこちょいね。
言葉の意味までわすレるなンて……
「あレ? もう着いた?」
走ってる間ニ意識ヲ失っていたカモしれなイ。
「ヨクある事よネ?」
移動中に意識ヲ失うなんて、デルンの街とナカヨクなってからは時々アったじャない。
気にシない気にしナい。
「あっ……まただ。」
デルンの街襲撃以降、私は時々意識が薄い事がある。
ぼんやりとは覚えているような気もするけど、何を考えていたのかはっきりしない。
そして何故か、本来覚えているはずのない知識がいつの間にか頭に入っていたりする事を全く不自然だと感じない。
不自然だと感じない事を違和感として覚える事は出来ているけど……。
今は早く次の襲撃を行わなければ、という感情だけが先行している気がしていた。
「とにかく、ここを滅ぼして王都に向かおう。」
私は大都市スールに向けて巨大な火の玉を幾つも発生させては連続で放ち続け、ストレッチ王国で二番目の大都市を焦土に変えた。
「魔力が……フえる。」
伝説の勇者の力というのは、相手を殺す事で魂を吸収して自らの力とする事だった。
ただ……力が増せば増す程、頭にナニかが入り込んでくる奇妙な感覚が強くなっていっている。
「ア、ダメ……また意識ガ。」
意識を消失していた私が再び我に返ると、目の前にはこの国最大の都市、ストレッチ王国王都があった。
「次で最後。」
せっかくだから、道中にたくさん練習した剣で王宮の衛兵でも斬ってみよう。
レイベルトに少しでも習っておけば良かったなぁ。
そうすればたとえ会えなくても、彼の剣技が私の中で生き続けたのに。
「王宮を目指そう。」
魔力の増え過ぎた私は既に通常の魔法が大魔法級になってしまっている。
微調整が難しく、コントロールも上手く出来ていない状態でこんなデタラメな魔法を撃ってしまうと、間違って王宮を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
そんな事をしてしまえば、この手で直接王族を狩る事が出来ないのだ。
「ダメよ。絶対に直接復讐しなければ。」
王都はまるでゴーストタウンのように静まり返って、大通りなのに人が殆どいない。
恐らく……私が街や村を散々滅ぼした事で人が逃げたか、隠れているかしているのでしょうね。
「おい。不審な奴め。今は戒厳令が出……」
近寄って来た兵士の首をスパンと落とし、死体を無視して通り過ぎる。
「絡まれるのも面倒だし、少し走ろうかな。」
風を発生させて駆け足くらいのつもりで走ると、私は馬よりも早く走る事が出来た。
前方にはこちらに気付いた兵士達が向かってきており、風魔法を放って一掃する。
火の魔法だと調節しづらいと風魔法を使ったのだけど、周囲の建物が全て吹き飛んでしまった。
「あーあ。」
瓦礫の山と化した無人の景色。
まただ。今回はほんの少し魔力が増える感覚。
「レイベルト……。」
貴方と二人で丘から眺める景色が大好きだったのに……私は今、どうしてこんな光景を見ているんだろう。
こんなの、全然望んでなかったよ。
「立ち止まってても意味なんてない。」
私は道中、会う度会う度敵の兵士を剣で斬り捨て、とうとうストレッチ王国王宮へと辿り着いた。
「ここにクズの親玉がいるのね。」
やっと恨みが晴らせる。ここまで来た甲斐があった。
でも、せっかくこちらがある種の達成感のようなものに浸っているというのに、王宮の門番が邪魔をしてくる。
門番は何やら喚いていたけど、無造作に腕を掴んで地面に叩きつけるとドチャッと音がして大人しくなった。
「王宮の門番なんだし、物静かな方が品もあっていいわよ?」
大人しくなった門番に話しかけても返答はない。もう一人の門番もうるさかったので地面に叩きつけると、すぐに大人しくなった。
静かになった門番達に満足した私は門をくぐり、堂々と正面から侵入すると今度は衛兵達が殺到してくる。
「レイベルトみたいにもう少し剣技も鍛えなきゃ。」
確か……剣には『さぐぬtヴぃらヴんみr』から流れ込む意思をのせて魔力で無理矢理侵食してやれば、グニャグニャと動いて勝手に攻撃してくれるのヨネ?
そうだった。確か父もそう言っていたはず。
これでも元騎士の娘。最低限の剣の使い方くらいは習っている。
どうして今までは自分で剣を振っていたんだろう?
私は襲い掛かって来る衛兵達を次々と剣術で撃退し、逃げ出そうとする相手がいれば死体を放り投げて叩き潰す。
「ソウ言えばニゲられちゃう事を想定してなかったなぁ。」
魔力が増えると同時に見聞きした事もないような魔法の知識を得ていた私は、その中の一つである結界魔法で王宮全体を囲い逃げ場をなくしてあげた。
多分これも『さぐぬtヴぃらヴんみr』から流れ込んできた知識。
逃げられない事を悟った人間達は恐怖の感情からか、その場で泣く者、大騒ぎする者、諦めてただ座り込む者、と様々な行動を取っている。
たくさんのニンゲン達とナカヨクなれそう……
「止まって下さい! 王が……王と重臣が話し合いをしたいとの事です!」
衛兵の一人が焦った様子で私に対して話し合いを要求してきた。
「話し合い……ね。」
丁度いいわ。私から話をしに行こうと思っていたところなのよね。




