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戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。  作者: 隣のカキ
第二章 ルートⅠ Bエンディング

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第20話 新たな決意 (Bad End)

 こんな所で死ぬわけにはいかない。


 レイベルトを取り戻すんだ。



「うわあぁぁぁぁぁっ!」



 私は勢い良く勇者に飛び掛かった。


 けど、私の攻撃は軽々と避けられてしまい、諦めずに続けて攻撃を仕掛けても見えているとばかりに防御されてしまう。


 実際、見えているんだと思う。


 勇者アオイの顔からは余裕の笑みが消えない。



「うーん。君さ、力と速さはあるみたいだけど、ただ闇雲に攻撃したって当たらないって分かるよね?」


「食らえ!」


「食らわないっと。」



 先ず当てない事には話にならない。


 私は大振りだった拳の動きを刻むように小さくし、少しでも勇者アオイを倒せるよう思考の全てを勇者アオイを捉える事に向ける。



「おっ? 君、才能あるんじゃない? この短時間で動きを修正してくるなんて、レイベルトが鍛えたあの人達より余程凄いよ。」



 こんな形で勇者に褒められても嬉しくない。



「まだっ!」



 まだだ……まだ、この人を倒すには遠い。


 でも……いつか。



「いつか倒せる、とでも思ってる?」


「な、なんで……。」



 どうして私の考えが……



「どうして私の考えが分かるの? って顔だね。簡単さ。一度剣を交えれば……この場合は拳か。拳を交えれば大体何考えてるかは分かるよね?」



 当然のように言い放つ勇者アオイは歴戦の戦士。


 でも、いくら歴戦の戦士だからって、たったこれだけの事で相手の考えが分かるなんてあり得ない。



「戦場を経験したから……という事?」



 私は一度拳を止め、勇者に話しかけた。


 息が切れる。


 少しでも会話で引き延ばさないと。


 時間を稼いで、どこまでも食らいついてかなければ。



「ごめんごめん。信じちゃった? 少し剣を交えたからって考えている事まで分かるなんてないと思うよ。レイベルトだって出来ないし。」



 この場面で冗談?


 私なんて歯牙にもかけない様子で舌を出して見せるなんて……



「これは多分勇者の能力なんだと思う。王様に話を聞いたら勇者は魔法が強いとしか記録に残っていないみたいなんだけど、勇者には他の能力も備わってたんじゃないかと私は考えてる。」



 なにそれ……



「戦闘中に相手の思考が読めるという能力。私は戦闘思考傍受コンバットインターセプションって呼んでる。戦闘中でしか使えないし、達人が相手だと思考を読みにくくなるって弱点はあるけどね。」



 じゃあ、もしかして……



「お? 正解。君が時間稼ぎに話しかけてきた事もちゃーんと読めてるよ? これで私は何度も生き残ってきたし、レイベルトを助けてきた。能力に気付いたのは戦争が始まって一年くらいの頃。」



 こちらの思考を読んだ上で、それでも時間稼ぎに付き合ったという事?


 だったら、勇者アオイは私が追い付けないと考えているからこそ……



「それも正解。君は私に追いつけないって事。だって……」



 彼女の纏う気配はより一層死の気配を色濃くし、呼吸すらもためらう程に空気が重くなる。



「少し本気で戦ってあげるからね。追いつく暇なんてないんじゃない?」


「うっ……。」



 凄い圧が全身に圧し掛かり、まるで水中にいるみたいに体が鈍い。


 これじゃまるで……



「年頃の女の子に向かって災害は酷くない?」



 また……考えを読まれた。


 バ、バケモノ……



「バケモノとかやめてよ。傷つくんだから。君の敗因は三つ。力の使い方も覚えず挑んできた事。私を侮った事。そして……レイベルトを裏切った事っ!」



 勇者アオイが初めて行った反撃はただの蹴り。


 私は間一髪逃れる事は出来たけど、後ろからはバキバキと何かが倒れるような音がした。


 恐る恐る振り返ると、無惨にも木々が斬り倒されている。


 蹴りだけで離れた場所の木を斬った……?



「後ろを見るなんて余裕だね。まぁ、私がレイベルトを裏切った奴に負けるはずなんてないから別に良いんだけどさ。」



 これは、風魔法?


 こんな威力の魔法なんて、私……


 絶対に勝てないであろう勇者を目の前に、自身の心がポキリと折れたような気がした。



「さーて。エイミーはどんな風に戦うのかな? こうやって襲い掛かってきたわけだし、当然覚悟は出来てるんだよね?」



 ダメ。


 これは勝てない。


 何で始末出来ると思っちゃったんだろう……


 舐めてかかったつもりはないし、これ以上ないというタイミングで攻撃を仕掛けた。慢心したつもりは全く無かった。


 けど、それでもまだ……私は勇者を舐めていたんだ。



「あらら。心が折れちゃったみたい。じゃ、君を捕まえてレイベルトにお説教してもらおうか。多分、今以上に失望されるだろうね。」


「や、やだ……。」



 恐怖で足がすくんで動けない。



「ダ…メなの。捕まりたく……ない。」



 ここで捕まるのだけはダメ。


 これ以上彼に失望されるなんて……耐えられない。



「や、やめて、下さい。」


「どうして? レイベルトに会いたかったんでしょ?」



 やだよ。


 レイベルトに失望されるくらいなら、死ぬ方が……。



「ご、ごめんなさい……もう、しません。本当にもうしません! レイベルトに失望されるのだけは嫌です!」



 気付けば、涙を流しながら地に頭を付けていた。



「謝れば許されると思ってる?」


「お、思いません。でも、もうレイベルトにあんな目で見られるのは嫌なの!」



 あんな、あんな怒りの目で見られるのだけは……。



「はぁ……。お腹に子供もいるんでしょ? こんな訳の分からない事なんてしてないで、ちゃんと真っ当に生きなよ?」



 今までの張りつめた空気が嘘のように霧散する。



「え?」


「え? じゃないでしょ。もう行って良いよ。可哀想だし、レイベルトには今日の事言わないでおくから。」



 許……された?



「あ、そうだ。」


「な、なに?」



 勇者の姿が消え、直後にパアンと乾いた音が響いて頬に衝撃を受けた。



「手加減したから問題ないでしょ? 馬車を襲った件はこれで済ましてあげる。」


「痛い……。」


「レイベルトの心はもっと痛かったはずだよ。」


「……レイベルトの?」



 レイベルトの心……。


 そうだ。


 レイベルトが勇者アオイと結婚してしまうと両親から聞いた時、私の心は締め付けられるように苦しかった。


 きっと彼だって、同じような思いをしたはずよ。



「あーあ……これ、何て言い訳したら良いんだよ全く。御者なんて馬ごとひっくり返って目を回してるし……。」


「あ、あの……。」


「さ、もう用はないでしょ? 早く行きな。御者が目を覚ましたら言い訳できないよ?」



 これが勇者。


 英雄レイベルトの妻、勇者アオイ。


 私は今の今まで…………会えないのは寂しい、別れるのは辛い、レイベルトが盗られて苦しい、と……自分の事しか考えていなかったじゃない。


 勿論、彼に悪い事をしたという気持ちが無かったわけじゃない。


 でも、私は彼を失ってしまう事にばかり意識がいってしまい、心を……彼の心をないがしろにしていたのね。


 この人のお蔭で完全に目が覚めたわ。



「オリジナル魔法を開発してたら馬車が爆発した事にでもしておく? でもなぁ……それって結局私が呆れられるんじゃん……。」



 ブツブツと文句を言いながら肩を落とす勇者の姿は、見る者が見れば情けなく映るかもしれない。


 けど……私にとっては紛れもなく、噂に違わず、もしかしたら伝説の勇者よりも……


 彼女は勇者らしい勇者だった。



「勇者、アオイ様。」


「なに? もう変な気起こさないでよ?」


「はい。もう致しません。私は決して貴女様の前にも、レイベルトの前にも二度と姿を見せません。」


「え? あ、いやぁ……20年位したら姿ぐらいは見せても良いと思うけど……。」


「いえ、決して見せません。」


「そ、そお? 別に忘れた頃ならレイベルトは気にしないような気もするけどなぁ。」



 姿は見せない。


 でも、甘さがあるこの人を……勇者アオイと英雄レイベルトを陰ながら支えよう。


 きっと、この甘さがどこかで枷になりそうな気がする。


 私は自分の力を磨き、この人達が甘さを見せて処分出来なかった敵を始末していく。


 そうすればきっと……来世にはお互い覚えていなくても、笑顔で会えるよね?


 そうだよね? レイベルト。



「おーい。何か決心してるところ悪いんだけど、意味ないからやめといた方が良いよ。」


「え?」


「私は君が思ってる程甘い女じゃないって事。こう見えても相手を再起不能にするのは得意だからさ。」


「そうは見えませんが……。」


「問答は良いから早よ行かんかい! もう御者が起きるってば!」


「は、はい! 失礼しました! 本当にありがとうございました!」



 そう言って私は勇者アオイ様の前から素早く走り去る。


 後ろから「もう変な事しないでねー。」と明るい声で手を振る姿が印象的な人だった。


 私は、彼女に対してだけ……再起不能にさせられたのかもしれないわ。
















 あれから17年。


 今の私には娘がいる。


 勇者アオイ様のような素晴らしい女性になれるよう伝説の勇者と同じサクラという名前を付けてあげ、そこそこの学校に入れてあげる事が出来た。


 私は自身の腕っぷしを活かせる木こりの仕事に就き、サクラを育てる傍ら、英雄夫婦の敵を始末している。


 彼の為になるよう少しでも贖罪を……と活動している事もあり、サクラにはあまり構ってあげられなかった。


 それでもサクラは真っ直ぐに育ってくれ、将来は英雄夫婦に仕えるんだと夢を語っている。


 私は二度とレイベルトには会えないし、会う資格もない。ほんの少しの繋がりでさえも持つ資格なんてない。


 サクラはレイベルトに仕えたいと夢を語っていたけど、私のせいでその夢を叶えてあげる事が出来ない。


 サクラは私の面影がある。自惚れるわけじゃないけど、レイベルトならきっと私の娘だと気付いてしまう。


 サクラの夢を私はやんわりと否定するが、なんで? どうして? と諦める様子がないので、自身の罪を告白した。


 すると娘は……顔をクシャクシャにして泣きながら『お母さんなんて嫌い!』と言って出て行ってしまった。





 その時から、サクラとは会えていない。



「私はもう……レイベルトだけじゃなく、サクラにも会う資格はないのね。」



 これはきっと罰なんだ。


 レイベルトを裏切り、娘の夢を潰してしまった報い……。


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