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戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。  作者: 隣のカキ
第二章 ルートⅠ

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第22話 英雄への手紙

「今ここで読んでも?」


「勿論です。」



 手紙を開き、中に目を通す。




レイベルトへ


 今、この手紙を読んでくれているという事は、既に私はこの世を去った後なのでしょう。


 以前あなたに手紙を書いて以来、二度と手紙を送る事はしないと思っていたんだけど、これが最後なのでどうか許して下さい。


 私はかつてあなたを裏切った。


 本当に申し訳なく思っています。レイベルトと結婚する事を夢見ていたはずなのに、どうして私はこんな風に生活しているんだろうと、以前は何度も悔やんで悔やんで……


 ですが、今では自身の弱さが招いた結果だと納得しています。


 ごめんなさい。裏切ってごめんなさい。あなたの心を傷つけてごめんなさい。


 英雄レイベルトの活躍が聞こえてくる度、勇者アオイ様との結婚生活の話が聞こえてくる度、あなたは今幸せなんだと勝手ながら嬉しく思っていました。


 信じて貰えないかもしれませんが、私は今でもあなたを愛しています。裏切ったのは紛れもない事実ではあるけれど、愛しているのも嘘偽りのない事実です。


 こんな私を幼馴染にしてくれてありがとう。ダメになっちゃったけど、婚約者にしてくれてありがとう。人を愛する気持ちを教えてくれてありがとう。


 そしてなにより、戦争から生きて帰って来てくれて本当にありがとう。



 娘のサクラには誠実さを一番に教えてきました。


 私に多少似ているところはあるけれど、決して不義理な事だけはしない子に育ってくれた自慢の娘です。


 サクラには、この手紙を書いている時点であなたとの関係はまだ伝えていませんが、死に際には全て教えるつもりです。


 娘は小さい頃から英雄レイベルトに憧れていて、いつかあなたに仕えるんだと頑張って生きてきました。


 私の娘ではありますが、娘と私は別の人間です。あなたがもし嫌でなければ……娘は優秀なので、どうか仕えさせてあげて下さい。


 私は先に逝きますが、今度会う時はただの幼馴染として笑顔であなたに会いたいです。


                      エイミーより




「……。」



 エイミー……。


 確かに、お前の気持ちは受け取ったよ。いつになるかは分からないが、俺もいずれはそちらへ逝く事になるだろう。


 待っててくれよ? 今度は一人の幼馴染として……色々と話そう。



「サクラ……で良かったか? こうして手紙を届けてくれて礼を言う。」



「いえ、こちらこそ手紙を読んで下さりありがとうございました。」


「礼は必要ない。確かに決着は着いていたが……手紙を読んで、以前の俺が救われたような気がする。」



 そう……エイミーは俺を愛していないが故に裏切ったんだと、俺はずっと思い込んでいた。


 裏切り自体は許せない事だが、少なくとも彼女に愛されてはいたのだ。この手紙を読んで、彼女の謝罪を素直に受け入れる気持ちを持つ事が出来た。


 当時からずっと残っていた僅かなモヤモヤが晴れた気がする。



「すまんな。どうも年を重ねると涙もろくなってしまう。」



 少しばかり涙が出てきてしまったようだ。人前で涙を見せるのは、エイミーの話をアオイに打ち明けて以来だな。



「私からもお礼を言うよ。サクラさん、ありがとう。」



 アオイにしてみれば複雑な気持ちになるはずのこの手紙。それでも俺を思ってか、礼までしてくれるとは……出来た嫁だよまったく。



「恐れ多い事です。」


「さて、本題に移ろう。ナガツキ伯爵家に仕えたいという事で良かったのか?」


「はい! 是非お願い致します。」



 エイミー……本当にお前は娘に何を吹き込んだんだ?


 俺を見る目が、こう……熱狂的と言うか……ってちょっと待て。


 アオイを見る目にも熱が入り過ぎてやしないか?



「英雄と勇者に憧れがあるのか?」



 自分で聞くのもどうかとは思ったが、これは確認しておかないとマズい気がする。明らかに普通の人間に向ける目じゃない。



「英勇夫婦の活躍は全て網羅しております! いつ、どこで、どんな活躍をしたのか事細かに言えますし、お仕えするのですからお二方の好き嫌いなんかを事前に把握しておくのは当然のマナーです!」



 サクラの目は爛々と輝いている。


 どうするかな……正直、ちょっと雇いたくない。


 何だか若干の怖気を感じる。



「私の世界で言うところのオタクって感じなのかな?」


「何だそれは?」



 アオイには何やら心当たりがあるようで、サクラの態度に関しては違和感を抱いていないようだ。



「こっちの世界で言えば……信者? みたいな。」



 信者だと?


 神と俺を同列に語るのは大問題だろう……。



「素晴らしいですな! サクラさんは採用です!!」


「おい、ちょっと待っ……」

「英勇夫婦に対してこれ程敬意を持っているのですから、もう採用するしかありません!!」


「ありがとうございます! 誠心誠意お仕え致します!」



 勝手に決めるんじゃない。


 ウルサクとサクラの間でトントン拍子に話が進んでいき、既に雇用契約書まで書き始めている。



「いや、だから……」

「レイベルトはさ、何だかんだ言っても雇うつもりだったんでしょ?」



 手紙を読みながら涙を流しているアオイにそう言われ、思わず言葉を止めてしまう。



「そんな事はない。」


「気を遣ってくれてるんでしょ? ありがたいけど気にしないで。この手紙を読んで、それでも雇わないなんて私が言うはずないじゃん。」



 アオイは分かっているわと言わんばかりの顔で、うんうんと涙を拭って頷いている。



「確かに過ちを犯したかもしれないけど、この手紙からは真心が伝わってくる。私、こういう話に弱いのよ。」



 そう言って鼻をすする嫁。


 何で俺より泣いてんだよ。


 そしていつの間に手紙を読んだのか、泣き始めるウルサクとサクラ。



「お母ざん……私、頑張っでお仕えずるわ!」


「うぉぉぉぉん!! レイベルト様!! これは絶対雇わねばなりませんぞ!!」



 お前ら……人の手紙を勝手に回し読みするな。



 英雄と言われている俺だが、元々は一騎士家の出でしかない小市民だ。普通に周囲の人間からの評判や見え方を気にするし、場の空気に合わせようとしてしまう。


 何が言いたいかというと……もうサクラを雇うしかない。


 既に、雇いたくないとは言えない雰囲気が出来てしまっている。



 今となっては過ぎ去ってしまった一つの思い出、あの頃のエイミーの姿を思い描き、俺は呟いた。



「エイミー……まさか、こうなる事を計算してたんじゃないだろうな?」



 待っててくれよ……お前とは一人の幼馴染として、一度改めて話をしないといけないな?



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