表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雀羅(三十と一夜の短篇第83回)

作者: 錫 蒔隆

「世のなか善人ばかりではないんですから、そのスタイルでは窃盗被害が絶えませんよ」

「そのために防犯カメラをつけるんじゃないか」

「カメラは抑止になりますが、防御にはなりませんよ」

「そんなことを言ったら、きみの提案も絶対じゃないよね? バールなんかでガラスを割られたら、終わりじゃないか」

わが社が食品の無人販売所の事業を起ちあげるにあたって、私は口を酸っぱくして社長に忠告しつづけている。

冷蔵庫の開け閉めを自由にして、出入口に集金箱を設置しておく。無人の店内で客が商品を取って、セルフで合計金額を出して箱に入れる。「泥棒に追い銭じゃないですか」と批判し、料金の投入で鍵が解除される自動販売機の導入を主張した。

「それだと初期費用が掛かるし、メンテナンスだって大変だ。防犯カメラを死角のないよう四方八方につけることで、問題解決だ」

「防犯カメラのメンテナンスだって、ばかにならんでしょう?」

「きみの提案でも、防犯カメラは要るわけだからね」

「自動販売機なら、ダミーカメラで抑止効果は十分ですよ。鍵なしよりも、防犯性能は担保されるんですから」

「ダミーじゃ、犯人は捕まえられんだろう」

おっしゃるとおりだが、目的は犯人逮捕ではない。盗難防止である。自動販売機導入を主張すれば、自販機荒らしの話になる。「自販機にしたうえで、防犯カメラを設置すればよいのでは」と言えば、コストの話になる。社長の話は終始一貫しているが、整合性がまるで取れていない。

「そこまで善意ありきの商売に固執する理由って、いったいなんなんですか?」

「ぼくの小さいころはね、畑のなかに即売所があったんだよ。棚に野菜が置いてあって、一個百円って貼り紙がしてある。みんな律儀にね、お金を払ってゆくんだよ。ぼくは事業をとおして、ああいうやさしい社会を再現したいんだよ」


「じゃあ防犯カメラは?」と、私は言えなかった......。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 防犯カメラはノーカウント。 性善説ほど、捉え方の異なる考え方もそうそうないことを実感させられます。 主人公は現実主義者であるようですが、彼のなかの性善説は防犯カメラの存在も許さない。 […
[良い点] タイトル込みで、色々と考えがわき出てくるお話でした。社長さんが「死角なしに防犯カメラを置きたい」みたいなことを言ってたので、「見えざる視線のかすみ網」みたいな意味なのかなと。 [一言] こ…
[一言] 防犯を考え始めたら悪さをする人はあとをたたないわけで。 かといって性善説を唱えたところで被害があった場合、割を食うのはやられた側で。 なんだかなあ、って思うんですけど、そこで「じゃあ自分も盗…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ