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閑話 詩織の生活

 私は、修学旅行中の最中に、突然訳の分からない世界に連れてこられたみたい。


 今頃は某テーマパークで楽しく過ごして、色々な場所を観光して、そろそろ飛行機に乗って地元に戻る頃かしら?

 既にどれ程の日数が経過したか忘れたから、正確な事は分からないけれど、生活は一変したわ。


 未だに心が真実を受け入れていないけれど、認めざるを得ないわね。

 だって、魔法が使えてしまうのだから……


 私は何となく、手のひらにかなり力を抑えた状態で魔法を行使する。

 手のひらから立ち上る炎は、私自身に熱さを感じさせる事は無いけれど、確かに熱を帯びていると言う確信がある。


 その炎の形すら自由に扱えるようになっているので、城下町を見た時は日本と一瞬錯覚してしまったけれど、ここは異世界なのだ……と、いい加減に切り替えなくてはいけないのでしょうね。


 でも、この生活も悪くないのかもしれない。

 最高レベルのAには届かなかったみたいだけど、それに準ずるレベルのB。


 私達を案内している翠と言う女性はレベルAで、その母が私達と同じく召喚者、日本人だそうで、良く話を聞くと、このクイナ王国の王妃みたいなのよ。


 そうすると、レベルBを持つ私も、王族の仲間入りができるのではないかしら?


 今の私はかなり広い部屋で生活しているの。

 いくつもの部屋があり、お風呂もあったわ。


 それに、鈴を鳴らせば専属メイドがなんでもやってくれるのよ?

 日本ではあり得ない。


 こんな環境で生活が出来るのであれば、ずっとこの世界で生活をしても良いかもしれないわね。


 今の状態でこれほどの生活なのだから、王族になれればもっと素晴らしい生活になるのではないかしら。


 それに、共に召喚された昭もレベルはC。

 私と違って少し狭い部屋で、部屋数も少なかったけれども、それでも日本の生活よりも遥かに贅沢な暮らしをさせて貰えているの。


 唯一私と同じレベルになっていた陰気な宗次も、私と同じ大きさの部屋だったのは納得いかなかったわね。

 その部屋を昭と交換してほしかったので翠に進言したのだけれど、簡単に躱されてしまったわ。


 潜在レベル以下の実力しかつかなければ、部屋の交換も選択肢にあったようなのだけれど、忌々しい事に、宗次も潜在レベルと同じレベルに達したみたいなのよ。


 もう、何必死で頑張っているんだか!陰気なくせに。


 でも、私の機嫌はそう悪くはないわよ。


 何と言っても、日々の修練は少々辛い時もあるけれど、まるでお姫様のような生活。

 疲れたらマッサージをしてもらえるし、豪華な食事は出て来るし、学校なんて行かなくても良いし、良い事だらけ。


 将来私が王族になれるとしたら昭とはお別れするしかないけれど、それも仕方がない事ね。


 そうそう、それと姉の沙織。フフフ、笑っちゃうわね。

 専属メイドに話を聞くと、納屋で寝泊まりしているらしいのよ。


 もちろんお風呂なんてなし。食事も時折残り物を与えている程度だって。

 ホントに気分が良いわ。


 確かに、修練時に見る沙織の姿は日に日に痩せこけて、汚らしくなっていたから事実なのでしょうね。

 もう少しだけあのみじめな姿を堪能したら、追い出す事を進言してみようかしら?


 そして、残りのレベルのDとE。


 そんなレベルの者とは偶然か、普段からあまり付き合いがなかったからどうでもいいのだけれど、レベルDになると小さい個室が一つ、そして小さいお風呂があるだけで、メイドはいないみたい。


 レベルEになると、共同生活をしているのよ。

 みじめね。


 わざわざ異世界にまで連れてこられて、共同生活。

 フフフ、やっぱり私達とは全てが違うのね。


 決めたわ。私、この世界で生活する事にしましょう。


 どうせ送還については不確定要素があると言っていたし、できたとしても数十年後。

 そんな事に縋る位なら、今の生活を楽しんだ方がお得よ。


 そう心に決めた翌日、いつもの修練場で顔を合わせている三人に、私は自分の考えを伝える事にしたの。


「私決めたの。どうせ送還は出来なさそうだし、できたとしても数十年後で危険もあるでしょ?今の生活が出来るのであれば、私はこの世界で過ごす事にするわ。今更日本に未練はないし。でも、前に言っていた通り、確かに召喚された本当の理由である戦闘は未経験よ。でも、翠さんも無事に生活している訳でしょう?私達が勝手に想像している程の大変さじゃないと思わない?」


 暫く考え込んでいた三人だけれど、私の言う事に一理あると判断したのか、同意してくれたのよ。


「確かに、城下町は日本そっくりだし、魔法は使えるし、そもそも俺達はレベルBとCだ。それ程危険はないのかもしれない。そう考えると、むしろ楽しめると言った方が正しいのかもしれないな」

「昭と詩織の言う通りかもしれないな。俺も、何もしていない内に腰が引けていたかもしれない」

「ねぇ、実際の戦闘もたいした事が無ければ、時間ができるでしょ?今度は某テーマパークを作ってもらいましょうよ。私達、そこに向かうはずだったでしょ?私、皆と一緒にあるアトラクションに乗るのが夢だったのよ!」


 最後の由香里は、既に自分の願望を伝えてくる始末だったわ。

 でも、彼らの気持ちは私と同じになってくれたと確信出来て満足よ。


「でも、余計な人もいるけれど……あれはその内いなくなるでしょ?日に日に痩せて行っている様だし。私達の生活とは比較にならない、いいえ、日本にいた事よりも悪化しているのだから。だって、納屋と残飯よ?フフフ、どこまで持つかが楽しみね」

「お前をさんざんイジメ倒したのだから、その程度の罰は仕方がないだろうな」

「私も絶対にあの女を助ける事はしないわ」

「俺もだ」


 本当に素晴らしい一日ね。ここの所、全てが上手く回っている気がするわ。


 遊技施設も素晴らしかったし、ここでの生活に不満はないし、沙織はみじめなままだし、唯一気がかりだった三人共に私の意見に同調してくれて、この世界での生活を受け入れてくれた。


 言う事ないわね。

 こうなると、私達の力を欲している真の理由である戦闘が、危険な物でない事を祈るばかり。


 でも、その時はその時。

 少しでも危険を感じたら、レベルBとCの全力の力を使って逃げれば良いのよ。


 別に国家に所属しなくても、この力があれば標準以上の生活は出来るでしょうから。


 さ、今日もメイドにマッサージをしてもらいつつ、みじめな姉の話でも聞こうかしら。


 召喚当初は動揺して恨んだりもしたけれど、存外異世界での生活も悪くないと教えてくれた翠さんに感謝しなくてはいけないかもしれないわね。


 でも身の安全のために、修練だけはきちんとしておきましょう。

 日本と違って、実力が命と直結するのだから……油断だけはしないようにしなくてはいけないわ。

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