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三体の活動(鳥坊2)

「この私の目の前で……これ程の力のある結界を気付かれずに……あなた、本当に何者?まさかそのレベルF、偽装??」

「いいえ、それだけはないはずよ。召喚直後に鑑定しているから、偽装する暇もなかったはず」


 何故かいがみ合う二人が話し込む事態になっている。


「そんな事はどうでも良いでしょう?さっさと始めて下さい。そうそう、あの二人も結界は張っていませんから、頑張ってくださいね!」


 残念ながら、レベルBの宗次と、レベルCの美幸では、この場の結界を判別する事は出来ないのだが、目の前のレベルAの二人の発言から沙織の言っている事は事実だと判断した。


 今後どう動くかを考えているのか、誰も動こうとはしない。


「あれ?何もしないんですか?それはないでしょう。町の皆さんの家を平気で破壊したりするくせに……そっか!あなた達は痛みを知らずに育ってしまったから、他人の痛みが分からないんですね。では、少しでも理解できるように……そうですね、王城内部にも無関係の人はいるでしょうから、王城を破壊するわけには行かないですね。一先ずあなた。優香さんでしたっけ?少し痛い目を見て頂きましょうか」


 その言葉が終わった瞬間、優香は不可視の結界に叩きつけられていた。

 直ぐ横にいた翠でさえ、何をされたか一切分からなかった。


 翠の頬に、嫌な汗が流れる。


 突然攻撃された優香は結界に叩きつけられた際に意識を無くしているのか、力なく地上に落下している。


「あ、あなた、本当に何者?」


 何とか翠が口にした言葉。


「普通の人ですよ。貴方達と違って、きちんと痛みを知っている人です。次はあなたで……」

「ま、待ってちょうだい。わかりました。もう私はクイナ王国から出る事は致しません。即帰還するので、見逃していただけませんか?」


 流石にコレをみて健司は驚く。

 あの翠がプライドを捨てて負けを認めているのだ。


 恐らく、クイナ王国に帰れば対沙織の対策を整えて修一と共に攻撃してくるだろうとは思っているのだが、その時間を稼ぐためとは言え、こんな態度を取る翠を初めて見たのだ。


 自分の考えを伝えようとした健司。そう、こんな言葉に騙されるなと伝えようとしたのだが、その言葉を伝える前に沙織は翠の願いを切って捨てた。


「あなたは、あなたの我儘で住居や命を失った人々に同じ事を言えないでしょう?やはりあなたにも痛みを知って頂く必要はありますよ」


 その言葉の瞬間、翠から国家すら一瞬で滅ぼせるのではないかと思える程の魔法が沙織に向かって放たれた。

 稲妻が翠の体から溢れ、正に魔国リジドの王城を覆わんばかりの稲妻が沙織に向かって一気に収束したのだ。


 当然この魔法すら、沙織に着弾する前にかき消える。


「あなた、本当に何をしているの!何者なの!」


 最早絶叫の翠。

 その言葉の回答を聞く事なく、翠も仲良く優香の近くに吹き飛ばされて意識を失っている。


 王城からは、その騒ぎを聞きつけた兵士が溢れ出てきている。


「じゃあ私達はお邪魔でしょうから、少々お暇するわね。精々頑張ってね、お二人さん」


 王城には結界が作成されていないため、王城外のこの空間にも自由に行き来が出来る。

 そのため、兵士はこの場で立っている沙織、健司、宗次、美幸を囲うように広がっていた。


 しかし、そんな事はお構いなしとばかりに宣言した沙織は、その言葉通り健司と共に姿が消えた。


 鳥坊によって、視認できないように隠蔽されたのだ。

 悠々と歩いて結界の外に出る。


 中を確認すると兵士の一部が優香を救い出し、傍で倒れている翠に腕輪を嵌めている。

 レベルAを抑え込む腕輪は中々ないが、かなりの魔力を抑え込む事はできるので、その腕輪をされた時点で、翠はレベルC相当の力しか出せなくなっている。


 そして残りの兵士は、この場で立っている人質としての価値もない召喚者の二人、宗次と美幸に相対している。


 兵士の中にはレベルBもいるようで、自分の不利を悟った宗次と美幸は戦闘の意思がないと両手を上げて、そのまま開いている方の腕に腕輪をされていた。


 こうしてあっけなくクイナ王国と魔国リジドの戦闘とも言えない戦闘は終了した。


「ヒスイさん!」

「沙織じゃないか。いつの間に来ていたのかい?でも、ここは危険だ。私達も聖域ミラベルに避難しようと思っていたんだよ」


 鳥坊に案内されて、犬助と主にいるヒスイの元に向かった沙織と健司。


「えっと、クイナ王国の侵攻の件ですよね?もう大丈夫だと思いますよ」

「ヒスイさん、沙織ちゃんの言う通りです。クイナ王国は翠まで出てきましたが、あっけなく戦闘は終わって、捕虜になっていますよ」


 全てを伝えているわけではないが、嘘も言っていない。


「何だって?魔国リジドはそれほどの戦力を持っているのかい?だとすると、他の国家から一斉攻撃されるんじゃないかい?健司!」

「大丈夫ですよ、ヒスイさん。魔国リジドのレベルAも気絶して運ばれていますから、痛み分け……ですかね?それほど戦力差が有る訳ではないですよ」


 何が何だかよく分からないが避難の必要は無くなり、見かけ上は平穏な日常を取り戻す事が出来た魔国リジドだ。


 結果的に、クイナ王国は翠の身柄を確保する為に、多大な賠償を支払う事になっていた。


 既に、アーム王国との戦闘で大きな兵を失っていたクイナ王国にとっては、非常に痛手になったのだ。


 残念ながら、その身柄引き渡しの中には宗次と美幸は含まれていない。

 そもそも、クイナ王国側からの要求がなかったのだ。


 では、その二人はどのようにしているかと言うと……


 魔力を抑え込まれる抑制の腕輪をさせられたまま、完全に監視された状態で一切の自由は無い状態で、毎日休みなく過酷な労働をさせられていた。

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