二大連合の戦闘?
「おい晋、こりゃーちょっとまずいんじゃないか?」
「ああ、ここまで大々的になると、また俺達が駆り出される可能性があるだろうな」
突如として六国家が独自に同盟を組み、三大勢力として活動する事になったと公表された中、ギルドマスターの執務室ではレベルCパーティーと沙織がいた。
「まさか連合を組むとは。そうなると戦闘は非常に大きくなる。お前らも覚悟しておいた方が良いぞ」
「わかっているよ、晋。だが、今回の相手はアーム王国とその同盟国家の魔国リジドか」
晋や忠明、そして健司が悲し気に話をしている。
今での経験から、余りにも戦闘が激化すると、民、特に初めは冒険者が駆り出されるのだ。
そして今回は二国家対二国家。戦闘が激化しないわけがない。
「えっと、ごめんなさい。その、今回の戦闘の相手は魔国リジドなのですか?」
あまりこの世界の状況が理解できない沙織が思わず口を挟む。
なぜならば、魔国リジドには世話になったヒスイがいるからだ。
「あぁ、沙織ちゃんは良く知らなかったな。まず間違いなく、アーム王国と魔国リジドと戦闘になるだろうな。そうすると、俺達冒険者は戦闘要員として駆り出される」
「そんな……町の皆は安全なのですか?」
沙織以外の全員が少々視線を下げる。
意を決して、ギルドマスターの晋が沙織を見つめて、現実を告げる。
「いや、それぞれ国家中枢を狙いに行くから、その場所を囲っている町。今この俺達がいるような場所も無条件で戦闘に巻き込まれる。安全な場所は……町の中にはないだろうな」
「それじゃあ、ヒスイさんも巻き込まれるという事ですか?」
「……そうだ」
振り絞るように出した晋の答え。
しかし、沙織は何とかこの最悪の状態を改善しようとする。
その時……
「あら、こんな所にいたのですね、晋ギルドマスター」
何故か許可していないのに、執務室に堂々と入り込んで切る詩織パーティー。
「お話は聞かせて頂きました。皆さんがそのような心配をする必要はありません。この私達が皆様のために全力で対応させて頂きますので、この場所は安全ですよ、晋さん。あっ、そこの人は知りませんけどね」
さりげなく沙織を睨む詩織。残りの三人、昭、由香里、剛も続く。
「そうだぜ。千穂の安全は俺が保証する」
「お、言うね~昭。じゃあ俺も。理沙、お前は必ず俺が守るからな」
「フフ、忠明さんも全て私に任せて下さいね」
言われた四人は、露骨に嫌そうな顔をする。
そもそも、晋以外は相手がいるのに、その相手の目の前で露骨に口説いているのだ。
「それで、何の用だ?俺は入室を許可した覚えはないんだがな!」
当然晋が厳しく反応する。
「あら、翠さんからの緊急の指示ですから、問題ないはずですけど?」
そう言いつつ、詩織は晋に何やら手紙を渡す。
嫌そうに手紙を受け取り、その場で読む晋。もちろん読み進めると共に眉間の皺は深くなるばかりだ。
読み終わった晋は即叫ぶが、詩織は軽く流して見せる。
「なんで俺達がお前らと行動を共にする必要があるんだよ!」
「あら?良い事じゃありませんか。最も安全に作戦が行えるんですよ?さっさと地下に閉じ籠っている目障りな連中を始末して、幸せな時を過ごしましょうよ」
「何だ、晋!まさか俺達もこいつらと行動を共にするんじゃないだろうな?」
「健司、残念ながらその通りだが……お前だけ別行動の指示が出ている。俺達はアーム王国、お前と何故か沙織が魔国リジドだ」
つまり、健司と晋が入れ替わった状態のパーティーと詩織のパーティーが共に行動して、アーム王国の攻撃に備え、且つ侵攻すると言う任務になっていたのだ。
既に翠は、詩織達がどうすれば最も積極的に活動するかを把握しており、そのための策を練ったのだ。
残りの召喚者パーティーである宗次と美幸は、地底国家リアの担当としている。
「ふざけやがって……冒険者でもない沙織まで戦闘地域に向かわせるのかよ。ここまで露骨な事をして恥ずかしくないのか!」
憤慨する晋達だが、断ると言う選択肢は存在していない。
この町の民が人質と同じ状態になっているからだ。
何処の国家でも同じだが、ただの民は国民であるにもかかわらず国家中枢にとっては道具に過ぎない。
その道具の中で戦力のある者を自由に動かすためには、その他の道具はどうなっても構わないのだ。
その事実を知っている詩織達は、これで漸く邪魔者が始末できると考えており、すこぶる機嫌が良い。
この後は、再び翠の命令と言う体を取りパーティーを解散させ、自分達と個別に再結成を組むことにすれば良いと考えていたのだ。
最早相手の愛情を得る方法ではなく、強制的に常に共に行動させる方向に舵を切った。
「さっ、早く行動に移しましょう。早くしなければアーム王国が攻めて来ますから。晋さん!」
拳を握り込み、詩織を睨みつける晋。
レベルCのパーティーも、昭、剛、由香里を睨みつけていた。
「あいつら、互いに争いたきゃ勝手にやれ!俺達を巻き込むんじゃねーよ!」
健司も叫ぶが、どうしようもない事も知っている。
民とのふれあいが多い人程、抗えないからだ。
「久しぶりだな、沙織」
そこに現れた宗次と、少し後ろで黙っている美幸の二人のパーティー。
「俺達は魔国リジドの対策を行う事になった。だが、お前はしょせんレベルF。そっちのオッサンもレベルC。はっきり言って足手纏いだ。おっと、美幸は違うからな。同じレベルCでも格が違う。で、何が言いたいかと言うと、向こうまでは同行するが、後は勝手に野垂れ死んでくれ」
すっかり自分の力を認識し、日本にいた頃の態度とは打って変わって尊大な態度になっている宗次。
そんなやり取りを無視した状態の沙織は、打開策を表明する。
もちろん詩織や宗次達を完全に無視している状態だが、詳細が分からないように曖昧に伝える。
「聞いてください。晋さんに一体、ヒスイさんに一体、私に一体。これでどうでしょうか?」
沙織の話を聞いて、三体のぬいぐるみの力を思い出した晋とレベルCのパーティー。
あまりにふざけた手紙が来た事で、すっかり忘れていたのだ。
「そうか。そうだな。それで行こうか」
「確かにそれは助かる。だが、民を全員守るのも難しいかもしれないな」
喜ぶ晋とは違って、常に現場で活動している健司は少々懸念があるようだ。
しかし、この辺りを詰める時間は残されていなかった。
詩織や昭達が、翠の命令を笠に強引に一行を連れ出したのだ。
同じ話を投稿していまいました。
この話は、今年はこの投稿で最後、年明けに再会になります。
来年もよろしくお願いします!