地底国家リア
クイナ王国の安全確保のために、地底国家リアとの同盟を結ぶべく出立したセルフと、その護衛の詩織パーティー。
「まったく、なんで俺達がこんなお使いみたいな事をしなくちゃなんねーんだよ」
「まぁそう言うな、昭。今後は自由な時間も増えるし、ひょっとしたら国家の危機を救った英雄になれるかもしれないんだぞ。そうなると……理沙から。お前は千尋から羨望の眼差しで見られる可能性もある」
「剛、良い事言うじゃない。じゃあ私は忠明さんから感謝されるのね!」
「そうね、私の場合は晋さんがギルドマスターだから、今回の情報も掴んでいるでしょうし、感謝される可能性が高いわね」
全てを都合の良い方に考えられる、素晴らしいスキルを発動している四人のパーティー。
その四人と同行しているセルフは、既にこのパーティーの事情を把握している翠の言っていた通りだと辟易していた。
翠と修一は、この四人を再び手駒の中での最高戦力として活動させる必要があるので、今一度周辺を洗っていた。
ファントの一件もあるからだ。
その結果、それぞれがギルドマスターの晋や、レベルCの冒険者に意識が向いている事を把握していたので、今後自由時間を与えるという飴をぶら下げて、半ば強制的に護衛の任務につかせたのだ。
当然、対象の人物と詩織パーティーが結ばれる事は決してないと分かっているのだが、そこを突っ込んでは手駒として十分機能しない可能性があるので、あえて本人達には何も伝えずにいる。
少し前の、貴重な手駒である魔物のファントを失った事件では、レベルCの冒険者パーティーの一人、健司の翻意について詩織から話を受けていた翠。
その当時は、詩織一行の真の意図を知らずにファントを貸し出してしまった。
だが、全てを把握した今は、あの時も恋路のために虚実織り交ぜて戦力を出させたのだと理解している翠。
そのしたたかさに舌を巻くのだが、貴重な戦力を失った事実は変わらないので、明確な罰を与える事はしないが、今後は徹底して詩織パーティーを使い潰すつもりでいた。
その事実を全て知っているセルフ。
勝手な妄想を膨らませている四人に呆れていたのだ。
しかし、四人の実力は本物。
と言うよりも、レベルBとレベルCの力を完全に得るまで訓練させているので、道中の危険は一切有る訳がなかったのだ。
こうして地底国家リアの入り口である門に到着する一行。
どこの国家も同じだが、外周に設置されている防壁を潜る門は非常に監視が緩い。
他国の民が自由に交流できるのもこのためであり、セルフ一行も難なく地底国家リアに入る。
「うわっ、流石は地底国家と言うだけあるな」
昭が驚くのも当然で、日本からきた昭達は地底に住んだ経験はないからだ。
門を潜るとかなり高い天井ではある物の、ある意味閉塞空間になっている。
巨大な空間である為に息苦しさは一切ないのが救いだ。
「明るさも確保できているのね」
続く由香里も不思議そうな顔をしながら言葉を紡ぐ。
そんな彼らを遠巻きに見ている視線には一切気が付いてはいなかった。
そう、この地底国家リアには愛子パーティーが避難して生活しているのだ。
「おい、どうすんだよ!なんで安定して生活できるようになったって言うのに!」
「落ち着いて、正樹君。まだ私達を追って来たとは決まっていないわよ」
そう、由香里から手に入れた収納袋を取り返しに来たか、愛子による適当な恋に対するアドバイスにクレームを入れに来たかと思っているのだ。
パーティーリーダーである愛子は即座に決断する。
「とりあえず、今日の依頼は止めておきましょう。余計な事をして見つかると面倒よ。でも、宿に閉じこもるのはいいけれど、あの四人が何時までここにいるか分からないのは困るわね。俊彦君、少しお金を門番に渡して、あの四人が出て行ったら教えて貰えるようにお願いしておいて」
定期的に依頼を受けて活動している愛子パーティー。
以前のように周囲と軋轢を生むと非常にまずい結果になると今更ながら学んでいた為、門番とも非常に良い関係を築けていた。
そんな愛子一行に気が付きもしないセルフ一行は、ただひたすら王城を目指していた。
王城を囲っている防壁の警戒度は非常に高く、門で厳しいチェックを受ける事になる。
「既に連絡が行っていると思いますが、クイナ王国のセルフと申します。綾子様にお目通りをお願い致します」
門番に対し、セルフは丁寧に対応する。
セルフの言う通り既に話は通っており、何の問題もなく王城まで案内が付いた。
とある一室にて……
「お待ちしておりました。この度は遠い所を遥々とお疲れ様でした。私が地底国家リアの綾子です」
「ご丁寧にありがとうございます。私は今回の交渉を任されましたクイナ王国のセルフ。そして後ろは此度の召喚者パーティーです」
セルフの後ろで護衛として立っている詩織パーティーは、目の前にいる地底国家リアの重鎮である綾子を見て、翠や修一と同じ力を感じた。
そう、つまりは自分達では決して敵わないと言う力を。
そんな中でも、セルフは一切表情を変える事無く話を進めている。
結局、翠と修一の思惑通りに、綾子自身もアーム王国と魔国リジドの同盟は脅威に感じており、自らも同盟については積極的に考えていた。
こうして対等な条件、相互の危機には積極的に協力すると言う同盟が結ばれるのだ。
当然、即座に公にしなければいつアーム王国と魔国リジドが攻めて来るか分からない為、いつもの通りにわざと情報を漏らすのではなく、大々的に世界に公開した。
これで焦ったのが、残りの聖域ミラベルとリンド帝国だ。
この二国も、魔国リジドとアーム王国の同盟についての情報は掴んでおり、更にはクイナ王国と地底国家リアの同盟が突如公開されたので、慌てる。
互いに引き寄せられるように、なし崩し的に聖域ミラベルとリンド帝国も同盟を公表する事になったのだ。
結果的に、この世界の勢力は三大勢力として活動する事になった。
そんな喧騒は他人事である民。
その民が住んでいる場所で活動している愛子パーティーは、こんな会話をしていた。
「先生、門番の人から連絡があって、あいつらもう帰ったみたいなの」
「えっ、今日来たばかりなのに?何をしに来たのかしら?」
「良く分からないけど、王城に行ったらしいぜ」
「何にしろ、俺達を追ってきたわけではなかったらしいな。安心だ」