ギルドから納品された龍
ギルドマスターである晋に難癖を付けて詩織一行を取り戻すついでに、賠償金代わりに納品された極上の龍。
素材として有効活用され、クイナ王国軍の兵士用の攻撃用魔道具として生まれ変わっていた。
その魔道具の威力は正に絶大。
レベルB相当の攻撃力を誇っていたのだ。
その結果、忠誠心の高い兵と手間暇かかる召喚者では、前者が国益になるという事は誰でも理解できる為、今この時の詩織パーティーの扱いは、最強パーティーであるにもかかわらずあまり良いものではなかった。
兵士達は事前に自らに与えられた魔道具を試してその威力に酔いしれていたために、早く実戦で使用したいと待ちきれない表情をしている。
准将の開戦の合図と共に、目の前のアーム王国の領土に嬉々として攻め込む兵士達。
最後方に位置している詩織パーティーは、この場を動く事を許可されなかった。
ここで命令違反をすれば、各自が腕に付けている魔道具によって罰があると准将から念を押されているために強引に動く事も出来なかったのだ。
敵から軽い反撃はあるものの、高い攻撃力に物を言わせて順調に領土の奥に侵攻するクイナ王国の兵士達。
それに引きずられるように、最後方の准将と沙織パーティーもアーム王国の領土に入った。
その瞬間、そう、全員がアーム王国の領土に入った瞬間に、各箇所に隠されていた罠が全て起動した。
そしてなぜか、兵士達の攻撃力が激減したのだ。
実はこれ、全ての兵士がアーム王国に入った瞬間に起こったのはただの偶然で、亀吉により、遠方から魔道具に組み込まれた龍が無効化されたのだ。
核となる素材の龍が無効化されてしまったために、魔道具として機能しなくなっているのだ。
突然機能しなくなった魔道具。つまり、この場にいる兵はレベルBの精鋭ではなく、ただの雑魚の一団となり下がっていた。
そこに敵からの攻撃や、毒ガス噴射、地面から槍、突然の落とし穴、壁が大爆発と、全ての罠に見事にかかっていく兵士達。
必死に応戦しようと魔道具をふるうが、ただの物体を必死に振っているだけと言う始末。
准将としては、全ての高位魔道具を無効化する術を行使されたと判断した為、近くにいる四人の出撃を許可しようとしたのだ。
しかし、クイナ王国の一般の兵は既にアーム王国が設置した罠によって大きく数を減らしており、今尚継続して減少している。
冷静に戦局を見ていた准将は、レベルB相当の魔道具が完全に無効化されてしまった事から、今後は再び詩織パーティーが手駒の中での最大戦力となると即座に判断した。
流石に准将になるまでの男であり、的確な判断を下せるようだ。
もちろん戦局は相当不利になっており、僅かな兵と共に撤退命令が出された。
その結果、クイナ王国は貴重な兵士を多数失う事になり、当然その情報は他国にあっという間に流れ、複数の国家から領地を狙われる立場に成り下がったのだ。
「翠、まさかの事態だな。アーム王国もこんな手を隠し持っているとは。てっきり新たな龍を配備していると思っていたんだけどな」
「私もそう思っていました。あの魔道具を無効化するとは、相当な技術が必要なはず。龍の情報に踊らされて、真の情報を掴めなかったのが敗因ですね。ですが、今後は少々厄介になります」
魔道具が起動しなかった事は既に准将から報告を受けており、すっかりアーム王国の技術によって無効化されたと思っている二人。
そして、攻める立場が攻められる立場になる事は既に頭にある。
「そうだな。翠の言う通り俺達はかなりの兵を失った。その事実は既に他の国に流れているだろう。そうすると……アーム王国は当然として、最近掴んだ情報では、どうやら魔国リジドの二人、優香と桃子とアーム王国は上手くやっているようだから、魔国リジドは攻めて来る可能性が高いな」
「そうですか。共に地下国家。黙って地面に潜っていれば良いものを……」
この魔国リジドの二人と言われている優香と桃子も、最強戦力であるレベルA。
その二人とアーム王国が何やら裏で手を結んでいるらしいと言う情報を掴んだのだ。
しかし、その事実を掴んだのは本当に最近である為に、実際に手を組んだのも直近だろうと判断した。
その根拠は、前回のクイナ王国の領地奪還作戦時には助力する様子はなかったからだ。
今回は情報がまだ集まっていないが、ひょっとしたら魔国リジドの技術によって魔道具が無効化された可能性もあると言う事を考えていた二人。
「翠、もう六国家で争っている時代は終わりかもしれないな」
「そうですね、流石に私達も同時に二国家を相手に出来るほどの余裕はありません。今後はどこかと手を結ぶ必要があるでしょうね」
同盟についてはそう難しくはないと考えている。
なぜならば、他国も魔国リジドとアーム王国の関係は掴んでいるはずであり、その結果行きつく先は翠と修一の考えている事と同じ……単一国家では最早侵攻を防ぐ手段はないと言う結論に達すると思っているからだ。
「翠は何処だと思う?」
修一の問いは本当に簡単な問いかけだが、その内容は長い付き合いで良く分かっているので、どこの国家と手を結ぶべきかと聞いていると理解しており思案する。
今の所敵対していない国家は、レベルAが二人いる聖域ミラベル、そしてレベルAが一人いるリンド帝国と地底国家リアになる。
「地底国家リア……でしょうね」
「その根拠は?」
熟考の末結論を出した翠に対して、その考えを理解しようとする修一。
「恐らく地下国家である魔国リジドとアーム王国が手を結んでいるので、同じ地下国家である地底国家リアは直接的な脅威にさらされていると考えているはず」
地下国家の二つが手を結んでいる以上、同じ地下国家の領土を狙いに来る可能性は高く、対象となる地底国家リアの戦力は、レベルAの綾子ただ一人。
当然抑え込めるわけもなく、最悪は国家が滅亡する恐れさえある。
その惨事を防ぐために、容易に同盟を結べる可能性が高くなっていると判断したのだ。
その他の国家は、今のクイナ王国の現状を踏まえ、相当不利な条件で同盟を結ばされる可能性が高いとも判断していた。
「よし、それで行くか」
翠の考えに同意した修一は、早速同盟を結ぶべく人員を派遣する事にする。
翠と修一のいるクイナ王国も、正に直接戦闘をしたばかりのアーム王国と、その共闘国家である魔国リジドの脅威から即座に身を守らなくてはならないからだ。
こうして選抜されたのが、外交責任者であるセルフと言う男と、その護衛に詩織パーティーとなった。
もちろん詩織達は、クイナ王国を離れる事に相当難色を示したのだが……腕輪の話を持ち出されると共に、今後はある程度自由時間を与えると確約された事により、渋々ではあるが依頼を受ける事になった。