他国の間者
今回の召喚はクイナ王国の一人勝ちと言われており、実際にそう判断されている。
レベルBが二人もいた上に、その他もレベルCが多数いたからだ。
だが最新の情報では、レベルBの内の一人がギルドにて捕縛されており、更にはそのレベルBを筆頭としたレベルC三人も同じ場所にいると言う物だった。
現実的には既に翠の元にその戦力は戻っているが、そこまでの最新情報は得ていない。
もちろんその情報を得ているのは、領土拡大を虎視眈々と狙っている各国の中枢にいる人物、そう、それぞれの国家のレベルAとその側近達だ。
少し前に、アーム王国とクイナ王国との小競り合いが起こった事は有名だ。
国家中枢でなくとも、あれほどの戦闘が行われたのだから知られているのは当然だ。
そのため、国家運営に対して不安定になっていると想定される二か国に対しての諜報活動が活発化されていたのだ。
逆に言うと、その対象となっているアーム王国とクイナ王国としてもその程度は把握しており、既に隠せないようなレベルの情報については放置し、国家の機密情報を守りつつ、あわよくば偽の情報を掴ませようと躍起になっていた。
このように、相変わらず民の預かりしらない所で小競り合いが続いているこの世界。
その中でも、今回の標的とされている当事者のアーム王国では、何とか自分達の有利な情報を流そうと躍起になっていた。
その情報は一部真実が含まれているので、おまけをつけるだけで良かったのだ。
そう、アーム王国では龍を制御できており、戦力とする事が出来ている……と。
実際は居眠りをしている龍を偶然見つけたれレベルAの宏美を筆頭とした国家中枢の一行が、一気に急襲して手に入れる事が出来た貴重な一体だったのだが。
しかし実際に誰の目から見ても龍が戦闘に使われたのは明らかであり、その素材もギルドを通してクイナ王国に流れ、魔道具の素材となって市場に出回っているのだ。
本来は市場に出るべきものでは無いのだが、それ以上の素材を手に入れた翠の指示により、急遽市場で販売される事が決定したという経緯がある。
「翠の所、私達の龍の素材を使用した魔道具を市場に流しているようですね」
ここは、アーム王国のとある一室。
もちろん話をしているのは、このアーム王国で唯一のレベルAである宏美だ。
少し前の戦闘では、クイナ王国の召喚者達にダメージを与える事が出来たのだが、流石に高レベルの者達が全て無事だったのは想定できていなかった。
その上に、龍の素材の魔道具を市場に流して利益を得ているのだから、敵に想定以上の利益を与えてしまった事になっている。
「ですが、我らはその魔道具を購入するのは禁止します。そうでなければ、我がアーム王国が龍を使役している、管理下に置けているという話の信憑性が疑われるからです」
他国に有利な情報、即ちアーム王国が脅威であるという情報を流すための作戦だが、残念ながらリスクも存在している。
本来手に入れる事が容易な高レベルの魔道具を手に入れる事が出来ないのだ。
宏美の言っている通りに、ここでアーム王国が龍を素材として作成した魔道具、もちろんアーム王国が保持していた龍と知れ渡っている魔道具を躍起になって購入すれば、明らかにアーム王国が龍を制御できていない、龍を使役できていないという査証になってしまうのだ。
「宏美様、既にその指示はしています。ですがクイナ王国の連中……我らアーム王国の龍を素材とした魔道具を市場に流す事を不審に思いまして調査をしましたところ、どうやら冒険者達が、我らが保持していた龍よりも遥かに上位の個体、更には上質な状態で国家に納品したようです」
「ばかな!あの龍よりも上位の存在を上質な状態だと?」
この場が荒れる。
もちろんクイナ王国の新たな龍については、ギルドマスターである晋が翠の訳の分からない賠償のために納品した物だ。
あれだけ大々的に運搬したので、かなりの噂になっていた。
「落ち着きなさい。翠の所が龍を仕入れていたという話は当然知っています。ですが、それは一体だけ。継続的に納品される事が無いように監視をつけています。もしも、あのレベルの龍が継続的に翠の手元に行ってしまえば、正直我々は厳しい立場になるでしょう。ですから、もし複数回このようなことがあるのであれば、その入手方法を何としても仕入れ、我らも戦力補強をするのです」
この言葉は、既に晋に対して監視が付いているという事を意味している。
しかしこの監視、一般の冒険者に頼んでいるだけなので怪しまれる事は無い代わりに、隠蔽されてしまうと看破できないリスクもある。
今この場で高レベルの者による監視をつけて、アーム王国側の焦りを知られるわけには行かなかったのだ。
こうして、アーム王国側としては虚実織り交ぜた情報、つまりは複数の龍を保持しているという情報をさりげなく流す事、クイナ王国のギルド、特に晋に対しての監視を継続して行う事でこの場はお開きとなった。