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晋と沙織の対応(3)

 晋は、心底腹が立つ相手ではあるのだが、何とか今回の件の交渉をするために翠と連絡を取っている。


 そう、賠償金の物納だ。


 おそらく許可されるだろうと思っているが、ここまで良い素材である龍を納品する以上、その素材を元に開発される魔道具によって、クイナ王国の戦力が飛躍的に上昇してしまう懸念があった。

 そうなると、積極的に他国に粉をかけるのは火を見るよりも明らかだ。


 先日、ぬいぐるみの力を明らかにしてもらった時、そこまで話をしたのだが、沙織は事も無げに解決策を提示して見せた。


「えっと、それでしたらば、納品後の処理が終わった時点でその龍を消滅させることもできますよ?」


 たとえ加工後であったとしても、龍の部分だけを消せると言うのだ。

 俄には信じられない話ではあるが、信じられない事象を既に複数見せられているので、その案に乗る事にした。


 ただし賠償について物納で認められた後、想定通りであれば差額の一億円を受領した後で実行する事にしたのだ。

 この額は、晋が翠に今回の一件で賠償として提示した額であり、最終的には晋の思惑通りに事が運ぶ事になる。


「これは・・・・・・成程、素晴らしいですね。これであれば確かにギルドマスターの仰る通り三億円で良いでしょう。賠償金を引いて、一億円、お支払いしますよ。ですが、これ程の素材、どのようにして入手したのですか?しかもこの短期間に。私達が持っている収納袋では、この巨体は入りませんし・・・・・・今のギルドに保管する術もないでしょう。とても気になりますね」


 晋は王城の倉庫に翠と共にいる。

 あの竜の納品の為に、来たくもない王城に来ているのだ。


 途中人気の無い場所までは亀吉の魔法で収納してもらい、そこからは健司パーティーを含む冒険者一行によって持ち運ばれたのだ。


 今にも動き出しそうなほどの鮮度の良い龍を確認した王城の門番は、以前の晋達と同じく、腰が引けつつも必死で戦闘態勢を取っていたのだ。

 長い胴体を結構な人数の冒険者が持っているのだから、まるでうねりながら移動しているように見えたのだろう。


「企業秘密ですよ」


 翠の当然の問いかけに、何も話すことは無いと突き放す晋。


「では情報料として、報奨金を上乗せして二億円をお支払いしますが?」


 あっさりとは引き下がらない翠。

 これだけの素材を得た事も魅力的だが、この素材を継続して入手できればなお良いと思っているのだ。


 翠は実際に目の前の龍をみて、自分ですら太刀打ちできないだろうと確信している事、そして戦闘の形跡がない程美しい状態である事から、誰かが仕留めたとは思っていない。

 自分や修一のレベルAがこの世界の最高戦力である自負があるからだ。


 つまり、自分ですら到底倒す事ができない龍を、容易く手に入れる手法があると確信していたのだ。


「ですから、企業秘密です」


 報奨金の上乗せにも全く乗ってこない晋の姿を見て、これ以上の交渉は無意味と判断して次の手を打つ事にした。


 翠は、見た事のない最上級の素材が目の前にあるので、すっかり沙織と健司の扱いについては頭から抜けていたのだ。


「わかりました。では、差額の一億円、本日中にはお渡ししますよ」


 流石に国家中枢ともなれば、一億円程度は難なく支払えるようで、即日に渡してくれると言ってのけた。


「これで決着ですね。では私はこれで失礼します」


 全てが上手くいったので、翠と同じ空気を吸いたくないと思っている晋は速足でこの場を後にする。


「ベクタ、あの男の後をつけなさい」

「承知しました」


 翠にベクタと呼ばれた男、姿は朧気で存在が希薄だ。

 もちろん翠に従っている諜報部隊の一人であり、レベルはB。


 レベルCの晋相手であれば、その存在を気取られる事無く情報を得られると判断したのだ。


「戻ったぞ!」


 納品が終わった晋と、龍を持ち運ぶ依頼を受けていた健司のパーティーを含む冒険者がギルドに戻ってきた。


「おかえりなさい!」


 ここには、晋の指示によって一人で待っていた沙織がいた。

 詩織一行も同時に王城に放り投げてきたので、沙織を共に王城に向かわせるのは良くないと判断した晋の配慮によるものだ。


 その後、最早普段の作業とでも言わんばかりに、沙織と健司のパーティーは晋と共にギルドマスターの執務室で話をしている。

 だが、この場には招かざる客が一人いる事に、亀吉と鳥坊から教えてもらっている沙織以外は気が付かない。


「思いのほか上手くいったぞ。間も無く差額の一億円がギルドに入って来るだろう。その後は・・・・・・」

「待ってください、晋さん」


 突然沙織が晋の話を切った。


 普段、人の話はきちんと最後まで聞く沙織がこのような行動に出たため、何が言いたいかを把握した晋と健司のパーティー。


「あぁ、理解した。お前らも大丈夫か?」


 沙織の意図を汲み取った晋が健司のパーティーに確認すると、四人も黙って頷く。


「ふむ。早いな。どうするか?まさかここまでとはな」

「えっと、明らかにしましょうか?」


 晋の問いかけに、沙織はあっさりと打開策を告げる。

 この場にいる男、ベクタに明確に意図を悟られないように中途半端な表現ではあるのだが、彼らの間では十分意思疎通は行える。


 そのまま、対策について中途半端な表現ながら話は進む。


「そうだな。色々やりにくいしな。そうしてもらった方が良いか?」

「そうなると、その後の処理はどうする?」

「決まっているだろう?どうしよもないからな。だが、警戒されるのは間違いないな」


 今この場では、晋、健司、忠明だけが話しているのだが、残りのメンバーも言わんとしている事は理解している。

 つまり。始末すると言う事だ。


 わかっていながら異を唱えないので、結局ベクタの行く末はあっという間に決定した。


「じゃあ沙織ちゃん、頼んで良いか?」

「わかりました。亀吉、良いかな?」


 ギルドに晋と共に同行していた亀吉が力を軽く行使すると、既に動けない状態になっている諜報部隊のベクタが床に転がされた。

 

 ベクタ自身、何時、どのようにして調査対象の前に姿を晒されているのか理解する事は無かった。

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