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晋と沙織の対応(1)

「あのクソ(アマ)。調子に乗りやがって!」


 ギルドマスターの執務室で荒れる晋。


「落ち着け晋。だが、まさかあの翠がこんな行動を取るとはな」

「確かに珍しい。それほど健司、おまえと・・・・・・スマンが、沙織ちゃんが邪魔なんだろうな。理由はわからんが」 

「晋君、まさかその要求飲むんじゃないでしょうね?」

「コラ、千尋。バカな事言わないの。そんな事晋君がするわけがないでしょう?」


 沙織以外が思い思いに口を開いている。


「だが、あのクソ召喚者パーティーだけの行動ならば理由はわからなくもないが、翠まで絡んでくるのはなぜだ?」


 今までの詩織一行の行動から、不本意ながら明らかに自分達が恋愛的な物で狙われている事は理解している晋、忠明、千尋、理沙だが、そこに国家中枢の翠が噛んでくる意味が分からないのだ。


 沙織以外のこの場のメンバーの翠に対する印象は、国家拡大にしか興味がない堅物であり、民はどうでも良い道具。当然戦力である召喚者も道具だ。


 そんな道具同士の痴話喧嘩とも言えなくもない下らない争いに、首を突っ込むような人物ではないのだ。


「すまない。完全に対応を誤った。だが、沙織ちゃんは安心してくれ。絶対に君をあいつに引き渡すような事はしない」


 沙織としては、薬草採取のルーチンが途絶えてしまう事以外には、別段王城側に戻されても問題ないと思っていた。

 何と言っても最強の味方がいるのだから。


 だが、健司まで連れていかれてしまうのであれば、人知れずその身を守る事は簡単だが、残されたパーティー、特に恋人である理沙の事を思えば承諾できなかったのだ。


 それに、最強の味方がいるとは言え、犬助は未だヒスイの元におり戻ってきていない。

 多方向に対応する必要が生じた場合には、後手になる可能性も捨てきれないのだ。


「あの……詩織ですが、以前から悪知恵だけは働いていました。自分の為に他人を平気で動かせるのです。そのせいかもしれませんね」


 この場にいる人物は翠の事を良く知っているが、詩織の事は知らない。

 逆に沙織は姉妹であるが故に、詩織の事をその身をもって嫌という程経験したので理解しているのだ。


 その見解をこの場に披露した。


「・・・・・・あの翠すら手玉に取ったと言う事か?」

「ちょっと信じられないが・・・・・・いや、国家拡大にしか興味のない堅物程度、騙すのは簡単なのか?」


 晋と健司が唸っている。

 だが、そんな不毛な話をしても何も解決はしないので、新たに対策について頭を切り替える。


「それで、賠償金の2億円。ギルドから出そうと思う」

「・・・・・・そうか。あのファント六体。その一部に補填するんだろ?」


 晋の決定に対して異を唱えないが、確認をする健司。


「いや、あれは既に翠に回収された。だから、あの六体を採取場から回収した冒険者の報酬は完全にギルドの持ち出した」


 黙る一同。

 沙織に至ってはギルドの懐事情が全く分からないので、当然何も言えない。

 だが、周囲の様子から、ギルドにとっても相当な痛手である事は感じていた。


「じゃあ、俺達の買い取りは暫く無料で良いぜ」

「スマンな」


 沙織には理解できない会話が健司と晋の間でなされる。

 理解できていないと言う思いが沙織の表情に出ていたのか、その内バレると思っていた理沙が隠す必要はないと判断して、沙織に詳しく状況を説明してくれた。


「沙織ちゃん、ギルドの資金は冒険者達の獣の納品時に支払われる物でもあり、職員の給料でもあるのよ。それと、万が一の時の対策準備金でもあるわ。そのお金を一気に使うのだから、そこそこの獣を納品した場合には報奨金が足りなくなっちゃうのよ。だからウチのリーダー、報酬は無料で良いと言っているのよ」

「そうそう、理沙の言うとおりね。私達パーティーはこう見えて結構蓄えがあるから、暫く報酬無しでも問題ないわ」


 千尋も同意するように、明るく沙織に話している。


 その話を黙って聞いている方の沙織は、ギルドの状態が一気に悪化するくらいは理解できていた。

 と同時に、健司のパーティーが無償で獣を納品する事に思う所があったのだ。


 そもそも健司のパーティーはレベルCであるため、かなり危険度の高い獣の討伐に向かう事が多々ある。

 命を懸けて獣を民の為に刈り取り、その報酬がゼロ。

 納得できるわけがない。


 ここまでに至った原因は自分の妹である詩織のせいだと確信しているので、何とか自分も力になりたかったのだ。


「あの、その二億円ですが、私に稼がせてもらえないでしょうか?」

「アハハ、気持ちだけ受け取っておくよ。期限もあるし、無理しないでくれ。でも、ありがとうな、沙織ちゃん」


 普通に考えれば、どこからどう見てもレベルFの沙織が短期間で二億円を稼ぐなど不可能なので、その優しい気持ちに感謝しつつも、晋が軽く流しつつ沙織の頭を優しくポンポンと叩く。


 健司のパーティー一行も、優しい目で沙織を見つめている。


 だが、これ以上無い程に沙織は真剣だ。


「あの、冗談で言っている訳ではありません。以前の龍・・・・・・7千万円だったと聞いていますので、三体あれば十分ですよね?」


 全く引かないばかりか、レベルAでも負ける時があると言われている龍を三体準備すると言っている沙織。


「えっと、沙織ちゃん?確かにアーム王国が準備していたと思われる龍は7千万円だったみたいよ。でも・・・・・・その、言いにくいけど、結構非情な作戦が実施されて、かなりの高レベルの人達が亡くなっているのよ」

「そうよ、私達でも手も足も出ないのよ。そんな危険な事考えないで」


 同性の二人が、少々強く沙織を諭そうとする。


 だが、そこまでしても沙織は一切引く気がなかったのだ。

 ここまで自分を配慮してくれた人達に何とか報いたいと言う一心から、秘密を明かす事を決意した。


「あの、私は本気です。でも、皆さんが思っているように私自身が何かをする訳ではないんです。亀吉、鳥坊、良いかな?」


 沙織の掛け声に対して、二体はチョコチョコと肩から降りて机に移動した。


「今まで皆さんに隠していた事があります」


 いつもホンワカしている雰囲気の沙織が、見た事もない程の真剣な表情をしているので、思わず口を噤み、無意識に姿勢を正す健司のパーティーと晋。


「先日ファント?と言う獣を討伐して、想定よりも遥かに弱かったと仰っていた件ですが、それはこの二体の力による物です。皆さんの安全を確保するために力を使うように指示を出していました」


 ヒスイが信頼している沙織が嘘をつくわけがないと信じているこの場の五人。

 そもそも、短い時間ではあるが直接沙織の人柄に触れ、ヒスイと同じ気持ちになっているのだが、その言葉をかみ砕くのに時間が必要になっていた。

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