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薬草採取(3)

 薬草採取場の上空に、突然大きな音が鳴り響く。


 その音を聞いた由香里は目の前にいる獣の意識を魔道具で覚醒させ、上空に意識が向いている忠明の方に移動させると、大きく距離を取る。


「何だ、この音は!警戒しろ」

「おそらく魔法だ。油断するなよ」


 経験豊かな二人は徐々に互いの距離を近づけて死角を無くすように移動しつつも、音がした上空に意識の大半を持って行く。

 全ての意識でない所が熟練の冒険者だ。


 その残った意識で、地上から自分達に接近してきている獣の気配を各自が感じ取った。


「チッ、上空は陽動か!」

「知恵の回る獣か?」


 実際の魔法は詩織が放ったものなのだが、もしこのような行動を取れる獣であれば、かなり知能レベルが高い。

 即ち、危険度が一気に増すという事だ。


「あいつは!」


 獣の姿を視認した健司が驚きの声を上げる。

 二人は、自分に向かってくる獣から視線を外さずに情報交換を行う。


「忠明、良く聞け。あいつはレベルBだ。魔法はほとんど無効化される。近接で物理攻撃しろ。だが、あいつもかなり動きが早いから気を付けろ」

「すぐに片付けて、そっちに行く。それまで持ちこたえろ!くたばるなよ?」


 忠明は、健司の元には同じ種類の二体の獣が向かっている事を把握しているので、何とか自分の元に来ている一体の獣を一刻も早く始末して、健司の応援に駆け付けるつもりだったのだ。


 だが、気合とは裏腹に現実は厳しい事を知っている。


 健司からの情報では目の前に迫っている獣はレベルB。

 今までの経験からも、獣の風貌から間違いないだろうと判断していた。


 正直レベルCの自分では歯が立たないのは分かっているのだが、何とか打開策を考えながらも、手加減できる相手ではないので、全力で初撃を叩き込む。


 その攻撃が獣に直撃するが、効果があったかすら確認せずに、一気に離脱する。


 これは、このパーティーが長年の経験から培った業であり、格上の相手をする時の戦闘方法の一つだ。

 全力で攻撃し、即大きく離脱。


 途中に余計な行動を挟まない事で、少しでも安全に距離を取るようにしている。


 本来は攻撃が当たって敵に少なくないダメージがあった場合は、その流れで連続攻撃を行うのが正しい。

 しかし、格上でそのように欲をかくと、自分が思った程には敵にダメージを与えていない可能性があり、反撃をされた際に退避する事が出来なくなるのだ。


 こうして過剰ともいえる距離を採った忠明は、再び攻撃せんと敵を見据える……のだが、何故か敵は倒れ伏している。


 細かく考えている暇がない事は分かっている忠明は、倒れ伏している獣の生死の確認はせずに、即座に倒れ伏している獣に近接して確実に止めを刺すと、そのまま健司の応援に向かうために移動する。


 態々生死の確認をする時間が惜しかったのだ。

 万が一、死んだふりをしていた場合にはその時だ!と思って、思い切って行動した。


 だが、その行動は全て無駄であったと知った。

 移動先の健司の足元には、既に二体の獣が横たわっていたからだ。

 もちろん見た限り、健司には傷一つない。


「おい健司、良かったじゃないか。というか、本当にレベルBかこれ?」

「あっ、あぁ、レベルBなのは間違いない。だが、お前が疑うのもわかる。あまりにもあっけなさすぎる。そもそもレベルCの俺が無傷で二体を倒せるわけがない。何か……元から弱っていたか、何かしらの原因があるはずだ」


 健司も、自分は最早助からないと覚悟をしていたので、少しでも忠明の助けになるために一体でも多く始末しようと、自爆覚悟で猛攻を仕掛けたのだ。


 その結果、敵の二体の獣はなすすべなく、正直何の手ごたえもなく倒れ伏しているのが現状だ。


 その姿を見て呆けている健司と忠明、そして森の中で出番を待っていた由香里と、万が一の時に健司に攻撃を仕掛けるつもりであった詩織。


 詩織は、こうなってしまった時の対策として態々覆面まで準備して攻撃準備をしていたのだが、翠から聞いていたレベルBの獣がこうもあっさり片付けられてしまったので、このまま獣と同一レベルであるレベルBの自分が攻撃をしても返り討ちにあう可能性が高いと思い、攻撃を躊躇していたのだ。


 実際に詩織は、翠からこの獣の攻撃力を見せて貰っていた。

 確かにレベルBの自分と同等か、場合によってはそれ以上の力を発揮できているのを、その目で確認していたのだ。


 その獣が、手も足も出ずに始末された。

 獣の動きが遅かった気がしない事もないが、結果が全てを物語っている。


 これまでにある程度の経験を積んできていた詩織は、最終的にここで健司に攻撃を仕掛けるのは悪手であると判断した。

 こうして、薬草採取場の依頼も問題なく終了する事が出来ていた。


「こいつは少し持って行くか」


 健司は、討伐証明として一体の獣の一部を剥ぎ取って、手持ちの収納袋に入れていた。


「健司は、やっぱりこの獣の事を知っていたんだな」


 その行動を見て、忠明が呟く。

 ギルドに報告する際には、どのような種類の獣だったかを証明する討伐証明部位が獣ごとに設定されている。


 何気にその部位が、一番買い取り額が高かったりするので、冒険者としてはありがたい限りなのだが……


 その討伐証明部位と思われる部分を何の迷いもなく剥ぎ取って見せたのだから、こう思うのも仕方がない。ちなみに健司が使っている収納袋は、詩織達が持っている物とは全くレベルの異なる物で、さほど大きい物は入らないが、それでも非常に高価な物だ。


「じゃあ行くか」

「あぁ、そうだな」


 少し前には自らの命を捨てる覚悟をして見せた熟練の冒険者は、何事もなかったかのようにこの場を後にする。


「だが忠明、あんな獣は今まではいなかった。そもそも、あの獣はこの辺りには生息していないし、過去の目撃情報もない」

「そりゃそうだろうよ。レベルBの目撃情報があるなら、あの薬草採取場は閉鎖されるだろうからな」


「つまり、今回は誰かが仕組んだという事だ。晋の推理通りなら、召喚者パーティーが絡んでいると見て間違いなさそうだが、その姿は未だに見えない」

「確かにな。まっ、結果的には鬱陶しい物体を視界に入れずに済んで良かったんじゃないか?」


 そんな会話がなされている頃、薬草採取場の目立つ場所には詩織と由香里が倒れていた。

 第二選択肢と言われている薬草採取場と同様に、亀吉が二人を攻撃し、移動しておいたのだ。


 もちろん攻撃を受けた二人は、何が起きたか分からないし、目覚めても何も理解する事は出来ないだろう。作戦が失敗した事を除いては……


 ギルドに戻った二つに分断されたパーティーを迎えたのは当然晋。

 軽く状況を聞くと、すかさず他の複数のパーティーに対して既に息絶えている獣であるファントの収集を命じた。

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